第12話 再びフリーター時代(D男と同棲)
余談なのだけど、祖父の家に引っ越してD男と付き合い始めた頃、
声優事務所を辞めた。
好きな相手と金銭的、時間的な理由で一緒にいられない事が苦痛で、
もう普通に就職して稼ごうと思っていた。
でも興味のあることしかやりたくなくて、芸能関係にも未練があった為、
お菓子作りのバイトを辞めて芸能事務所の営業事務に転職した。
が、これが営業事務とは名ばかりの、ガッツリ営業。
しかも、限りなく黒に近いグレーな仕事だった。
外で女性に声をかける人たちが別にいて、私ほか何名かが事務所の説明をして、
ゴールは(20万くらい払わせて)芸能事務所に入ってもらうこと。
…どこが事務やねん!!
1対1で面談させられて、うまい話をして若い女性にお金を払わせる。
ぶっちゃけ、すごいストレスだった。
しかも途中からノルマが出来て、ノルマいかないと時給を下げられる事に。
週5日で入っていてそこそこ稼げていたけれど、D男との同棲を機に半年で辞めた。
メンヘラは仕事が続かないと言うけど、ここだけは仕方なかったと思う。
今まで務めた中で、一番マトモな会社じゃなかった。
話を戻そう。
D男と住む家に引っ越す前日。東京で記録的な大雪が降った。
引っ越し当日、父の車を借りて荷物を運ぶ予定だったが、
積雪でチェーン買わないといけなくなるわ、道路凍結してて危ないわで、
引っ越しには最悪の日になってしまった。
でも連休を取っていたから、どうしてもその日にしたくて、無理やり引っ越した。
いま思えば「同棲はやめておけ」という、お告げというか警告だったんじゃないか。
私は無神論者だし無宗教だけど、
物事がうまくいく流れの時と、うまくいかない流れの時は分かる。
今回は、うまくいかない流れだと分かっていて、逆らってしまった。
D男は結婚願望がある、音楽は趣味と言っていたのに、
バンドが盛り上がり始め、やはり音楽で食っていきたいと思うようになったらしい。
かつてのC男のように、仕事とバンド活動がメインの生活になっていった。
さらに悪いことに、仕事は正社員なので、飲み会もあれば、出張もある。
C男の比ではないくらい、一緒にいられる時間がなくなった。
そんな状態で私が我慢できるわけはなく、
祖父の家にいた頃はしなくなっていたリスカが、再発する。
同棲を始めてから新しく事務のバイトに就いていたが、
仕事に行けたり行けなかったり、収入が安定しなくなる。
本当に、よくクビにならなかったなと思うくらい、頻繁に休んでいた。
さすがにどうにかしたくて、ほぼ初めてメンタルクリニックに行った。
C男と付き合ってた頃に精神科?心療内科?に1回行ったことがあったけど、
私の方が「あなた大丈夫ですか…?」と思うくらい変なおじさん医者がやってて、
結局「鬱っぽいね」と言われ精神安定剤を処方されただけだった。
その医者が信用ならず嫌で、他の医療機関も受ける気がなくなってしまった。
さて、改めて受けてみたメンタルクリニック。
カウンセリングを勧められたが、お金がなかったので薬だけもらっていた。
精神安定剤で、それを飲むと眠くなり、気持ちが落ち着く。
ただ、頓服薬なので、1日1錠分までしか処方してもらえなかった。
一日通してずっと不安定な日がしょっちゅうだったので、全然足りなかった。
かと言って、薬に依存しても問題の解決にはならない。その場しのぎ。
D男は仕事とバンド活動にいっぱいいっぱいで、私に構っている余裕はなかった。
そんなに辛いなら別れよう、と言われた。
俺じゃ幸せにできない、と。
私はもう別れたくなかったので、結婚したかった。
結婚すれば、一緒にいる時間が少なくても諦めがつくと思った。
そんなのは幻想なのだけど、当時はそうでも思わないとやってられなかった。
せめて籍だけ入れてくれと頼んだが、断られた。
結婚願望あるって言ったじゃんか。嘘つき。
と、そこでメンヘラ大爆発。
親も巻き込んで(D男が電話しただけだが)の喧嘩をしたりもした。
結局、私の「実家に帰りたくない」という思いが、全ての行動を支配していた。
今の状態は辛いけど、実家に帰るのも辛い。
別れたくない。何もしたくない。変えたい。変えたくない。死にたい。
毎日、そんな事ばかり考えていた。
自分もやりたいことをやろうと、カフェのバイトを掛け持ちしたが、
完全にメンがヘラっていた私には過酷すぎて、3ヵ月で辞めた。
D男にそのことを話すと、叱責された。
カフェの仕事仲間に迷惑をかけたんじゃないか、責任感がなさすぎる、と。
前から思っていたが、D男とは、価値観が合わな過ぎた。
それに気付くのが、とてもとても、遅かった。
いや、気付いていたけど、目をそらしていた。
どんなに苦しくても、また独りには、なりたくなかった。
いよいよ寂しさが限界で開き直った私は、
事務のバイトをしていた会社で、浮気をし始めた。
手っ取り早くチャラい営業の年下男から誘ってみたが、
性格身体もろもろ相性が合わず、結果ストレスにしかならなかった。
自分大好き過ぎるやつで、一緒にいても何も楽しくなかった。
また別の営業の年下男性とも飲んで体を許したら、なんと告白された。
