第8話 フリーター時代2(新しい学校~B男との別れ)



専門学校時代から、B男の家に転がり込んでいた。

専門時代、B男は新聞奨学生をやっていて、寮アパートに一人で住んでいた。

そこからの方が学校が近く(私は実家から学校まで片道約2時間かかっていた)

楽で、一緒に課題を練習したりもできるという名目のもと、

最初は半々くらいで実家に帰っていたのが、ほぼB男の家に住むようになっていた。

学校を卒業した後、B男は友人とルームシェアを始めた。

私の実家からそんなに遠くない位置に引っ越した為、

結局私もそこに転がり込むかたちになった。


なんで私がこんなに実家に帰らなくなかったかというと、

実家がほぼゴミ屋敷と化していたからである。

引きこもり時代はそこまで気にならなかったが、

バイトを始めたり学校に通うようになって、

家が汚かったり、両親がほぼ一日中家にいるのが、しんどくなった。

落ち着かないのだ。

当時は妹と部屋をシェアしていたが、

両親と妹は部屋が散らかっていても気にならないタイプで、

私だけが気にするようになった。

部屋を片付けようとしても、母の物を勝手に触ると怒られる。

怒られない部分を片付けても、誰も維持しようとしないから、すぐに元に戻る。


また、昔は両親の言い争いが絶えなかった。


基本的に、体は弱いが気は強い母が我が家の絶対的中心で、

どこに行くにも何をするにも、母が選択権を握っていた。

両親が夜中に大声で怒鳴りあう声を、ベッドで聞いていた。

普段は仲が良いし、両親とも基本的に優しい。

怒鳴りあいについても、父からは喧嘩ではなくて、

母は感受性が高いから何かに乗り移られてしまう、みたいな話をされた。

スピリチュアル的な理由だろうがなんだろうが、

子供は両親が言い争いをしていたら不安になる。

私なんて一度母の離婚を経験しているから、余計に不安だった。

また別れることになったらどうしよう、と。

感情が高ぶった母は「離婚するから」みたいなことも平気で口にした。

皿が割れる音。泣き叫ぶ声。

今では、両親もひとりの人間だし、完璧なわけじゃないと分かる。

仮面家族のように、表面上だけ仲良くしているよりは良いのかも知れない。

母の言動も「ちょっと荒んでいた」の一言で片づけることもできる。

普通と言えば普通のことなのかも知れない。

でも私には耐えられなかった。


そんな事の繰り返しで、実家が嫌になった。

とはいえ、一人暮らしをする経済能力もなかったので、

彼氏の家に転がり込むという、一番楽な選択を取っていた。

舞台~ダンスグループに入っていた頃まで、ほぼ実家には帰らなくなっていた。


ダンスグループがほぼ解散状態になり、

声優を諦めきれなかった私は、祖父祖母に頼み込み、

もう一度声優の学校に入りなおした。

そこは専門学校ではなく、塾のような感じだった。

オーディションを受け、入学費だけ免除になったが、学費はかかる。

そこは1年間の学校で「ここでダメならもう諦める」と言って、入らせてもらった。

歌える声優を目指す、ということで、歌の授業もあった。

個人的にボイトレも受けていたくらい歌うのは好きだったので、ワクワクした。


歌の講師をしていた女性に、ライブとか自主的にどんどんやりなさいと言われ、

よしやろう!と思ったものの、楽器は弾けない。そこで、

私がボイトレで通っていた同教室の、ギター講師の男性にサポートを頼んだ。

妹がギター教室に通っていたので、妹の先生だ。

一応同じ教室だし、本人が良いと言ったからいいだろうと思ったら、

私がその男性にサポートを頼んだのが気に障ったらしく、

何故か妹と母に散々なじられる事になる。

私はやる気になっていたし、使えるコネは使うでいいじゃん、と思ったので、

なんでそんなに怒るのか分からなかった。

妹もサポートとか頼みたいのなら、頼めばいいのに、と。

ライブをやろうとしてる私を応援してくれないのかよ、と。

妹と母の考えは、私には理解できなかった。


そんなある日。

めったに帰らない実家に帰り、久しぶりに妹と一緒に寝ることに。

私が実家に寄り付かなくなっていて、妹との交流が減っていた。

というか、もともとそんなに仲良し姉妹ではなかった。

私は私、妹は妹のコミュニティを作り、それぞれ好き勝手にやっていた。

妹もそれなりに成長していて、なんとなく恋愛の話になり、

ガールズトークになり、うっかり、たまに避妊していないと漏らしてしまった。

その時は、よくある話だろうと思って気にしていなかった。

妹も、ふーんそうなんだー、みたいな返事をしてきたくらいだった。


それを、なんと、両親にチクられた。


両親は激怒して、私とB男をそれぞれ呼び出し、説教した。

私には、祖父祖母のお金で学校に行かせてもらってるのに、

万が一妊娠でもしたら顔向けできない、責任能力もないだろう、と言われた。

それはその通りなのだが、両親も働いてないし責任能力ないやん、と思った。

B男に何を言ったかは知らないが、恐らくお互いまだ夢を追ってる最中なのに、

責任の取れないことをするな的なことを言ったんだと思う。


とにかく、それぞれ説教された後、

親には別れろ、と言われた。そして、B男も承諾していた。


私には衝撃だった。

確かに避妊しなかったのは悪いが、別れなきゃいけないほどか?と。

そもそもマトモな性教育を受けてもいないし、

生理中なら大丈夫だろうという間違った認識だったりもしたし、

これから気を付ける、じゃダメなのか?


ただ、いかんせんB男がもう折れてしまっている。

私が何を言っても、ダメだった。

別れたいわけじゃないが、お互いのためにも、一回別れようと。

私からしたら、なんだそれ、である。

お互いの為って。私、望んでないし。

ただ、部屋に転がり込んで家賃も払わず、

私がいると夢を追う気持ちが萎えてしまう等々、

もっともらしい事を言われると、もう何も言えなかった。






私は渋々、実家に帰ることになった。



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