それは、言葉を数えていた日のことだった。
――「『ん』で終わる言葉はいくつあるのだろうか?」
あん、いん、うん、えん、おん……。
紙に一つひとつ書き連ねるうち、言葉が増えていく感覚があった。無限に続く組み合わせ。
この世界は、もしかしたら「言葉」でできているのではないか。そんな奇妙な直感が、僕の頭を貫いた。
その夜、僕は眠りについた。
目を開けると、そこは見慣れない空間だった。空も地面もない。ただ、浮かんでいる感覚だけがある。時間の流れすら曖昧だった。
――「ここは、どこだ……?」
周囲には無数の文字が漂っていた。「案」「暗」「庵」「杏」……それは、日中に僕が書き出した言葉の群れだった。
「お前は目覚めつつあるようだな。」
声がした。いや、声ではなかった。脳に直接「響いて」くる何か。
その場に突如として現れたのは、人のようで、人ではない存在だった。白い布をまとい、目元を隠した者――その名を、「ヒビキ」と言った。
「一次元とは点。だが、点にもわずかな縦軸、横軸、高さがある。つまり……存在しない。二次元も、三次元も……全ては重なり、錯覚にすぎない。」