SS1の続きです!
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タタタッ。
季節は夏。
膨大な魔力を封じ込めながら、悪神アンリマユは人間社会のルールに従い、清楚な白ワンピ姿で街を歩いていた。
目的地は、エチチ本が並ぶ――あの聖域。
道行く人々が思わず足を止める。
「ねぇ、あの子可愛くない?」「うわっ、すげー綺麗」「俺、声かけようかな?」「やめとけ、お前じゃ振られておしまいだって!」「全身真っ白、可愛い~」
人々の視線と賞賛の声が飛び交う中……。当の本人、アンリマユは……
「黒髪ポニーテールの下着姿……柔道?……純愛……タイトルは【ピーな君にピーるピーー】」
事前にチェックしていた本の表紙を頭の中で思い浮かべていた……。
エチチ本の事でいっぱいである。
早歩きで現地へと向かう。
…………………………………
――数時間前。魔界。
「ア、アラクネ……これは少し大胆と言いますか……その……スゥースゥーするのですが……」
アンリマユは、自分のスカートの裾をそわそわと引っ張りながら、妙に落ち着かない声でそう言った。
目の前には、専属スタイリスト(仮)であり、従者であり、魔界一の悪戯好きでもあるアラクネが立っていた。彼女は妖艶な笑みを浮かべて、さらりと答える。
「ふふ……いえ、アンリマユ様? 人間の女性はね、全身白コーデを着こなす時、パンツを履かないのが基本なんですよぉ~?」
「なっ……!そうなのですか!?ワタシ、そんな人間の風習、知りませんでした!」
もちろん、真っ赤な嘘である。
アラクネは、主であるアンリマユの無垢さと流されやすさを知っていた。
主への忠誠心を保ちながらも、時折、こうして遊んでいる。
「だから、ぜっったいに、履かないでくださいね~?」
普通の人なら「え?」と疑うはずの言葉だ。だが――
「分かりました!」
即答である。
アラクネは小さく「よし」と呟き、くるりと踵を返してから、誰にも見られぬように口元を手で押さえ、ニヤニヤと笑みをこぼした。
こうして、悪神アンリマユは“ノーパン”のまま、人間界へと旅立つこととなったのだった――。
…………………………………
割と大きなビルの二階。
階段を上がり、ついに目的の店へとたどり着く。
ドアを開けた。
カランッ。
「いらっしゃいませ~」
店員の声にピクリと反応し、アンリマユは反射的に礼。
気配を殺しつつ、左手奥へと進む。
デデンデンデデン デデンデンデデン。
脳内に鳴り響くサスペンスBGM。
目の前に立ち塞がったのは、黒のレースカーテン。
その真ん中には、堂々たる「R18」の文字。
……目的地だ。
しかし、カーテンの数センチ手前で足が止まる。
ゴクリ。
チラッ、チラッ……。
「な、何故でしょうか……。あと一歩前に進むだけなのに……!」
誰もが一度は通るという、“R18の結界”。
それは、圧倒的な力を持つ悪神アンリマユでさえ例外ではなかった。
――恐るべし……R18コーナー。
レースがひらりと揺れた。
エアコンの涼風が、カーテンの隙間から漏れ出てくる。
その向こうに、目当ての本の表紙が見えた。
「ありましたっ!」
目を輝かせるアンリマユ。
先ほどの戸惑いが嘘のように晴れ、足を踏み出した……
だがその瞬間――
タッタッタッ!
「――っ!?」
背後から疾風のごとき足音!
ひらっ。フワン。
カーテンを華麗に押し分け、まるで通い慣れた旅人のように、誰かが滑り込む。
その動き、迷いゼロ!
「あっ!」
バッ!
タッタッタッタッ――!
・
・
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彼女も遅れてカーテンを持ち上げ中へ……
ヒュ~~~。
中に入ってすぐ正面、新刊コーナー。
そこに……あった。確かに、あったはずなのだ。
「……あっ」
だが――今、そこにあるのは「空のスペース」だけ。
ガクンッ
フワン……。
ガクッ
「……なっ……無くなってしまいました……」
続く……。