第5話精霊王のパーティー


精霊王のパーティーにはすでに招かれた境界ランプの持ち主たちが数人集まっていた。立食形式のようで料理人達が各国の料理を運んで準備している。


精霊王の到着まであと少し……。

皆、他の境界ランプの持ち主のことが気になるのか、お互いを意識するような雰囲気が漂っている。

その中に、ひときわ目立つ美少女がいた。


紫色の羽の生えた猫を肩に乗せた少女、金髪をポニーテールに結び、グリーンの美しい瞳をしている。

肌色は白く、まるで生きた西洋人形のようだ。胸に大きなリボンのついた可愛らしい淡いピンク色のパーティードレスを着ている。せっかくドレスを着ているのに猫の爪でダメにならないのだろうか……と思ったがオレも含めて皆使い魔を肩に乗せているのでこれはそういう決まりか何かがあるのだろうと考えることにした。


「あら、あなた私のことをジロジロ見て……ここはナンパの場所じゃなくってよ!」


別にナンパのつもりで見ていたわけじゃないけど……そういえば女の子は外国語を話しているが頭の中でスラスラ翻訳されるのでこの多国籍な晩餐会でも会話くらいはできるだろう。


「ゴメン……。その猫のことが気になって。オレは響木千夜(ひびきせんや)、日本人、キミは?」


オレは失礼のないように女の子に気をつかい自分から自己紹介したが女の子は慌ててオレを人気のないテラスに引っ張り耳打ちした。


「あなた……ここは魔導師の集まる晩餐会ですのよ! 魔導師の世界で名前を名乗るというのは魔導のチカラを見せる宣言をするようなもの……まさかさっきの真名(しんめい)じゃないでしょうね?」


「魔導のチカラ? 真名? なんのことだ?」

「……あなたまだ魔導師名持っていないんですの?」

「う、うん。考古学者目指していたから……」

「はあ、呆れた。かの有名なリー老師が連れてきた人だからもっと魔導に長けているのかと思ったのに……。私の名前はシャルロット……魔導名は秘密ですが正当な魔導師貴族の出身ですの。この猫のことが気になるのはお目が高いですわ。この子は魔法猫の血統証付き……品の良さが一般人からみてもにじみ出ていますのね」


猫は自慢げにニャアと鳴いた。この猫、血統証付きだったのか。


「キュウ! ボクはミニドラゴンのルル、よろしくキュウ!」

ルルが猫に挨拶するが猫はルルをチラリと見てツーンとした態度を取った……


「この子、そう簡単には相手に心を開きませんの……それに私達一応ライバルですもの。千夜さんっておいくつですの?」

「オレ? 16だけど……」

「私は今14歳ですわ。私が最年少かしら? 他のライバル達は皆大人に見えますわ」


ライバル……魔導王の玉座を狙うライバルか……。確かに筋肉ムキムキのマッチョな魔導師ファッションの男性や、もう高齢であろう品の良いお爺さんなど思ったより年齢層が高い。


「でもリー老師は若者を集めてるって言ってたしなぁ」

オレとシャルロットがテラスで雑談していると、精霊の大御所に挨拶に行くと言ってどこかに消えていた精霊セラが戻ってきた。


「……千夜さん、なんだか楽しそうにこのお嬢さんとお話しされているようですがこのお方もライバルだということをお忘れないように!」

セラは何故かちょっと怒っているようだ。


「おやおや、お嬢さん彼氏を取られてご機嫌斜めかな?」

精霊セラに品の良いお爺さんが話しかけてきた。魔導師だろうか?

「わ、私と千夜さんは恋人とかそういう関係では……」

「ほほう、じゃあこの千夜君という若者が他のお嬢さんとお話ししていても嫉妬してはいけませんなぁ。特に精霊に私情は禁物……ランプの主人に命を捧げるのであれば嫉妬心は無くさないと使命は果たせない……。どんなに千夜君に恋焦がれても……覚えていてくだされ……精霊セラ」

「はい……。あの、あなたは一体……」


すると、品の良い魔導師風の老人はオレを見てニッコリ微笑んだ。

「初代境界ランプの持ち主の千夜君、伝統ある魔導師貴族の令嬢シャルロット……期待しているよ」


老人は、宙に浮き会場の中心に移動した。手にしていたランプの煙に包まれ……30代くらいの姿に身を変えた。用意されていた壇上に降り立つ。男は長い杖をドンっと響かせ叫んだ。


「ようこそ! 精霊王のパーティーへ! 私は精霊王ガイアス! 今宵は楽しみましょう!」


こうして宴が始まった。

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