第9話 「第四区の男」


 俺の容態が悪いことを心配して、早めに宿に向かおうということになった。


 宿は大通りから三本いった先。大熊の樹洞亭。『昨日』俺たちが泊まった場所だ。


 同じ部屋を頼むと、やはりベッドがふたつ。


 内装までまったく同じだ。


 ここまで来ると、さすがに俺もあれが夢ではなかったのだと思うようになった。


 リルネやスターシアに俺を騙す理由もない。


 となると……、やっぱり俺は昨夜死んでしまったんだろう。


 俺は喉元と手首をさする。


 ひどく生々しい感触だった。


 しばらく先までたっぷりとリフレインを楽しめそうだぜ。くそう。


「ねえ、ジン、さっきから様子が変よ」

「どうされたんですか……?」


 ベッドに腰かけた俺に、リルネとスターシアがそれぞれ問いかけてくる。


 ああ、ふたりにもだいぶ心配をかけちまったんだな……。


 俺は顔を手で押さえた。


「あのさ、ふたりとも……、笑わないで聞いてくれるか」

「なによ、まず言ってみなさいよ」


 リルネはドンと胸を叩く。


 スターシアも真剣な顔でコクコクとうなずいていてくれる。


 俺は口を開いた。


「……どうやら俺、同じ日を繰り返したみたいなんだ」




 そう語ると、スターシアは口元を押さえて驚いていた。


 まあ、突拍子もないよな、こんな話。


 だが、リルネひとりは神妙な顔で顎に手を当てる。


「それは、時間軸をっていうことよね」

「……ああ、まあそういうことなのかもしれないな」

「ふむ」


 リルネはなにかを考え込んでいるようだ。


 俺は意外だった。


 彼女は目で見たもの以外は信じないタイプだと思っていた。


「……こんな突拍子もない話を、信じるのか?」

「別に最初から信じているわけじゃないわ。でもあんたは。宿の場所もね。そこに違和感があったのよ。あんたの言い分が正しければ、説明はつくわ」


 俺は面食らった。


 リルネはそんなところまで、よく見ているものだ。


、ボロは出していないようだしね」

「本当のことだっての……」

「信じるか信じないかはあたしが決めるわ。だから、あんたはなにがあったかを聞かせてちょうだい」


 リルネの横で、スターシアも静かにうなずいている。


「……ああ」


 俺は彼女たちに、俺が味わった出来事を説明した。


 深夜に火事が発生したこと。リルネとスターシアを置いて、スラム街のほうへと走っていったこと。


 そこで大勢の死体を見て、謎の男に斬り殺されたこと。


 そして、気が付けばきょうの朝に巻き戻っていたこと――。


 語り終えると、リルネはしばらく黙考していた。


「なるほどね」


 考えるときの癖なのだろうか、髪をいじっていたリルネは、指を三本立てた。


「今のところ考えられる可能性は、三通りあるわ。スターシア、紙とペンをもらえる?」

「はい、ただいま」


 スターシアはガサガサとバッグの中からボールペンとメモ用紙を取り出す。どちらも俺が現代の無印良品で買ってきたものだ。


 リルネはペンを滑らせる。


 その文字はこの世界の言葉だ。俺には読めなかったりする。


「まずひとつは、この街であの黒衣のやつがなにかをしでかしていること。少なくとも、スターシアの未来眼によって何者かがこの街に潜んでいることはわかっているのだから。そして、そのせいであんたがループする結果になった」

「でもなんで俺だけが」

「あたしもそうなっているかもしれないわ。たまたま死んだのがあんたというだけで」


 俺とリルネは、メサイアと呼ばれていた。


 俺たちだけが影響されるなにかがあると考えるのは、まあ、おかしくはない、のかな……?


 首をひねる俺を見て、リルネは話を進める。


「推理材料が不足しているのは認めるわ。次に、聖女の力がなんらかの効果を及ぼしているということ」

「……ああ、聖眼ってやつか」

「この街の誰かを死の淵から救う力だとかね。この線はあまり考えていても仕方がない話だけど」


 最後に、とリルネは三番目の文を書く。


「ジン自身に隠された力がある、という可能性」


 リルネのエメラルドグリーンの瞳が俺を見た。


「……俺は、異世界を行き来できるだけ、だろ?」

「あと鑑定能力ね。あんた、どうして自分のことは自分で鑑定できないの?」

「どうしてって言われてもな。鏡を使ってもダメなんだよ」

「ひとりひとつの能力とは限らないわ」


 俺は頬をかく。


「それが事実だとしても、あえてもう一度試してみようという気分にはならないな」

「そうね。少なくとも『死の運命を救え』と言われたあたしにその力がないのも事実だわ」


 リルネはパタンとメモ帳を閉じた。


「それじゃあ、行きましょうか」

「行こうって、どこに?」

「あんたが死んだ現場よ」

「おまっ」


 なに平然と言ってやがるんだ、こいつ。


 怖いもの知らずか……?


