第12話玉座ヲ手二入レロ


「このランプたちは所有を拒否して手放そうとした人間を次々と殺していくんだ」


オレが確信を持って告げるとみんなしばしの間沈黙していたが、ギタリストのデュアルさんが話し始めた。


「オレの持っているランプはファンからの贈り物でね。バンドあてに贈られたものだけど最初はボーカルが引き取ったんだ。かなりの高級品だというから最初は返そうとしたんだが、連絡をしたら既にその贈り主は亡くなっていた。遺族が言うにはとても大事なものだから死ぬ前に自分の好きな音楽を作っているバンドに贈ってインスピレーションになればと思ったんじゃないかって……」


デュアルさんのランプも前の持ち主が亡くなっているのか。


「それでボーカルはその亡くなった贈り主のためにレクイエムを作ろうとしたんだ。慰めにって……だけど曲を作っているうちに毎晩悪夢を見るようになって、これはランプを教会かどこかに納めて供養するのがいいという話になったんだ。ボーカルは街で1番大きな教会にランプを持って歩いていた。十字架を胸に下げてな。なのに自分からクルマの往来する道路に突然飛び込んだんだ。気が狂ったように……奇跡的に命は助かったが一生車椅子だ。今もリハビリして頑張っているよ」


みんな黙っている……

それぞれ思い当たる節があるのだろうか?


「オレは自分が魔導師の家系だということは隠していたし、魔導師になるつもりもなかったが、この一件で魔術の勉強をするようになった。ボーカルが飛び込んだ道路にはハッキリと魔術の跡があった。犯人は分からない。だけど、このランプが犯人なら納得がいく……多分、ランプを作った魔術師の得意魔法そのものが呪いとして降りかかるんじゃないかと思う」


オレはふと亡くなった母さんのきかせてくれたおとぎ話を思い出した。

「そのランプは境界線の玉座に誘う……」

オレはポツリと呟いた。

このフレーズはおとぎ話の最初のフレーズだ。

「千夜さん? 千夜さんもそのおとぎ話を知っているんですの?」

シャルロットもこの話を知っているのか?

「多分、ランプの持ち主になる運命の人は1度は聞いたことがあるんじゃないかな?」

と、ランディ……ランディが続けて推測を立てる。


「ランプは境界線の玉座に誘うために作られたもの。ランプ自身の存在意義を示すためには持ち主が玉座を目指さなくてはならない。けど、ランプの持ち主に選ばれるのはみんな玉座に関心のない若者ばかり……どうせなら王様になりたがるような野心家を持ち主に選べばいいのにね」


ランディの言う通りだ。 何故野心家をランプは選ばないんだろう? オレ以外の人は血統が関係あるらしいが、その一族の中で1番玉座への野心を持っている人を選べばいいだけだ。矛盾を感じる。


「競争は形式的なもので、境界王のような人に魔導師界の玉座を与えるまでの儀式的なものなのかもしれないわね」

と、ダリアさん。

形式や儀式……境界王のための形式的な儀式なのだろうか?


「ランプの権利、辞退……出来ないのかしら?」

シャルロットが不安そうに言った。


「辞退するよりも精霊王が出す試練とやらを受けてこの競争を終わらせるのがオレたちが解放される道だよ。たとえ出来レースだとしてもね……」

デュアルさんは既に最後まで競争に加わる覚悟が出来ているようだ。


境界王が玉座に……

でも何故か分からないけどオレには境界王には魔導王の玉座は似合わない気がしてならない。

なんだろう?

あの人は本当は玉座の合わない人だ。どうしてそう思うのかは分からないけど……じゃあ誰が玉座に相応しいのか?


『ココマデコイ。玉座ヲ手ニ入レロ』


オレは王様になることなんか夢に見たことすらないし、野心なんてこれっぽっちもないはずなのに思い浮かぶのはオレ自身が魔導王の玉座に座る姿だった。

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