第49話最後の命令
悪魔ゴエティア達はソロモン王の復活を機に境界国に引き寄せられるように集い、ソロモン王の復活を祝うためにたくさんの人間の魂を喰らった。
境界国はまるで悪魔に取り憑かれたかのように原因不明の病気で人々が大量に亡くなり、1週間入国制限がかかった。
しかし、まさかこの謎の病気の流行が悪魔達の仕業だとは人間は誰も気付かなかった。
「悪魔ゴエティア達はずいぶんお腹が空いていたみたいだね……境界国はこの1週間で人口が減ってしまった。交易船も来ない……」
復活したハザード王改めソロモン王は宮殿のテラスから夕陽が落ちるのを眺めながら今後の政策を考えた。
美しい境界国の景色は今も昔も変わらない。砂漠地帯であるにもかかわらず水も食料も豊富なこの国はまるで楽園のようだ。
特に人類創生の時代から今もなおこの地に根付くナツメヤシは大天使がかのアダムに楽園で食べるのにふさわしい実として教えたとされている。
さらに有名な生命の樹はナツメヤシをモチーフにして作られているそうだ。
生命の樹は楽園の中心であるシンボル。
本来はこの境界国が地上の楽園とならなくてはならない。
だが活気が少し足りない気がする。
悪魔ゴエティア達は、一見ソロモン王に忠実なように見えるが見境なしに人間の魂を食べるところがあり、ソロモン王が命令しなくとも人々を殺してしまう。
(できれば奴隷市場を中心にやって欲しかったんだけど……奴隷市場は現代の感覚ではおそらくイメージダウンだ……なんとかして閉鎖しないと)
長い眠りから目覚めたソロモン王はこの1週間で自分が眠っていた分の知識や情報を収集していた。
眠っていた時間というのは数年単位の時間ではなく前世のソロモン王時代からのものである。
ずいぶんと文明が進んだものだ……。
ソロモン王は自分の子孫であるハザード王の身体に召喚されて甦ったため実際にはそんなにこの時代の知識が豊富なワケではない。
しかし、通信機器が発達した現代で奴隷市場を維持しているとは思わなかった。奴隷というものを一般化している国なんて今時ほとんどないだろう……。
境界国はいささか「古い国」という扱いを受けているようだ。
魔導師達が集まる国というのも古いイメージを植え付けているのかもしれない。
(魔導師達が邪魔なのか?)
ソロモン王はせっかく現代に甦ったのだから今度こそ自分の国を大きくしたいと考えていた。
そもそも魔術というのは隠れて儀式を行うのが伝統だ。
この国から魔術師を消して魔法のない国にするのも良いのかもしれない。
魔導師は自分と宮廷魔導師達だけで充分だ。
幸い人間には悪魔ゴエティア達が人間の魂を喰らっても病気としか認識できない。
ソロモン王は久しぶりに悪魔ゴエティア達を自分の宮殿に呼びあつめた。
全身黒色でコウモリのような羽を持ち、目は鋭く赤い。
ゴエティア達の数は50体ほどだろうか?
皆以前にも増して目をギラつかせている。この数日でゴエティア達は魔力を回復したようだ。
「悪魔ゴエティア達に私が現代に復活してから初めての命令を下したいと思う。境界国にいる魔導師達全員を抹殺せよ……境界国は現代国家にならなくてはいけない。そのためには魔導師が邪魔だ」
ソロモン王は自分自身の身体の持ち主であるハザード王も魔導師であることすら忘れてそんな命令を出した。
「……よろしいのですか? ソロモン王……悪魔は命令には絶対逆らえません。我々の魂が滅びるか王様が止めるまで命令を遂行し続けますよ……」
気の弱そうな悪魔がソロモン王におそるおそる質問をした。
忠告とも取れる。
だがソロモン王はかつて自分が絶対的な魔力を持ち、悪魔達が皆絶対服従を誓っていたためまさかゴエティア達は自分にだけは危害を及ぼさないであろうと考えていたのだ。
しかし、今のソロモン王は所詮ハザード王の肉体を奪っただけの存在に過ぎないのだった。
「ソロモン王が命ずる。境界国にいる魔導師達の魂を1人残らず喰らい付くせ!」
悪魔ゴエティア達は王の命令には逆らわない。
命令なのだからやってもいいのだろう。
ならばもう迷うことはない。
目の前にいる男の魂はとても美味そうだ。
悪魔ゴエティアなら本当は皆一度はこの魂を食べたいと思ったことがあるだろう。
最後にソロモン王に一番忠実だった側近の悪魔が
「本当によろしいのですね?」
と質問をした。
「当たり前だ! 早く魔導師達の魂を喰いつくせ!」
かしこまりましたマスター
では……遠慮なく……いただきます……
悪魔ゴエティア達が何故か自分に向かってやってくる。
皆キバを見せ、目を赤く光らせ、次々と手を伸ばし、つかみ掛かってきた。
掴むというのは肉体ではない。
魂だ。
魂を掴まれたソロモン王は結局自分はもうすでにソロモン王ではなくハザード王というちっぽけな普通の魔導師の身体に転生してしまったことに気づかされるのだった。
しかしそれは魂を引きちぎられながら消えゆく意識の中で気付いたことだった。
ザシュッ
ザシュッ
ザシュッ
それがソロモン王の最後となった。
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