夏日(序章)
それは、夏の盛りだった。
「よーい、スタート」
そういう声がきこえると、私は、ボートを漕ぎだした。
となりでは、若いカップルがスワンボートに乗りながらぺちゃくちゃしゃべっている。僕はそれを横目にボートをひたすら漕いでいた。大河はきらめき、太陽はサンサンと輝いていた。
僕は一人で広く、碧い《あおい》湖の仲をただひたすら、こいでいた。何十mがこいだだろうか。突然、カップルの男のほうが、「今何時ですか?」ときいた。すると、私は金の腕時計をして、「正午過ぎですね。」といった。すると、女が「やばい、もう昼休みすぎてる。」といい、ものすごいスピードでスワンボートを漕いで行った…。
「ハーイ、カット」と男性の声が聞こえた。
「エキストラの皆様お疲れ様です。もう上がっていいですよ」初老の男が男が声をかけた。
自己紹介がまだであった。私の名は高松雄太。17才。近くの高校に通っていた。
当時、私は、大学の受験勉強真っ最中だった。志望校は東・京・早・MARCHと早い段階決めており、1年ぐらい前から平日は、毎日塾か予備校へ行き、休日は、朝から深夜まで、勉強ばかりしていた。
そんな自己紹介はいいから、この状況を説明してくれ。と言う人もだろうから、説明せねばならない。
これは、映画「平凡女とイケメン王子」と言う映画の撮影だ。たしか、大ベストセラーのライトノベルが原作で、監督、枝尾圭さんと言う恋愛映画の大家と呼ばれる人が務めていたし、主演も、伊東勝さん(これは、さっきしゃべりかけた男の方)と、南花梨さん(これは、女の人の方)というこれまた、有名な俳優さんで・・・。
え、話が説明から脱線しているって、ごめんごめん。
では、なぜ、こんな大作に勉強漬けの私が出ていたのかを説明しなければならない。
実は、私が通っている塾が、この映画の後援をしていた。そこで、気分転換にもなるので、数人端役として出てくれというものだった。別に役者の仕事に食おうみがないので出る気はなかったのだが、募集要項のすみに、「エキストラに応募する者は、夏季特別講習の授業料免除。さらに、出演すれば、試写会ご招待の上、九月から開始の『大学別1対1プレミアムコース』に10大学分無料招待」とあった。このコースは、受けた人の九割は志望校へ行けると評判であったが、費用がかなり高かった。それをタダで受けられるなら、一日ぐらい棒に振ってもいいかなという軽い気持ちで参加した。幸い皆夏休みなので、勉強に集中していたらしく参加者は数えるほどだったので、余裕でエキストラ枠を獲得した。
そういうわけで、私は今、この状況にいるわけである。
私は、空を見上げた。その日は雲一つない快晴で、太陽の光が、照明のように輝いていた。
「ああ、たまにはをながめるのもいいな。」そう思っていた。
私この光景が、いつまでも続くものと思っていた。
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