実は最初、こんな感じでした
20話、五万字ちょい描いたのですが、無双しすぎてやばいことになったので方向転換w
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「フェルディナンド伯。レオン様の鑑定の儀を執り行ってもよろしいでしょうか?」
神父が父に訊ねる。父はゆるりと頷き、俺に優しい声をかけた。
「レオン、お前は今日までよく頑張ってきた。きっと素晴らしいギフトに恵まれるだろう」
鑑定の儀――それは十五の年に授かる、己の運命を決定づける天賦の才を明らかにするもの。
フェルディナンド家は代々、火の力に祝福され、ドラグラス王国の魔法師たちを率いてきた。
例えば父は【白炎】を授かり、その力が発現して以降、父の髪の毛は赤から白になり、炎はすべて白く燃え上がるようになった。
通常の火魔法よりもはるかに強力で、並の魔法師では到底及ばぬ威力を誇る。
当然、長男である俺にも、その宿命と期待が重くのしかかる。
父、兄弟、そして執事が固唾を飲んで見守る中、神父は水晶を両手で掲げ、目を閉じ、ゆっくりと意識を集中させる。
「《ステータスオープン》!」
魔法の詠唱とともに、神父の目がかっと見開かれた。
俺の体の中を覗くような感覚を覚える。
「な、なんだ……このギフトは……」
水晶には、見たこともない古代文字が浮かび上がっている。
どうやら、ギフトは得られたようだ。
というのもこのギフト。皆が授かるというものではない。
五人に一人くらいの確率だと聞いたことがある。
「おい! レオンは!? レオンはどのようなギフトを授かったんだ!?」
神父は一瞬、俺を見つめたあと、困惑の色を浮かべながら口を開く。
「……《ストック》と出ておりまする」
「《ストック》だと!? それはどういう力だ!?」
その場の空気が張り詰める。
皆の視線が神父に集中する中、彼は苦しげに言葉を選びながら呟いた。
「……文字通り、魔力を蓄えることができるようで……」
「で!? それでどんな魔法が唱えられる!?」
「いえ、だから……ストックできる『だけ』としか……」
沈黙が降りる。
皆が求めていたのは、燃え盛る炎の力、絶大な破壊の力――
なのに俺が得たのは、ただ魔力を蓄えるだけの力だった。
「では、私はこれで……」
神父は足早に去った。
一瞬、俺と目が合う。
だが、その瞳に宿っていたのは、ただの憐れみ。
「ち、父上! 僕はこの力を使って――」
言葉を紡ぐ間もなく、父は冷徹に告げた。
「レオン、お前にフェルディナンド伯爵家を名乗る資格はない」
予想していたはずなのに、その一言が胸を|抉《えぐ》る。
もし俺に膨大な魔力があったなら――
せめて、まともに戦えるだけの力があったなら、追放とまではいかなかったかもしれない。
だが、俺は魔法を数回使うだけで魔力が尽き、膝をつく。
この家にとって、俺は足手まといでしかなかった。
「お前がどれほど努力していたか……俺は知っている。魔術教本を読み漁り、いくつもの系統の魔法を覚え、魔法を磨いてきたことも」
「なら――!」
「だが、努力だけではどうにもならんことがある」
父の声が静かに響く。
「レオン、お前がここにいることで、フェルディナンド伯爵家への評価は揺らぐ。それはお前自身が一番よく分かっているはずだ」
――分かっている。
貴族の世界では、落ちこぼれは存在そのものが家の足を引っ張る。
特に伯爵家ともなれば、周囲の目は鋭く、その一挙手一投足にすら裏の思惑が絡む。
少しの綻びが見えれば、下位貴族たちは虎視眈々と陥れる機会を狙う。
それは歴史が証明していた。
誰かの失態が――誰かの能力が欠如していることが、家そのものの崩壊を招く。
俺がこの年になるまでに、何人もの貴族の子が行方不明になったのを見てきた。
そのほとんどは、その日のうちに始末されていると聞く。
これは、父にとっても苦渋の決断だったのは伝わってくる。
なぜなら、その声は震え、握りしめた拳からは血が滲んでいるからだ。
俺自身、この家を恨むことはできなかった。
追放を言い渡されたというのに、まだ。
父は多方面から早く俺を追放しろと言われていたのを俺は知っている。
その度に父は「鑑定の儀までは様子を見る」と、突っぱねていた。
もし他の貴族の家に生まれていたなら、十五を迎える前に追放……下手すれば消されていたかもしれない。
それほどまでに、俺の魔力は低い。
「ここにいる者全員に告ぐ」
父の声が広間に響き渡る。
震えながらも、その響きは鋼のように硬い。
「レオンは最初からフェルディナンド家にはいなかった。今後会うことも、話すこともない。他言無用。そして――すべてを忘れろ」
その言葉が広間を支配する。
だが、一人だけ、笑う者がいた。
腹違いの弟――クロヴィス。
数日後に鑑定の儀を控える俺の弟が、冷たい笑みを浮かべながら嗤《わら》った。
「だから言ったじゃないですか。穀《ごく》潰《つぶ》しは早めに処分したほうがいいって――」
その瞬間――
パシィィィン!
乾いた音が広間に響き、クロヴィスの頬に父の手形が焼き付けられる。
「クロヴィス、忘れろと言ったはずだが?」
父の低く鋭い声が、広間の空気をさらに凍らせた。
クロヴィスは、じっと俺を睨みつけながら、父に頭を下げる。
「申し訳ございませんでした」
父はクロヴィスの謝罪を確認すると、俺の横を通り過ぎ、広間を後にする。
すれ違った瞬間、上着のポケットにわずかな重みが落ちる。
家族は誰一人、振り返ることなく立ち去った。
クロヴィスは最後まで俺を睨みつけながら、無言で父の後を追う。
その後ろには、クロヴィス擁立を企てていた執事やメイドたち――
まるで俺など存在しないかのように、淡々と背を向けた。
対照的に、俺の傍には誰もいない。
俺の味方は、最初からどこにもいなかった。
魔力がないに等しい俺を擁立しようとする者などいるはずがない。
唯一、味方になってくれたであろう実の母は、俺を産み落とすと同時に息を引き取ったのだから。
取り残された静寂の中。
俺は父とは――クロヴィスとは逆の道を選ぶように、踵を返した。
屋敷の大門が、重々しく閉まる音が背後に響く。
その音が、俺の過去との決別を告げる鐘のように思えた。
だが、それでいい。
いつか必ず、皆を見返す魔法師になる。
その誓いを胸に刻み、俺は歩き出した。