第15話 兄弟ってやつ

「左京くん!!」


 放課後、教室の窓に背中を預けて、サッカー部の津田と喋っている時、窓の外からその声は聞こえた。

 振り向くと窓の下には息を切らした高木さんが立っていて、俺が気付いたことがわかると、右手を高くあげてVサインを作った。

 こんなことする奴だったかな。

 あの日、俺の家を出て駆け足で下っていった彼女。

 見送った俺は、彼女が1度も振り向かなかったことに、なぜか少しがっかりした。

 でも今、嬉しそうに笑う彼女を見て、あれが解決したんだろうと安堵している俺もいる。

 俺ってこんな奴だったかな。


 彼女は俺が笑ったことを確認すると、すぐに中庭の方に行ってしまった。走り去る彼女の嬉しそうな背中に、思わず頬が弛んだ。


 その直後のことだった。


「高木可愛いよな!」


 津田がニコニコしながら突然そう言った。


 ***


「ちょっと!!あんた達!!」


 母さんの怒鳴り声で、現実に戻ったのは俺だけじゃなく隣に座る右京もだったようだ。

「なによ、二人してボーっとして!」

 せっかく好きなもの作ったのに、と母さんはブツブツ怒る。それをなだめながら親父が笑った。


 今日、教室で、津田が言った一言が俺の中に引っ掛かったままだ。

『高木、最近可愛くなったってみんな言っててさぁ。森口も気になってるって』

『森口?』

『うん!あの雰囲気、告るかもなーあいつ!』


 森口……。

 誰だそれ。

 告る……?

 高木さんに?


「早く食べなさいっ!」


 また手が止まっていた俺達二人に、母さんが爆発した。


 ***


 トントン。


「左京、ちょっといいか?」


 食後、ベッドに横になっていると、珍しくノックをして顔を出す右京。

 俺は眺めていただけの雑誌をパタンと閉じた。


「なに?」


 俺が聞くと、右京は後ろ手にドアを閉めた。


「俺って戦隊ものの赤みたいか?」

「ん?何だよ、それ」

「言われたんだ。優しいからヒーローみたいだって」

「へぇ」

「それってさ、お前ならどういう意味だと思う?」

「それ言ったの水沼さん?」

「な、なんで……!?」

「水沼さんなんだな?」

「お、おう」


 えらく真面目な顔をした右京は、胡座をかいて床に座る。

 膝に置いた手には力が入っているようだった。


「俺からも質問」

「お、おう?」


 答えを教える前に逆に問い掛けた俺に、少し慌てながらも右京は真剣な顔をした。


「今日、ある奴が、ある子を好きみたいだって知ったんだけど」

「おう……」

「しかもそいつは、その子に告るらしくて」

「ん、うん」

「なんか……イラつく」

「へぇ!」

「なんか気になんだよね。……付き合ったりすんのかなーって」

「お前、それさ……」


 相手の答えなら簡単に出せる。

 けれど、自分のことになると嘘のようにわからなくなる。

 結局同じような質問をお互いしただけだと気付いたのは少しあと。


「お前その子のこと好きなの?」

「……てことだよな」


「水沼さんは、お前のこと好きだよ」

「……てことだよな」


 少しずつクリアになる答え。先に素直になったのは右京だった。


「俺、水沼が好きみたいだ」

「だろうね」

「は?なんで?俺、高木さん高木さん言ってたよな?驚かねぇの?」

「……お前気付いてなかったの?」

「なにが?」

「高木さんの名前出すより、水沼さんの名前出すことの方が多かったぞ」


 みるみる赤くなって、立ち上がろうとした右京を追うように口が開いた。


「俺、高木さんが好きかも」


 かなり驚いた顔をした右京が、すぐにまた腰を下ろして言う。


「まじ?」

「うん」

「まさか俺に気を使って苦しんでたとかか!?」

「まさか」

「はっ?」

「お前なんか気にしねぇよ」

「おい!!」


 俺の左肩をグーで叩いた右京は、すぐに笑って『やっぱ双子だな』と喜んだ。

 ――なんで喜んでんだよ。

 つられて笑った俺に、あいつもつられて笑う。


「今日は語るぞ!」

「語らねぇよ!」


 いきなり部屋から枕を持って戻ってきた右京に俺は呆れた。

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