「お前が死んだらどうするんだよ!」

「言ってたでしょ、あたしは死なないわ」

「そんなことを言われたってなっ」


 リルネは小さくため息をついて俺を見上げる。


「別に死地に飛び込みたいわけじゃないのよ。あんたが誤解されて殺されたってんなら、その人たちが殺される前に行けばいいじゃない。事件が起きたのは深夜なんでしょう?」

「それは、そうだが……」

「対人戦においては、あんたなんかよりあたしのほうがよっぽど強いんだから。ジン、今度はあたしが守ってあげるわ」


 なんか得意げな顔をしてやがるし……。


 嘘だろ、本当に戻るのかよ、あそこに。


「……なんでわざわざそんなこと」

「この街でなにが起きているのかを知りたい。少なくとも街中で何十人も殺されるような事件が起きたんだったら、今のあたしたちにはそれが手掛かりのようなものだわ」


 リルネは宙を睨んでいた。まるでそこにあの黒衣の化け物がいるかのように。


 といっても俺には昨夜の強烈すぎる痛みと、体中から血が失われてゆくような寒さがいまだ鮮明に残っていた。


 俺は頭をかく。


「気が進まねえな……」

「あ、そ。じゃああたしひとりで行ってくるわ」

「ああもう!」


 俺は髪をガジガジとかきむしった。


「お前はそう言えば俺もついてくると思ってんだろ! そうだよ! ご明察だよ!」

「むしろあの命知らずで無謀もいいところのジンが、ここまでビビリになるだなんて、ちょっと驚いちゃうわね」

「てめえも誤解で喉を掻っ切られてみろってんだ!」





 スターシアには部屋で荷物番をしてもらうことにして。


 俺とリルネは外套をはおってスラム街のほうへと向かっていた。


 腰に刀を差す俺と、魔導杖を持ったリルネ。完全装備だ。


「テスケーラ第四区と呼ぶらしいわね」


 看板を眺めるリルネは、そう口を開いた。


「貴族街の第一区、商業区域の第二区、そして平民が暮らす第三区。このテスケーラはドーナツ状の三層構造になっているんだって」

「え? でも第四区があるんだろ?」


 リルネは看板を指でなぞる。


「そんなもの、どこにも書いていないわ。だからこその第四区なんでしょうね」


 認められていない場所、か。


「……聖女の治める街も、いびつな構造をしているんだな」

「言っとくけど、口は災いのもとよ。独立祭の最中にそんなこと言ってたらつるし上げられても知らないからね」

「ん、わかった、気をつける」


 俺は素直にうなずいた。


 相変わらず通りは人が多い。彼らの波をかき分けながら、俺たちは第四区へと向かう。


 第四区に近づけば近づくほど、人の数は減っていった。


 代わりに古びたり傾いた家屋が増え、刺すような視線をあちこちから感じ出す。


 俺は先をゆくリルネに小走りで追いついて、その耳にささやく。


「なあリルネ、やっぱりここらへん治安が悪いんじゃないか?」

「まあそうでしょうね。スターシアを置いてきたのは正解だったわ」


 ズンズンと先をゆくリルネは、人の目など気にしていないようだった。


「俺とお前ってどんな風に見られているんだろうな」

「勘違いして社会見学にやってきたいけすかない貴族の娘と、その護衛でしょうね」

「印象最悪じゃないか!?」

「そんなことないわよ。少なくともいきなり誤解で斬りかかってくるような連中はいないわ」


 まあ、確かにな……。


 限りなく悪いが最悪ではないか……、ってあんまり変わらねえよ!


