• 詩・童話・その他

神さま、ぼくはヒトに捨てられたモノじゃない。

空白のときをぼくは待っていた

この車に乗せられたぼくがどこへ向かうのか
ときどきぼくをうっとうしい目で
蔑んでいたよね
みんなとぼくが違うから
みんなと違って優しくしてくれなかったよね
友だちになりたくてもあなたにとっては別なんだ

そう、ぼくは今から死ぬ場所へ向かう飼い主の車に乗っている
鍵をかけられたかごから出られないんだ

知らない場所へ連れて行かれたよ
人びとはぼくをかわいそうに思うといいながら
仕事をしていた

お隣りにかごに入った女のこがいた
今のぼくに反応してくれたけど
かなり弱っているみたい
助けてをいいたくても叶わない命が
そこに並んでいて
ぼくたちは今夜この狭いかごから出られるんだ

「あのこたちはどうするの?」

「さあね、ホームレスに飼われていたのよ
よくいうじゃない
飼い主に似るって
ゴミあさりしていたところを保護したんだけど…
わたしには懐かなかったんだもの
…仕方ないことよ」

しばらくしてその冷たい大人の声が
ドアを閉めたあと、耳に届かなくなった

翌日、二匹の捨てられたいぬが
死を迎えていた

数日前に行き倒れたホームレスが
路地裏で逮捕されたという落書きが
レンガの壁に描かれていた

愛らしい姿をしたもっとも醜い生き物たちに
ころされた命があった事実を
ホームレスの少年が皮肉ったものだったのだろうか

あの家から消えた黒い小さないぬは
飼い主が日ごろから差別していて
写真を撮ってはいぬに怒鳴っていた

今のおれにもっと金があれば
代わりに飼いたかった

薄汚れた壁から消えた落書きには
そう書いてあったが
二匹のいぬたちは互いに冷たくなった身を
寄り添うようにして
死ぬまでそばを離れようとしなかった

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