第22話 二つの扉、二人の選択
第22話 二つの扉、二人の選択
ゴゴゴゴゴ……。
地下の部屋に、二つの扉が開いた。
左の扉には――
『未来へ帰る者』
右の扉には――
『江戸へ残る者』
悠真は、その文字をじっと見つめていた。
「……俺は未来の人間だ」
「……」
桜姫は黙っている。
「だから、本来なら左なんだろうな」
悠真が左の扉を見る。
すると――。
その扉の向こうから、かすかに聞き慣れた音が聞こえた。
テレビの音。
冷蔵庫の音。
そして――。
スマートフォンの着信音。
「……俺の家だ」
悠真の顔が揺れる。
「未来に帰れる……」
桜姫も左の扉を見る。
「ゆうまが帰れるのか?」
「ああ」
悠真は頷いた。
「たぶん、この扉を通れば」
桜姫は少し俯いた。
「……そうか」
その声には、寂しさが混じっていた。
「ゆうまは……未来に帰りたいのじゃな」
「……」
悠真は答えられなかった。
◆
一方、右の扉。
その向こうからは――。
桜姫の父、母、姉、小夜の声が聞こえていた。
「桜姫!」
「姫様!」
「桜姫、こちらへ!」
桜姫の目が大きく開く。
「父上……母上……」
そして――。
「桜姫、おかえりなさい」
美月の声。
「姉上……!」
桜姫は右の扉へ駆け出そうとする。
しかし――。
悠真が桜姫の手を掴んだ。
「待って」
「ゆうま?」
「……おかしい」
悠真は二つの扉を見比べる。
「どっちも、本物みたいに見える」
「どういうことじゃ?」
「試練なんだ」
悠真は考える。
「俺が未来へ帰ることもできる。桜姫が家族のところへ戻ることもできる」
「ならば、よいではないか」
「でも……」
悠真は二つの扉を見つめる。
「この試練の目的が、『己の望む道を選べ』なら――」
「……?」
「俺たちを別々にするのが目的なんじゃないか?」
桜姫の顔が曇った。
◆
その時。
部屋の奥から声が響いた。
「選べ」
「……」
「己の望む道を」
悠真は拳を握る。
桜姫は家族の声を聞いている。
「桜姫……」
「何じゃ?」
「右の扉に行けば、お前は家族に会える」
「……うむ」
「俺は左へ行けば未来に帰れる」
「……うむ」
二人は黙った。
やがて桜姫が言った。
「では……」
「うん」
「わらわは、右へ行く」
悠真の胸が痛む。
「……そっか」
桜姫は一歩、右の扉へ向かう。
しかし――。
途中で立ち止まった。
「……嫌じゃ」
「え?」
桜姫が振り返る。
「わらわは、右へ行きたくない」
「でも、家族に会えるんだぞ?」
「会いたい」
桜姫は頷く。
「とても会いたい」
そして、悠真を見る。
「じゃが……」
桜姫は悠真の手を握った。
「ゆうまと別れるのは、もっと嫌じゃ」
悠真は目を見開いた。
「桜姫……」
「ゆうまが未来へ帰ってしまったら……また、会えなくなる」
小さな声だった。
「それは嫌じゃ」
悠真はしばらく黙っていた。
そして――。
「俺も」
桜姫を見る。
「桜姫と別れるのは嫌だ」
二人のペンダントが、同時に青く輝いた。
◆
悠真は二つの扉を見る。
「……じゃあ、どっちも選ばない」
「え?」
「この試練、俺たちを一人ずつ選ばせようとしてる」
悠真は桜姫の手を強く握った。
「だったら、二人で別の道を探す」
桜姫の顔が明るくなる。
「そんな道、あるのか?」
「分からない」
悠真は苦笑した。
「でも、試してみる価値はある」
二人は二つの扉に背を向けた。
「行こう、桜姫」
「うむ!」
二人で部屋の壁を調べる。
すると――。
桜姫のペンダントが、一箇所で強く光った。
「ここじゃ!」
「え?」
壁に手を当てる。
カチッ。
小さな音がした。
ゴゴゴゴゴ……!
二つの扉の間に、隠されていた第三の扉が現れた。
そこには文字が刻まれている。
『二人、ともに進む者』
悠真が笑う。
「やっぱりあった」
桜姫も嬉しそうに笑った。
「わらわたちは、二人で進むのじゃ!」
二人が第三の扉へ近づく。
すると声が響いた。
「第二の試練――」
一瞬の沈黙。
「合格」
二つの青い石が激しく輝く。
そして――。
第三の扉が開いた。
◆
その頃、地上では。
美月が一人、蔵の前に立っていた。
「……悠真さん」
夜風が吹く。
美月は胸元に手を当てる。
「どうして……こんなに心配なんだろう」
そこへ小夜がやって来た。
「姉上」
「何?」
「悠真のこと、好きなの?」
「――っ!」
美月の顔が真っ赤になる。
「な、何を言ってるの!」
「だって、ずっと悠真のこと見てる」
「見てないわ!」
「見てるよ」
「……」
美月は黙ってしまった。
そして、小さく呟く。
「……分からない」
「何が?」
「私は……悠真さんのことを、どう思っているのか」
小夜は首を傾げた。
「好きなんじゃない?」
「……」
美月は答えなかった。
ただ――。
心の中には、悠真の笑顔が浮かんでいた。
◆
地下。
第三の扉の向こうには、さらに深い空間が広がっていた。
その中央に――。
一人の女性の姿を描いた古い壁画がある。
その女性は、二つの青い石を両手に抱えていた。
悠真が近づく。
「……この人、誰だ?」
桜姫も壁画を見る。
すると――。
女性の顔の横に、文字が浮かび上がった。
『二つの石を生みし者』
悠真と桜姫は息を呑んだ。
そして、その女性の目から――。
一滴の青い光が、静かに流れ落ちた。
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