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第二部プロローグ先行公開


表題の通り、第二部のプロローグ部分を先行公開します。
本公開時までに内容が変更される可能性があるのでご留意ください。



*****


 プロローグ:あれから二ヶ月後


 自らの生き残りを賭けた戦いを乗り越えてからちょうど二ヶ月が経った。

 暦は新たな年を刻み、神聖エタルニア王国は記念すべき建国二千年目を迎えていた。

 この国では新年の頭に建国の記念と永久の繁栄を祝う大祭『永劫祭』が行われる。

 今、その開催の儀が行われるこの大聖堂には王都の住人にして永劫教の敬虔な信徒たちがひしめいている。

 数千もの大観衆が注目する壇上には各聖堂の大司教と巫女が代わる代わる登壇し、王国の繁栄の祈る祝辞の言葉が述べられていく。

 俺は舞台の袖から巫女の守護者の一人として事の成り行きを見守っている。

 観衆と俺たちとの間は儀典聖堂の近衛兵たちが文字通り壁となって隔絶している。

 賊どころか、虫の一匹さえも入り込む余地はない。

 俺たちの今いる場所は世界で最も安全な場所だと言って差し支えないだろう。

 ……今この時点では。

「――王国に永久なる繁栄があらんことを」

 登壇していた文化聖堂の巫女が出番を終え、いよいよあいつの順番が回ってくる。

 万雷の拍手が鳴り響く中、自席から立ち上がったのは巫女ソエル・グレイス――またの名をネアン・エタルニア。

 俺と同じ転生者にして元ラスボス。

 そして、今は共犯者でもある女がゆったりとした足取りで壇上へと向かう。

 その一歩後ろを大きな緊張に脂汗をかいているナタリアが並進している。

 ネアンは壇上に付くと、堂々たる風格で観衆の顔を見渡す。

 こうして見ると全く緊張していないように見えるが、手には文字通り汗を握っているはずだ。

 その姿を見ながら思い出すのは今日からちょうど二ヶ月前に交わした約束。

『それを私たちがこの世界に来た意味にしたいんです』

 あいつが自らの呪いを解くよりも優先したその願いに俺も共感し、今日まで再び積み上げてきたものが今から発揮される。

「親愛なる王国民の皆さん、今日という日をこの場で迎えられたことをまずは感謝致します」

 まるで全ての聴衆を抱擁するように腕を左右に大きく開かれ、聴衆の視線は否応なしにネアンへと注がれる。

「さて、本来はここで他の方々と同じく祝辞を述べさせて頂く予定でしたが……今日は皆様に聞いてもらいたいお話があります」

 予定とは全く違う出だしの言葉に、他の登壇者たちが並ぶ主催席から小さなざわめきが起こる。

「今日、この日からちょうど二千年前……滅尽の邪神をこの地に封印した賢者レナはこう述べました。『人類の灯火はまだ消えていない。あの戦いを越えて今日まで生き残った私たちは同胞となり、この地に国を築こう。誰もが永久なる平穏を享受できる神聖不可侵な私たちの国を』……と」

 想像もしていなかった不測の事態に儀典聖堂をはじめとした各聖堂のお偉方も戸惑っている。

 あの巫女は何をしている。

 こんなのは予定になかったぞ。

 おい、どうなっている。

 しかし、誰もこの厳かな儀式で予定外の事態が起こるとは予想もしていなかったのかただざわつくだけで誰も対処しようとはしない。

 その間にもネアンは淡々と前もって用意されていた原稿ではなく、自分の言葉を聴衆へと述べていく。

「封印術の影響により彼女はその後志半ばで倒れましたが、その意志と力は一族の者に引き継がれました。皆様も当然ご存知かと思われますが、現神王陛下に連なる血統です」

 そう言ってネアンは一度言葉を切り、観衆の顔を眺める。

 主催席の中央に座る若き神王は自分の話が出ても未だ事態を飲み込めずにポカンとしている。

 しかし、隣に座している彼の飼い主である枢機卿ダーマ=カーディナルはただならぬ事態が起ころうとしているのを流石に察したらしい。

 静かな怒りに顔をしかめながら近くの武官に何かを伝えている。

 その言葉はすぐに舞台袖に控えていた兵士たちへと伝わり、各員が武器を手にし始める。

 何か不穏な気配が見られれば、即座に拘束しろとでも命令したのだろう。

「しかし、今のこの国はどうでしょうか? 一部の国民はその日の食事を取るのにも命を削るような労苦を重ねています。彼らが日々育てている作物は収穫の十分の一ほども彼らの手元には残りません。それはどうしてか? 僅かな金品さえも彼らは魔物災害から、自身を……あるいは家族を守るために使わなければならないからです。それは本来国家の責務ではありませんか? 国家とは民によって成り立っているのですから当然ですよね?」

