第8話1人目の犠牲者


特別室を出ると、まだ使い魔や精霊、付き添いの人たちの立食パーティーが行われていた。


「どうだった千夜君? キミのライバル達?」


グラスにシャンパン片手に楽しんでいたリー店長が興味津々といった風に特別室での会合の様子を聞いてくる……が


「どうだったもなにも……途中で3人退室しちゃうし、玉座に座りたいって発言しているのは境界国の王様1人だけだし、もう、境界国王が魔導王で決定なんじゃないんですか?」


「ふーん、そんな感じだったんだぁ。みんな今時の若者なんだねぇ〜」

「キュー! ボクにとっての王様はマスター千夜でキュー!」

「ははは、ルルありがとう」


オレは肩に乗ってきたミニドラゴンのルルに礼を言った。ルルなりにオレを励ましてくれているのだろう。


「千夜さん、私にとっての主人も千夜さんだけです。なにがあろうとも……」


精霊セラがなにやら思いつめた目で見つめてくる。


「ありがとう。オレにとってのランプの精霊もセラだけだよ」

「千夜さん……」


オレとセラが見つめ合っていると後ろから

「にゃーん」

という猫の声が聞こえた。

振り向くと金髪の美少女シャルロットが肩に紫色の羽根の生えた猫を乗せてオレの後ろにいた。

シャルロットの従兄妹金髪メガネのランディーも一緒だ。


「千夜さん、さっきの会合……どう思われます?」

「どうって……先祖代々ランプを守ってきた人が多いのかな? あれ、でもユミル少年やギタリストさんはランプを人からもらったんだっけ? でもオレ以外の人は昔のランプの持ち主達の血を引いているんだよね?」


「精霊王の話が本当なら……」


するとランディーが横から意見を言う。


「ボクは胡散臭いと思うな。特に途中退室した3人……名乗らないで帰ってしまって様子を探りに来ただけかもしれない。何者だか結局分からなかったし……ただあの3人魔力はすごく強いんだよ。魔力の“気”が尋常じゃなかった」


「……そういえば、オレ魔法使えないんですけど何で選ばれたんだろう?」


「錬金魔導師は基本アイテムを使った儀式がうまければいいらしいからね。キミみたいに考古学や骨董品に詳しい人間が錬金魔導師になるケースは昔からあるよ。アイテム魔法は既に使えるんじゃないかな? 不思議な話じゃないさ。」


オレ達が雑談していると、突然パーティー会場の灯りが暗くなった。


「えっ? 何?」


ガチャン

ザクッ

ゴトン……

何か異変があった気がするが暗くて何も見えない……。


「キュー! 何か変ですキュー! 目隠しされているみたいに何も見えないでキュー!」

「にゃーん!」


目隠し? 停電じゃなくて魔法の一種って事だろうか?


パチ!


やっと灯りがついた……


そう安堵したのも束の間、会場の中心部分の天井からポタポタと何かの液体が滴り落ちて来ているようだ。


赤い血……。


「きゃー!」


精霊の声だろうか? 女性が悲鳴をあげる。


パーティー会場の中心部の天井には誰かの遺体らしきものが、貼り付けられていた。杭で両手両足を打たれてわき腹から大量に血を流している……。


「生贄の黒魔法……」


ランディーがそう呟いた。

滴り落ちた血は床に何かの魔方陣のようなものを描いている。


「マズイ、この会場の生き物全員を呪い殺す気だ。早く脱出を!」

「脱出って、テラスから飛び降りるくらいしか近い脱出場所はありませんのよ!」


シャルロットとランディーが慌てている? ランプでワープすればいいのに?


「千夜君! キミの出番だよ! ランプにここで生きている者みんなを安全なところに避難させて!」


オレはリー店長に促されるまま、この場にいる生きている者すべての避難をランプに命じた。


「境界ランプよ生きている者全員を安全な場所に避難!」


オレのランプから会場中に煙が舞い、次の瞬間オレ達は何処かの公園にワープした。


「殺されたのは誰だったんだ?」

「さあ? 黒いローブで隠れていて顔が分かりませんでしたわ。」


ランプの持ち主や精霊、使い魔達がざわついている。

そういえばこのランプは持ち主が次々と死んだいわく付きのもの……こうやって次々と死んだというのか……。


「みなさん、お静かに!」

精霊王ガイアスが杖を響かせ公園に避難した面々に語り始めた。


「境界ランプの持ち主から1人犠牲者が出たようです……殺されたのは9番目のランプの持ち主。まだ若い魔導師です。彼はランプの特別室会合の途中で他の2人とともに退出し立食パーティー会場内で行方不明となっていたそうです。警備員の話によると、宮殿からは出た様子はないんだとか」


「退出した他の2人が怪しい……」

「誰かの精霊が頼まれて殺したんじゃ……」


いろいろな憶測が飛び交っている。

「にゃーんにゃーん」

「大丈夫ですわよ。心配いらないわ」

猫がシャルロットの事を心配しているようだ。

「これはランプの権利を辞退する人間が出てくるだろうな」

ランディーが、推測する。

「だっておかしくないか? あの退出した3人は玉座を人間に渡す気がないって言って怒って出た3人だ。玉座に執着を見せると殺される可能性があるらしい……そうなれば辞退者も出てくるよ」


「でも私達のように先祖代々ランプを譲り受けている者も多いんですのよ。そう簡単に辞退できませんわ」


簡単に辞退できない……か。

「千夜君? どうする辞退すれば助かるかもしれないけれど……」


リー店長がオレに辞退する気があるか聞いてきた。


「このランプ……手放そうとしても死の影が訪れるって前の持ち主の遺族が言ってましたよ。ここまで来たら最後まで見届けますよ」

「見届ける……そうだね。そういう覚悟でもいいのかもね」


「キュー! マスター千夜何かあったらボクがお守りしますキュー!」

ミニドラゴンのルルがオレに寄り添った。


夜風が冷たく頬を撫でる。

オレは死の影の正体に既に会っているような気がして少し不安を覚えた。

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