 すると見覚えのある場所が近づいてきた。あのときは夜だったが、今は昼だ。多少印象が違うけれど、それぐらいじゃ俺の心に負ったトラウマには変わらない。


「ああ……あと少しで広場につくよ」

「あんたがミジメに殺された広場ね」

「お前、実は俺の言うこと全然信じてないだろ!」


 だって信じていたら、人としてそんなヒドイ発言できないよな……。


 リルネの頬をつねろうと手を伸ばすと、しかしグググと抵抗をされた。


 くそう、てめえ、男の力を舐めんなよ……!


 と、そのときだ。


「アーッハッハッハ! そこの男女ふたり! 高そうな杖と剣を持っているじゃないか!」


 甲高い叫び声が聞こえて、俺とリルネはぴたりと争う手を止めた。


 そちらを向くと、広場に向かう道を塞ぐようにして、ひとりの少女が立っていた。


 背は小さい。年はリルネ(のこの世界の年齢と)と同じぐらいだろうか。猫のような寝癖がついた茶髪をもつ、勝ち気そうな褐色の肌の女の子だ。


 シャツにショートパンツとラフな格好をしているが、その腰につけている短剣は間違いなく本物だろう。


「えっと……」


 なんだこいつは。


 女の子は腰に手を当てて俺たちを指差してきた。


「命が惜しければ、その高そうなモンを置いてさっさと去るんだなー! さもなくば、痛い目を見てもらうよん!」

「すごい、あたしこういうベッタベタな追いはぎって初めて見るわ」


 リルネの目がキラキラしていた。


 いや、お前、身の危険とかさ……。


 まあ、いいか。


「悪いが、そういうわけにはいかないよ、キミ。俺たちはこの先に用があるんだ。通してくれないか」

「えっ? 通りたい? そっちのほうだったのか!」


 アドリブに弱いらしい女の子は困った風に目をきょろきょろさせたあとで、額から一筋の汗を流しながら、平たい胸をドンと叩いた。


「だ、だったら! アーッハッハッハ! そこの男女ふたり! 高そうな杖と剣を持っているじゃないか! ここを通りたかったらそれを置いてってもらおうかー!」

「なんでやり直す必要があった」


 半眼でうめくが、女の子は聞いていないようだ。


 子どもの遊びに付き合っている暇はねえよ。


 彼女はぱちんと指を鳴らす。


 するとその直後、近くの家からわらわらと大勢の子どもたちが集まってきた。それぞれ手に太い棍棒やパチンコ、さらには刃物など物騒なものを持っていやがる。


「げっ、多い!」

「フフン! 貴族は外見がなよっちくてもいい装備をつけていることが多いかんね! 抵抗される前にたたみかけるのがコツ! 油断せずにいっきにぶちころがすよんー!」

「アシード」


 リルネがくるりと手首を回すと、次の瞬間、そこには一匹のトカゲが絡みついていた。


 燃える体表と火を口から噴き出すこの世の魔法を司る存在。 


 精霊だ。


「傷つけない程度に、ぶちころがして」

『無理を言うな。ほむらが加減などできぬ』

「じゃあでっかくなって」

『……承知した』


 子どもたちはそのトカゲが何者か気づいていない。一気に駆け寄ってきて、それぞれの得物を振り上げる。それを見たアシードはやれやれとでも言うような口調で、その身を変貌させた。


 一瞬だ。ただそれだけで、サラマンダーの姿はまるでドラゴンのごとく膨らんだ。


 通りを圧迫するほどの巨体が、口から火炎を噴き出しながら子どもたちを睨みつける。


 子どもたちは凍りつき、固まっていた。そうして後ずさりして、少しずつこの場から逃げ出してゆく。


 アシードの背に立つリルネは腕組みしながら、癖毛の少女を指差した。


「で、あんた、誰をぶちころがすって?」

「…………あ、あ……」


 ぱくぱくと口を開閉させる少女は、そのままへなへなとへたり込んだ。


「なにこれ……、反則でしょ……」


 その股間から漏れ出た液体が地面を濡らすのを俺は、サラマンダーの尻尾に首根っこを引っかけられて空中をぶらんぶらんと揺れながら、武士の情けで見ないようにした。


 しかし、精霊って便利だな……。




 急いで着替えてきた少女は、俺たちを広場の奥へと案内してくれた。


 少女はあと少しで殺されそうだったくせに、命乞いするよりも先に「漏らしたこと、言わないでよね! ゼッタイ!」と顔を真っ赤にして涙目で詰め寄ってきたから、なんだか毒気が抜けてしまった。


