第2話 タキオン観測異常?
「こちら宇宙ステーションの丹羽です。タキオン素粒子の到着、感知しました。速度の平均値を算出中です」
船外活動で宇宙ステーションから離れた場所に円盤状の的を作り、その的に到着したタキオンデータが船内の丹羽のパソコンにどんどん送られてくる。
「JJAXAの西田です、ご苦労さん。とりあえず届いたようだね、30分後に集計結果と考察を聞くのでお願いします。」
「了解しました」
興味深い実験ではあるが、ごく単純な作業なのでモニターの前に座ってるのは担当の西田を含めわずか3名であった。
モニターから離れ、給水しようとペットボトルに手を伸ばすと、コンコンとノック音がして、ドアが開いた。
「お疲れさまです。成功しました?」
口に水を含みながら、西田は片手でグッドのジェスチャーをする。
「それはそれは。あ、それでですね。見学中の高校生が一人、実験棟の脇の丘で意識を失いまして、病院に搬送中です。」
途端に西田の顔が曇る。
「ん? あの区域って立ち入り禁止じゃなかったか? それでどの程度なんだ? 症状は?」
少々怒気を含んだ声に職員も襟を正し、
「すいません。そんなに危険な実験では無いと判断してたみたいで膝上の高さに禁止線を一本張ってただけだったそうです。ですが、少年の症状は、心肺、脈共に正常で発熱も無く、意識だけが無いみたいなので緊急性はないかと思われます」
「そうか。報告ご苦労さん」
いつもの抑揚に戻った西田に職員は、それでは失礼します、と退室した。
トイレを済ませて帰ってきた西田はモニターの前で待機する。
やがて時間となり、丹羽との通信を再開した。
「西田です。集計の結果はどうでしたか?」
「丹羽です。データをそちらに転送します。……そうですねぇ。光より速い速度で観測出来たデータもあるんですが、速度にバラつきがあるんですよね」
会話しながら、届いたデータ解析値を眺める西田。
「本当だ。一番速いのと遅いのの差が凄いね。どちらかが観測ミスと考えるのが妥当なのかな?」
「速いほうがバラつきが少ないですよね。……遅い方の2点なんか、どっか寄り道してたの? ぐらい特別遅いですし」
う~ん……と他の2名と目配せする西田。
すると、
「あ、それとですね、一つ気になったんですが」
丹羽が一呼吸溜める。
「なんでしょう」
西田が先を急かした。
「そちらのタキオンの発射量、再度確認してもらえますか?」
西田が目配せすると、一人が館内電話をかけだした。
「何かおかしかったですか?」
丹羽に交信する。
「いえ、データの総数見てもらうとわかりますが、観測結果がやけに少ないんですよね。これだと40%程度しか届いてない計算になるので、そちらで急に不具合があっていくらか飛ばす量減らしたのではないのかなと」
西田は届いたデータの総数の項目を見ると
「本当だ、半分も観測出来てないね。僕の所にはそういう報告届いてないなぁ」
すると、電話をかけていた職員が受話器を置いて
「再確認してもらいました。発射量、100%だそうです。」
西田の脳裏に、搬送された少年の事がちらっとよぎった。
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