第10話メッセージカード


オレはリー店長の言っていた中国魔法の蠱毒(こどく)についてもっと調べたいと思った……が、このコテージ内にはインターネットがない。


今時の宿屋はどんなに小さくてもインターネットサービスが設置されているのに……。

レストランや売店が敷地内にあるという話だけど、このコテージエリアに外部の情報を調べる場所はあるのだろうか?


「千夜さん、今日はどのような予定にされますか?」


精霊セラが今日のスケジュールを聞いてきた……と言ってもコテージエリアに移動範囲は制限されているし。


「キュー! マスター千夜、朝ごはん食べたいですキュ」

「そういえばレストランがあるんだっけ? 行ってみるか?」


オレ達は情報収集も兼ねてコテージエリアの中心部にあるレストランに向かった。コテージエリアは緑豊かで砂漠の近い境界国とは思えない景色である。


整備された小道を歩いていると時折自転車に乗って移動する人にすれ違う……コテージに宿泊している一般客のようだ。さらに歩くと海が見えるという。


徒歩15分ほどの場所に小洒落た緑色の屋根の建物が見えた。あれがレストランのようだ。レストランの前をロシアンブルー風の猫使い魔がウロウロしている…主人を探しているのだろうか?


「キュー! きのうの猫がいるキュ!」


きのうの猫……ルルが検査の時に引っ掻かれたという猫……あのロシアンブルーだったのか。てっきりシャルロットの猫にやられたと思っていたが。


「にゃーん」

「ごめんよ、オレ達レストランに入りたいんだ。どいてくれよ」


オレ達は猫をすり抜けてレストランに入った。カランカランと音が鳴り、ウェイトレスがやってきた。


「いらっしゃいませ! 4名様と使い魔3匹ですね? 禁煙席と喫煙席がありますがどちらにされますか?」


4名? 3匹?


「ああ、ボクタバコは吸わないから禁煙席でいいよ」

「ではご案内します」

「にゃーん」「にゃーん」

猫がハモっている気がする。


「やあ、おはよう千夜君」

「千夜さん、おはようございます。昨晩は冷えて大変でしたわ」

「ランディー? シャルロット! おはよう」


昨日はメガネだったランディーは今日はコンタクトなのかメガネをかけていない……前髪も昨日は整髪料であげてデコ出ししていたのが今日は素髪なのかサラサラしている……そういえばまだ学生だというしずいぶん若い外見だったんだな。

そしてシャルロットに似ている……身内だとひと目で分かる容姿だ。


「ランディー昨日とずいぶん雰囲気違うな」

「昨日は正式な場だったから貴族らしくしろと言われて正装していたんだ。普段はこの容姿だよ。メガネはかけたりかけなかったりするけど……他のヤツらも案外普段と昨日は雰囲気が違うヤツも多いんじゃないか? これだからパーティーはキライなんだ」


どういうわけだかランディー達と相席になったオレ達。ルルが引っ掻かれたという魔法猫はランディーの猫のようだ。


窓際の景色のいい席に案内される。

朝食はモーニングセットをそれぞれ注文した。パン、オムライス、ソーセージ、ベーコン、スープ、サラダ、ジャム、ヨーグルト、オレンジジュース、コーヒー……シンプルで定番っぽいメニューだ。


「日本人は白米に納豆で毎朝食べるって聞いていたんだが、パンで大丈夫なのか?」

「私は揚げパンとおかゆだと聞いていましたわ」

イギリス人から見た日本人ってそんなイメージなのか……


「納豆を毎朝食べる人もいるかもしれないけど、オレの家は毎朝パンだよ。父さんと二人暮らしだからね。手間は掛けないし、それに揚げパンとおかゆは中国のメニューだよ。最近の中国人はシリアルを朝食べる人も増えてるらしいよ」


「そうでしたの! いろいろ勘違いしていたんですのね」

「知らないってこわいよな」


シャルロットとランディーがうんうん感心している……勉強になったとかなんだとか……。


「千夜さん、日本に戻ったら私、千夜さんに朝食作ります!」

セラがいきなり朝食作ります宣言をし始めた。ちょっとムッとするシャルロット……何故?


「……はは、シャルロットお前も料理できるようにしないとな……。まだ若いしお前もこれからだよ。なあ千夜君?」


ランディーがご機嫌ナナメのシャルロットをなだめている。何故オレに話を振るんだ?


「……別に私……千夜さんのことなんて……」


「ランディー? シャルロットどうしたんだ?」

オレは隣の席のランディーに小声で聞いてみる。


「それが、ウチの一族のお偉いさんが初代境界ランプの持ち主がウチの一族に婿に来てくれたら……て昨日のことで言い始めたらしくてね……シャルロットはキミのこと意識してるんだよ……まあまだ子供だから大目に見てくれよ」


まだ子供って言ってもオレとシャルロットって2歳しか年変わらないんだけどな。


そうこうしていると、ウェイトレスがオレ達のテーブルにメッセージカードを届けに来た。


「みなさんにメッセージが届いております」


『犯人を見つけたのでA3番コテージにいらしてください。ユミル』


犯人を見つけたって……

オレ達は顔を見合わせた。


どうやらこれからユミル少年のコテージに向かうことになりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る