サポーターの皆様!
いつもギフトを送ってくださり、ありがとうございます!
さて、現在書籍化作業中の『追放騎士』は、12月10日の発売に向けて順調に進んでおります。
書籍はweb版を元にしておりますが、大幅な加筆修正、細かい設定の見直しを行っています。
さらに、小説版オリジナルのエピソードもありますので、web版よりも間違いなく楽しめる内容になっております。
何より、むに先生のイラストがありますからね。
期待していてください!
サポーターの皆様におかれましては、すでにご予約いただいていると思います。
本当にありがとうございます。
それでは、10月サポーター限定SSを公開します(一般公開の可能性があります)。
今回はシャルクナのお話です。
時系列は、現在連載中の『海の魅力と恐ろしさ』シリーズの少し前になります。
書籍化の際は、エピソードに組み込んで加筆すると思います。
とはいえ、そこまで続刊しているかという問題がありますけど……。
続いてほしいなあ……。
続くために売れてほしいなあ……。
なお、近況ノートではルビをつけることができないので()で記載しています。
◇◇◇
【初めての経験】
シャルクナの朝は早い。
いや、早いどころか日の出の遥か前に目を覚ます。
ベッドから出て顔を洗い、三面鏡で青紫色の髪を整え、メイド服に袖を通す。
メイド服は今のシャルクナの仕事着だ。
この家の主人であるマルディンは、日の出前から早朝トレーニングへ行く。
当然、シャルクナは見送る。
マルディンから見送りは必要はないと言われているが、メイドの仕事だと頑なに受け入れなかった。
シャルクナはあまりにも真面目で、融通が効かない。
マルディンを見送ったあとは、黒風馬(ルドフィン)のライールに餌を出し、厩舎を掃除する。
そして広い屋敷を掃除していく。
毎日掃除しているし、マルディンとシャルクナしか住んでいないため、屋敷が散らかることはない。
日の出と同時に掃除は終わる。
一階にある客室の一室はラミトワの荷物に占領されているが、マルディンが何も言わないので、シャルクナも放置している。
むしろシャルクナにとって、ラミトワの訪問は楽しみの一つでもあった。
トレーニングに出たマルディンは、港で朝食を取るため用意する必要がない。
普段の朝食は自分の分だけを作る。
といっても、前日の食事の残り物で作り直す。
シャルクナは驚くほど質素だった。
マルディンからは自由にしていいと言われているし、もっと良いものを食べろと注意される。
だが、頑なに拒否していた。
今日のマルディンは、丸一日トレーニングを行うそうだ。
朝食を終えたシャルクナは、一階の仕事部屋で本来の業務を行う。
特殊諜報室(ホルダン)の連絡係として情報の整理や各種報告、マルディンの報酬管理なども含まれている。
一通りの書類を作成して庭へ出ると、連絡用のBランクモンスター、大鋭爪鷹(ハースト)が専用の止まり木に大人しく待機していた。
この大鋭爪鷹(ハースト)はマルディンが連絡用に飼育しており、千キデルト離れた皇都へ半日で飛行する。
緊急時は一日かからず往復するという、非常に優秀な大鋭爪鷹(ハースト)だった。
「これが書類です。頼みましたよ」
「クワアア」
大鋭爪鷹(ハースト)の足に書類が入った筒を取り付けると、真っ青な大空へ飛び立った。
そろそろ太陽が頭上に来る頃だ。
シャルクナは夕飯の買い物のために、港の市場へ向かった。
そこで漁師のグレクと遭遇。
「グレク様、いつもお世話になっております」
深くお辞儀をするシャルクナ。
「シャルクナさん! いつも言ってるだろ! 様はやめてくれって!」
だが、シャルクナは頑なに拒否している。
マルディンのメイドという姿勢を崩さない。
「なあ、シャルクナさんって、昼飯はどうしてるんだ?」
