第42話ランプの行方

「シャルロットが研究施設に保護された? 引き渡しに保護者が必要? 血縁者じゃないとダメ……分かったよ、境界ランプを使ってすぐに向かうから場所はどこ……シルクロード? 」


宿屋で電話を借りシャルロットの従兄妹で弁護士の卵のランディに連絡を取る。

なんでもシャルロットの一族は皆忙しく不在なことの方が多いと言っていた。すぐに駆けつけられる保護者と言ったらワープ機能を持つ境界ランプの持ち主のランディしかいないだろう。

ランディとシャルロットは髪の色から目の色までソックリで従兄妹というより兄妹に見える。

あれだけ見た目が似ていれば他人から見ても身内だと一目でわかるだろう。


10分ほどすると地図を片手にランディが走って宿屋に入ってきた。


そういえば最初のテストでランディは怪我をしたとか聞いていたが走って大丈夫なのだろうか?


「まったく、すまないね千夜君。シャルロットが迷惑ばかりかけて……どうせまたひとりでフラフラ出歩いていたんだろう」


結局、古代文化研究所の地下室で魔導実験を行っているかどうか本当のことは分からないので血縁者であるランディに迎えに行ってもらいシャルロットをそのまま連れ戻すことなった。


クーロン博士いわく

『悪霊に取り憑かれた身寄りのない若者を保護している』というのが表向きの研究所のスタイルらしい。

研究所としては自分たちの活動スタイルは正当で健全なものだとしているそうだ。

特に地下実験室を境界国がバックアップしているとあってはこちらも下手には動けない。


ならばこちらも魔導実験の噂は完全に無視して正当で健全な方法でシャルロットを取り返すしかないのだという。


再び古代文化研究所にやって来たオレたちはクーロン博士に連れられて除霊専門の受付に話を通してもらおうとした……しかし。


「いやあさっきのお嬢さん私が昼間会った子でねえ。たまたま連絡先が分かっていたから教えたら保護者の方が迎えに来ていらしてね……うん、だからこの施設で保護する必要はないんですよ」


除霊受付担当係は困惑しているようだ。


「さっきのお嬢さんは明日の朝、除霊を行うと先生がおっしゃっていましたが……」


どうやらまだシャルロットに対する魔導実験は行われていないようだ。


「悪霊に取り憑かれているのならやはりきちんと除霊されてから保護者の方に引き渡されてはいかがでしょう?」


除霊受付は頑なに拒んでいる。

保護者が迎えに来た時のマニュアルでも用意されていたのか何やら用紙を読みながら発言した。


するとランディが強気な態度で交渉し始めた。


「この研究所……なんでも身寄りのない若者を保護しているそうですねえ。身寄りのある若者を無理やりつれて来て保護者に対して引き渡せませんじゃあ……ただの誘拐ですよねえ……」


なんだかランディがいつもと違う。


「ですからご本人が同意されてこの施設に入られているので除霊されてからの方が……」


受付は未だに頑なに拒んでいる。

やはりマニュアルがあるようで、用紙を読みながら答えている。


するとランディがわざとらしく笑い始めた。

怖い。


「本人の同意? 未成年、しかも14歳のシャルロットにきちんとした契約能力はないんですよ。保護者が駄目だと言ったら無効に出来るんです……そんなことも知らないでよくもまあ研究施設なんかでお勤めだよ……」


ランディが受付に説教し始めた。


「とにかく連れて帰るんで……早く呼んで下さい」


「私もそうした方がいいと思いますよ。なんでもあのお嬢さん某国の貴族なんだそうで……下手すると研究施設閉鎖されちゃいます」


クーロン博士が駄目押しした。


「……かしこまりました。下にいる担当者に連絡して連れて来させます。お待ちください」


受付が担当者に内線で連絡し始めた。

保護者が迎えに来たから連れて帰られるそうです……とかなんだとか。


受付と担当者の間で一悶着したようだがしばらくすると担当者に連れられて地下からシャルロットがやって来た。


なんだかぼーっとしているようだが大丈夫だろうか?


「まったく! いろんな人に迷惑ばかりかけて! 遅い時間にひとりでフラフラするなと言っているだろう? ! そんなことじゃ社交界デビューなんかできないぞ!」


ランディが説教し始める。

クーロン博士が受付に挨拶してなんやかんやとシャルロットは研究所の地下施設から解放された。


そのまま全員で宿屋に戻る。

宿屋で待機していたカラス特別大尉とミニドラゴンのルルが心配そうにシャルロットを出迎える。


「キュー……大丈夫でしたか……キュ」


シャルロットは言葉が発せないようでずっと無言だった。

すると精霊セラに抱き抱えられていた魔法猫が突然ニャアニャア苦しみだした。


「大丈夫か? えっ? ランプ……キミはランプの精霊だったのか?」

動物語が話せるようになったクーロン博士がシャルロットの魔法猫と何か会話している。


……そういえばシャルロットの境界ランプは?


「ニャア! !」


猫が叫んだがそのまま静かになり、だいぶ落ち着いたようだ。


「ランプが他の者の手に渡って契約が切られた……どういう意味なんだ?」


クーロン博士が猫の言っていることを通訳して聞いてきた。


境界ランプが他の人間の手に渡った?


セラが確認の為シャルロットの荷物を調べ始めた。

「シャルロットさん、ちょっと失礼……やっぱり! シャルロットさん境界ランプを持っていません! もしかしたらもうシャルロットさんは境界ランプのマスターではなくなっているのかも……」


未だに無言のシャルロット、契約が切られたという魔法猫、そして誰かの手に渡った境界ランプの行方、問題は山済みの状態で夜が更けていった。

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