 それはリルネも同じだったようで「い、いいから着替えてきなさいよね……」と引きながらつぶやいていた。


 まあそんなわけで、俺たちは第四区に詳しいであろう彼女に案内を頼むことにした。


「ちゃんとジャッジ使うのよ」

「わかっているよ」


 リルネのささやき声に、俺はうなずく。


 こないだは殺される寸前にジャッジを使っていなかったことを、俺は後悔していた。手がかりをひとつ自ら手放してしまったのだ。


 だから第四区に入って以来、俺は目に映る人物のすべてにジャッジを使っていた。


 人のプライバシーを覗き見るみたいで、気分はよくない。


 だが、誰かを救えるのなら、俺のモラルが苦しむことなんて安いものだ。


「ジャッジ」


 改めて、俺は小声で唱える。




  名 前:レニィ

  種 族:人族

  性 別:女

  年 齢:14

  職 業:シーフ

  レベル:23

  称 号:針猫団はりねこだんの自称副団長、針猫団のアイドル、

  スキル:人族語、短剣技第九位、スリ




 ふむ。


 針猫団、か。


 それがこの第四区を取りまとめている一団の名前なのかね。


 レニィはひとつの家屋の前で止まる。こちらを振り返ると、顔を赤くしながらバンとドアを叩いた。


 それから似合わない不敵な表情で口元を吊り上げる。


「ククク、ばーかめ! こんなところまでノコノコとついてきやがってー!」

「え?」


 バーンとドアを開け放つと、レニィは得意げに拳を握る。


「よっくもこのアタシに恥をかかせてくれやがったな! にいちゃん! やっちゃってくれよ!」


 家の中からのそのそと現れたその人物を見て、俺は目を剥いた。


 浅黒の肌に、腰につけた二本の短剣。獣じみた風貌をした痩躯の青年。眠たげな眼差しをした彼は、その目の奥に間違いなく野生の光をたたえていた。


 瞬間、全身から汗が噴き出す。


 間違いない。俺はこの男に殺された。


 俺は指先の震えを悟られないようにして後ろに回し、その男の出方を窺った。というよりは、身が竦んで動けなかった。


 リルネも俺の様子がおかしいことに気づいたらしい。杖を強く握りしめていた。


 せめてリルネだけは守らなければ。そう強い思いを抱く俺の前で、男は――。


「レニィ、お前さ、クライを捜してこいって言ったよな」

「んなことよりこいつが! アタシを思いっきりコケにしたんだよー! なあ、兄ちゃん、仇を討ってくれよー!」


 レニィの頭にゲンコツを落とした。


 俺は呆気に取られていた。レニィもまた、その青年を見上げながら瞳に涙をためてゆく。


 青年は拳を口元に掲げて、仏頂面で言う。


「オレはかわいい妹のためなら、できるかぎりのことはしてやりたいと思っている。そこには妹の不始末の尻拭いをしてやるって意味も含まれている」

「だったらー!」

「ああ。お前が広場前でだれかれ構わずケンカを売りまくってやがるときから、こんな日が来るんだろうなって予感はしていたよ」


 達観した表情の青年は、レニィの髪を掴むと、そのまま無理矢理頭を下げさせた。


「や、ちょ、なんだよおー!」

「あんたら、うちのアホが迷惑をかけて、すまねえな」

「は、はあ」


 俺は毒気を抜かれた気持ちで立ちすくむ。


 なんか、思っていたのと違うな……。




 青年の名は、ウォード。


 この第四区の自治組織である針猫団の団長を務めていると言う。


 家の中の客間らしきところに通されて、俺たちはソファに座って向かい合う。


 この場にいるのは、俺とリルネ。それにレニィとウォードだけだ。もっとも物陰に隠れているやつが俺たちを狙っているかもしれないが、そこらへんは俺にはわからない。


 ウォードは足を組んで俺に胡乱な眼差しを向けていた。


「で、腰にそんなたいそうな剣をさげた騎士サマが、オレになんの用だよ」

「剣?」


 俺はふと迅剣ヴァルゴニスを見下ろす。


 これがどうかしたのだろうか。


「この街で騎士剣をもってんのは騎士サマに決まってんだろうが。変装するにしたって、もっとマシな格好をしろよな」

「あ……」


 そこでようやく俺は気づいた。


 なんて迂闊だったんだ。そうか、だから俺は騎士と間違われて、このウォードに殺されちまったのか。