とても良い子(←)だったのだけど、
私は年下が恋愛対象にならないので、付き合うとかは無理だった。
たぶん、ファザコンなのだと思う。
年上じゃないと、甘えられない。頼りにできない。
年下だと、どうしても遊び相手という感覚になってしまう。
一緒にいて楽は楽なんだけど。
そして最終的に、やっぱり音楽をやっていたバイトの男性(以下E男)にいった。
E男は最初まったく興味の外だったが、一回飲んで色々と話した。
飄々としていて、そんなのたいしたことないんじゃん?って感じが楽だった。
私がマイナス発言をしても気にせず、そんなこともあるよねー、的な。
D男は私が落ちるとやっぱりイライラしたり一緒に落ちるタイプだったが、
E男は良くも悪くも、自分中心だから、周りに流されることがなかった。
E男は、私のことは嫌いじゃないけど、別れるかどうかは好きにしなよ、
ただ面倒くさいのは嫌だからD男にはバレないようにしてね、というスタンス。
そんな関係が楽で居心地が良くて、しょっちゅうE男の家に出入りした。
E男は私が好きな街に住んでいたので、いま思えばE男が好きというより、
その街にいるのが好きだったのかも知れない。
E男はバンド活動は休止中で、主に自宅で曲を作っていた。
集中したいとき以外は、いつ行っても許された。
泊まることも増え、D男には友達の家に泊まる、と言っていた。
ある意味ウソではないのだけれど。
D男も、私が浮気しているとはつゆ知らず、
以前のようにギャーギャー騒がなくなった私にほっとしていた。
「やっと落ち着いたか」「自立し始めてくれたようで嬉しい」
そんな事を思っていたのだと思う。
D男の方から、飲みやデート等、
一緒に過ごす時間を充実させようとしてくれて、少し心苦しかった。
だがしかし。そんな生活がいつまでも続くわけはない。
あまりにE男の家に行き過ぎて、遂にD男にバレた。
D男は激昂し、さっさと家を出ていけ、と言われた。
ですよねーと思いつつ、また八方塞がりに陥る私。何回目だよ。
E男は一緒に住むのは早すぎる、と取り合ってくれない。
相変わらず一人暮らしするお金もない。
こうなれば水商売しかないなと思い体験してみるも、どうしても無理だった。
好きでもない男に媚びを売ったり、体を触らせるのは想像以上にきつかった。
で、どうしようどうしようと思っていたが、
だんだんE男からも気持ちが離れ、D男がいる家に帰るようになった。
D男は相変わらず忙しくしていたので、
私と話し合う時間も余裕もなく、なんとなーくほとぼりが冷めていった。
すぐに家を出ろ、とは言われなくなった。
ただ、どうしていくか考えて、とは言われていた。
話は少し変わって。
E男は自分の知人や友人を見せたがりな人で(主に音楽関係)、
しょっちゅう写真や動画を見せてきた。
その中に、私の好みドンピシャな人がいた。E男の音楽仲間。
見た目で人を好きになったことのない私が、一目惚れした。
そのくらい好みだった。E男に会わせろ会わせろとせっついたが、
そのうちね、とはぐらかされた。
私の反応があまりに強かったから、危機感を感じたんだと思う。
さすがにE男も面白くなかっただろうけど、そこは悲しいかな友達自慢したがり。
ある日、その一目惚れした男性(以下J)と飲んでるよ、と夜に連絡がきた。
いてもたってもいられなくなった私は、悩んだ末、
よりによってD男が帰宅する日に、家を飛び出して会いにいった。
浮気がバレても居座っているくせに、また別の男に会いに行った私。
その件で、またD男の心証を悪くしたのは言うまでもない。
既にE男とJは飲んでいたが、私と合流して2軒目に入った。
私は興奮しまくっていて、
「ああ、憧れの俳優が目の前にいるってこういう気分なんだなぁ」と、
生まれて初めてミーハー心を理解した。
今まで、アイドルやイケメン俳優等に心惹かれた事はなかった。
会えない相手や、自分に興味のない相手に尽くすなんて無理だ。
そう思っていた。
また話が逸れたが、とにかく憧れの相手に会えて、
この機を逃してなるものかと、E男が横にいるのも構わずに猛アピールした。
「猫好きですか」「私と一緒に暮らしませんか」と、
初対面の相手に、いきなり同棲を持ち掛ける意味不明さ(笑)
Jはニコニコしながら聞いてくれたが、さすがにE男の手前、
まともに反応は返してくれなかった。
E男は、トイレに行きたいのを必死に我慢していた。
連絡先を交換するのを阻止したかったらしい。
なら最初から会わせなきゃいいのに(笑)
結局、Jとは連絡先を交換することもなく、その場で解散。
私の猛アピールに引いていた気もするし、
きっともう会うこともないだろうと、その背を惜しみながら見送った。
その後。E男のことは完全にどうでもよくなり、会わなくなった。
でもE男と会っていた間は、ほぼ自傷しなかったし、薬も飲まずにいられた。
それは良かったと思う。
このJとの出会いが、大きく人生を変えることになった。
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