 壇上からの問いかけに一部の民衆から同意の相槌が返ってくるが、残りの大半はまだ戸惑いの沈黙を続けている。

「ですが我が軍は当初、魔物から民を守る特務部隊の設立にさえ不快感を示しました。魔物の対処など格式ある国軍の仕事ではない……と言い放って。一部の心ある者の尽力により今でこそ特務部隊は存在しますが、その人員はまだ到底足りているとは言えません。私も国防聖堂の巫女としてこの現状には忸怩たる思いを抱いております。さて……そんな一般民衆方々とは逆に、上層では一部の特権階級の者が教義の名の下に野放図となっています。先日発覚したヴォルム=ブラウンの事件はまだ皆様の記憶にも新しいでしょう。あれはこの国を巣食う病理のほんの一部にしか過ぎません。彼奴らは予言を都合良く利用して私腹を肥やすだけでは飽き足らず、時には保身のために人の命さえも切り捨てます。まるで下民などいくらでも生えてくるかというようにあっさりと。果たしてこのような現状が本当にレナ=エタルニアの望んだ永久なる平穏の世界でしょうか?」

 ネアンは優しい声で聴衆へと語りかけるが、彼らからの返事はない。

 彼女が口から紡ぎ出している言葉が劇薬すぎて未だ飲み込めずにいる。

 一方で兵士たちは命令さえあれば今すぐにでも舞台上へと飛び出しそうな様相を見せている。

 だが、本番はここからだ。

「いえ、私は断じて違うと言い切ります! そして、このような国にした責任は一体誰にあるのか! それも私は断言致しましょう! それは現神王フリーデン=エタルニアに在るものだと!」

 神聖不可侵たる王を非難する言葉が発せられたのと同時に、ネアンを拘束すべく舞台袖から兵士たちが壇上へと向かおうとするが――

「おっと、人の演説は最後までちゃんと聞くのがマナーだぞ。ここからが良いところなんだから邪魔すんなよ」

 魔法で隠しておいた武器を取り出して兵士たちの前へと立ちはだかる。

 今この場における俺の役割は、あいつらの邪魔をさせないこと。

「し、シルバ=ピアース……」

 俺の顔を確認した十数人の兵士たちがその場で足を止める。

 逆側からも挟撃しようとした兵士たちをナタリアが同じように剣を片手に制している。

「た、隊長! 本当にこれでいいんですよね!? 間違ってないんですよね!?」
「ああ、大丈夫だ! 俺たちを信じろ!」

 不安に声を震えさせているナタリアを安心させてやる。

 そう、全てを救うにはこの手しかないと二ヶ月前に俺たちは決めた。

「ピアース! 貴様ぁ……! 自分が何をしているのか分かっているのか!?」

 兵士の群れを掻き分けて奥から姿を現した『元二番目の男』が怒りを露わに俺を呼ぶ。

「あいつが話し終えるまで邪魔すんなって言ってるだけだろ。そのくらいは許してくれよ。儀典聖堂ってのは随分と狭量だな」
「どうしても退かぬと言うのであれば、私が今ここで貴様を斬り伏せて否が応でも通させてもらう!」

 腰に据えた如何にも儀典用の装飾過多な鞘から長剣が引き抜かれる。

 あの時につけそびれた決着を今ここでつけるとばかりの強い戦意だが――

「出来るもんならやってみなと言いたいところだけど……どっちにしろもう手遅れだな」

 この混乱の隙を突いて、壇上では最後の言葉が宣告された。

「彼の者が建国の祖たるレナ=エタルニア……ひいては永劫樹から預かりし聖権を、今この時を以て正当なる後継者に奉還すべきであると私は宣言します! 連綿と続くこの悪しき継承に終止符を打つときが来たのだと!」

 その言葉の意味を理解した者たちの顔から次々と血の気が引いていく。

 聴衆も、各聖堂の連中も、主催席の枢機卿の顔からも。

 ほんの少し前までは喝采と熱気に包まれていた大聖堂が一瞬にして水を打ったように静まり返る。

 今の言葉の意味を要約すると、こうなる。

『現神王はその王たる権利の一切を返上しろ』

 つまり俺たち第三特務部隊+αは今この瞬間を以て、神聖エタルニア王国に反旗を翻した。



*****


と言った感じのプロローグで第二部は幕を開けます。
大まかな流れとしてはシルバ&ネアンのコンビが、ゲームでは『神国動乱編』と呼ばれるバッドエンドのシナリオを乗り越えるために奮闘する物語になっています。
攻略知識×キャラ愛の二人は答えのない物語を相手にどう立ち回るのか、また新しいチョロい女が出てくるのか、ナタリアはまたドスケベ衣装で踊ってしまうのか……。
乞うご期待ください! 現在執筆中です!

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