なんとなく……なんとなくだ。
なんとなく記憶が混在している感覚があった。
そして、5歳の誕生日を迎えた朝、目が覚めると、記憶と記憶の混在がパズルのように綺麗にまとまった気がした。
「うーむ……どうなってんだ?」
俺はジークヴァルト・アレクサンダー。
両親はおらず、孤児院にいるただのガキだ。
親が死んだ時の記憶はないし、ここに来た時の記憶もない。
しかし、それ以前の記憶が明確に頭の中にある。
俺は人生の勝者になるために努力を続けてきた。
その辺の有象無象は遊んだり、恋人を作ったりと時間の無駄なことをしていたが、おれはそんな中、ずっと勉強してきたし、100点を取り続けてきた。
家が貧乏だったからバイトをしながらだったが、高校も大学も良いところに入り、大手の会社に就職した。
そこからも勝ち続ける人生だった。
無能な同期、先輩、上司を黙らせ、上へ上へと目指していった。
だが、とある昇進の翌日に事件は起きた。
俺と椅子を争っていた同期のバカが俺に負けたことに自棄を起こしたのだ。
声をかけられたことを覚えている。
そして、振り向いたらその同期はカバンから包丁を取り出し……
「チッ!」
無能が!
理性も持ち合わせていないバカが俺に勝てるわけないだろ!
人を恨む前にその短絡的な浅慮を直せ!
「クソがっ!」
まあいい。
現状の問題点はそこじゃない。
俺は確かに死んだはずだ。
なのになんで子供になっている?
しかも、ジークヴァルト・アレクサンダー……
「落ち着け。俺はあの無能とは違う」
周囲を見ると、大部屋に多くの子供達が寝ているのが目につく。
俺と同じ孤児のガキ共である。
ここは孤児院であり、俺と同じように親を亡くして行くところがなくなった子供が集まっているのだ。
「6時か……」
時計を見ると、時刻は6時を指していた。
「ふむ……」
俺は目を閉じ、状況を整理する。
そして、これからしなければならないことをゆっくりと考えていった。
「よし」
5分の思考を終えると、立ち上がり、部屋を出る。
「あら? ジーク君、今日は起きるのが早いのね」
部屋を出ると、この孤児院を運営している院長先生と遭遇した。
「おはよーございます。目が覚めたんです」
俺の声ってこんなに高いのか?
まあ、子供だから仕方がないんだけどさ。
「そうなの? ご飯はまだよ?」
ご飯って言ってもパンとスープだけだ。
この孤児院は国の補助と金持ちの寄付で運営されており、けっして裕福ではないのだ。
「資料室を使っても良いですか? 勉強がしたいんです」
「え? 勉強? ジーク君が?」
「はい。学力なき者は生きる価値がありません」
無能は搾取されるだけだ。
人生は勝者と敗者が存在する。
俺は勝者であり続けなければならない。
「……どこでそんな言葉を覚えたの?」
「真理です。それは誰もが知っていることです。そして、人はそれを受け入れられる者と誘惑に負けて堕落する者に分かれます」
「…………本当にどうしたの? えーっと、よくわからないけど、資料室は使っても良いよ」
「ありがとーございます」
礼を言って頭を下げると、さっさと資料室の方に向かう。
「優しい先生だが、ダメだな。所詮は何の生産性もない孤児院を運営するだけのことはある」
だが、ありがたいことだ。
俺はここがなかったら……優しい院長先生がいなかったら野垂死んでいたことは確かなのだから。
院長先生には感謝はしているし、立派な思想だとは思う。
しかし、俺はその道には進まない。
上を目指す者に優しさなど不要なのだ。
俺は資料室にやってくると、寄付された本をパラパラと速読していく。
「やはりここは地球じゃない……」
地名も聞いたことがないし、地図を見たが明らかに違う。
「さらには魔法……」
この世界には魔法がある。
別世界であることは間違いないだろう。
「そうなると物理法則は?」
その辺の本がないな。
ここにあるのは半分以上が絵本であり、他は低レベルの教科書ばかりなのだ。
「魔法の本はないか?」
本棚を隅々まで探していく。
すると、一冊の本を見つけた。
「えーっと、【魔法と錬金術】? んー? 著者と寄贈者が一緒じゃねーか。どんだけ自己顕示欲が強い奴なんだ?」
ここにある本には感謝の心を忘れないようにということで寄贈者の名前が書いてある。
その名前と著者の名前が同じだった。
クラウディア・ツェッテルらしい。
きっと頭の固いバカだな。
「さて……」
今度は速読せずにじっくりと読んでいく。
本には魔法の基礎が書いてあり、その後に実戦的な魔法と錬金術のことが書いてあった。
「錬金術って魔法なのかよ……」
化学的なことかと思ってた。
「うーむ……」
これを書いたクラウディア・ツェッテルというのはバカではないらしい。
魔法のことはよくわからないが、端的で上手くまとまっている本だ。
本というのは大抵、著者の思想や固まった偏見が入るものだが、これにはそれがない。
「――ジークくーん、ご飯だよ」
扉が開き、院長先生が声をかけてくる。
「忙しいです」
「ダメ。食べなさい」
「パンだけでいいので持ってきてください。これは俺の人生を決める大事な時間なんです」
1分1秒が惜しい。
すでに新しい人生が始まっているというのに5年もロスしてしまっているのだ。
「……本当にどうしちゃったのかしら?」
院長先生は困惑しながらもパンを持ってくれたのでそれを食べながら本を読んでいく。
そして、今後のことで大事な魔法を見つけた。
「使い魔か……」
使い魔という魔法を補佐する者を召喚できる魔法の説明が書いてあり、さらにはその使い魔を呼び出す魔法陣も描いてある。
「俺は何も知らない……」
この世界のことも魔法のことも明らかに知識が不足している。
特に魔法だ。
魔法は魔力と言う謎の力を使うらしい。
これがないと魔法使いにはなれない。
「やはり一番の出世の道はそちらか」
正直、魔法と言う謎の現象に惹かれていることもある。
だが、この世界は魔法が生活の中心となっているのは確かだ。
「よし。物は試しだ」
俺は本を持って、部屋を出た。