 まさか剣で判別されているなんて気づかなかった。次からは気をつけよう……。


 ウォードの後ろに立っていたレニィがフシャーと威嚇してきた。


「き、騎士ー!? 今度はアタシたちからなにを奪おうっていうのよー!」

「いや、俺は」


 違う。両手を振る。


 つっても身分を証明できるものなんてないか……。


 と、そこでこのままじゃ、らちがあかないと思ったのか、リルネが口を開いた。


「彼はあたしの護衛よ。いい剣を持たせているだけで、騎士ではないわ」

「……だったら、あんたは何様だ?」


 ウォードが値踏みするように体を前に倒し、リルネを眺める。


 かたやリルネは背筋を伸ばし、堂々たる態度だ。


「あたしが何者であるかは、今はさして重要ではないわ。大事なのは、あたしたちがあなたにとって有益かどうか」

「第四区に話を持ち込む連中が、有益だった試しはねえんだけどな」


 億劫そうに首を撫でるウォード。


 リルネは咳ばらいをした。


「きょうの夜、騎士団がこの第四区に攻め込んでくるという情報を手に入れたわ」


 おい、お前……!


 この場でそのカードを切るのかよ!


 ウォードの動きがぴたりと止まった。


 その目の奥に、先ほどまでとは違う光が浮かぶ。まるで威圧するような気配だ。


「……ほう?」


 リルネは目を逸らさない。


「それがウソかどうかはおいておくとして、だ。あんたたちがオレたちに情報をタレ込む理由なんて、あるのか?」

「この街にはあたしたちが追っている宿敵がいるの。もしかしたらこの件にそいつが絡んでいるかもしれない」

「……なんもかんも、あやふやだな」


 ウォードは険しい顔で頭を振った。


「おい、レニィ。お前いつまでそこで突っ立ってんだ。早くクライを捜してこいよ」


 いつ自分の仇を討ってくれるのかとワクワクしていたであろうレニィは、目を丸くした。


「ええー!? そんなこと言ったってクライ兄ちゃんどこにいったかわかんないし!」

「いいから行ってこい。見つかるまで晩飯抜きだぞ」

「ひどい! もう! ウォード兄ちゃんのバカ!」


 反抗的な態度を示しながら、ぷんぷんと頬を膨らませて家を出ていくレニィ。


 その背を見送り、ウォードは頬をかく。


「あいつはこの第四区でみんなにチヤホヤされて育っちまったからさ。あの年でまだワガママ三昧だ。でもガキの面倒を見ていたり、優しいところもあるんさ」

「そういえば子どもを引き連れていたな……」

「オレたちは街のつまはじきものだ。騎士団から目をつけられているのも知っている。だが、それでも今までは互いに干渉しないようにやってきたはずだ」


 ウォードは腕を組む。


「あんたたちの言うことが本当なら警戒しとかなきゃいけねえ。だが、オレとあんたたちの間にはまだ『信頼』がない。そうだろ?」

「そうね」


 リルネはうなずいた。


「信じてもらおうだなんて、虫が良すぎる話だわ。でも、あたしたちはなにかをもらおうってわけじゃないのよ」

「……だったらなんのために、言いに来たんだ?」


 そこで俺はテーブルにバンッと強く手を叩きつけた。


 視線が集まる中、ウォードの目を見て告げる。


「――人を助けに!」

「じゃなくて」


 横っ面をリルネに強く押された。


 え、違うのか……?


「じゃあ、誰かの命を救うために!」

「じゃなくて」


 しょんぼりする俺の前、リルネは眉根を押さえながら告げる。


「この街でなにが起きているのかを確かめに、よ」

「はあ」


 ウォードは目を丸くさせながら、俺たちふたりを交互に指差して問いかけてくる。


「お前たちはアレか。ひょっとして貴族の身なりをした大道芸人なのか?」


「違う……」

「……違うわ」



 ウォードは仲間たちに呼びかけ、警戒態勢が強まってゆく中。


 ――再び、テスケーラに夜が訪れた。






  名 前:ウォード

  種 族:人族

  性 別:男

  年 齢:17

  職 業:スラッシャー

  レベル:83

  称 号:針猫団はりねこだん団長、第四区の若き王、妹思い

  スキル:人族語、短剣技第五位、剣技第六位

  固 有:猫の足



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