「夕飯の準備をしながら、済ませております」
「ってことは、一人で食ってんのか?」
「左様でございます」
「そうか。じゃあさ、今日は港で食っていきなよ」
「え? 港でですか?」
「ああ、食べさせたい魚があるんだよ」
「し、しかし……」
「大丈夫だから。マルディンは今日一日トレーニングだろ? 朝会ったぜ。そん時にシャルクナさんに食わせたい魚があるって伝えてるんだ」
「そうでしたか。かしこまりました」
お辞儀をしたシャルクナを見て、グレクが振り返った。
「おい! シャルクナさんが食べるぞ!」
「「「マジっすか!」」」
若い漁師たちが色めき立った。
シャルクナはその容姿と佇まいから、若い漁師に絶大な人気を誇っている。
何人かの漁師は、本気で恋をしているようだ。
「今朝、一角鮪(グラーダ)が水揚げされたんだよ。うちの港じゃ、週に数本揚がる程度だからな。なかなか珍しいんだ。赤身が濃厚で旨いよ」
港に設置されているテーブルで、シャルクナは十人ほどの漁師と一緒に一角鮪(グラーダ)料理を堪能した。
「あの、グレク様。この一角鮪(グラーダ)を購入したいのですが?」
「はは、気に入ったか。今日の夕飯にするのかい?」
「はい。マルディン様にも食べていただきたいです」
「ちっ、あの野郎……。羨ましい限りだぜ」
さすがにグレクも嫉妬した。
若い漁師たちの額には血管が浮き出たほどだ。
シャルクナは一角鮪(グラーダ)の切り身を購入し帰宅。
さっそく夕飯の準備に取りかかった。
仕込みを終え、あとは仕上げの調理をするだけとなり、シャルクナは自室へ戻る。
そこで一旦メイド服を脱ぎ、動きやすい服に着替えた。
地下室へ向かい、愛用の両断剣(ツヴァイヘンダー)を握る。
剣の長さは自分の身長と同じくらいで、剣幅は十五セデルトにも及ぶ大剣だ。
それをシャルクナ独自の方法で振り回す。
遠心力を利用した剣技だった。
「ここにいたのか?」
「マルディン様! おかえりなさいませ。お出迎えせずに大変失礼いたしました」
深く頭を下げるシャルクナ。
マルディンがいつもより早く帰ってきたのか、両断剣(ツヴァイヘンダー)を振る時間が長かったのか、珍しくシャルクナには判断できないほど集中していた。
「いいって、気にすんな。それより剣の稽古か?」
「はい。あの、マルディン様。失礼を承知で……お願いがあるのですが……」
「ん? 何でも言ってみろ」
「手合わせいただいてもよろしいでしょうか?」
「お、いいぞ!」
マルディンのトレーニング内容は知っている。
あまりに壮絶で、常人なら午前中の時点で倒れるような内容だ。
あのトレーニング後に剣を握るなんて人間には不可能なのだが、それでもシャルクナは、マルディンに稽古をつけてもらいたかった。
シャルクナ唯一のわがままだ。
それもそのはず、世界三大剣士に数えられる自国最強の皇帝陛下ですら、敵わないと言わせる剣士が目の前にいるのだから。
二人は数回試合をした。
疲れ切っているはずのマルディンに、シャルクナは一度も勝てない。
それでも得るものが大きく、剣士としてのマルディンに対し、より強く尊敬の念を抱くシャルクナだった。
稽古を終え、シャルクナは再びメイド服に着替えた。
そして夕飯の用意だ。
「こりゃ旨いな!」
「はい。グレク様に教えていただきました」
「あー、そういや今朝会った時、シャルクナに食わせたい魚があるって言ってたな。それが一角鮪(グラーダ)だったか」
マルディンは夕食に限って、同じ食卓で食事をするように提案した。
当然シャルクナは断ったのだが、マルディンは譲らず命令に変更。
命令となれば、シャルクナは従うしかなかった。
「なあ、シャルクナ。少し飲まないか?」
「え? マルディン様はトレーニングをされてますが……」
トレーニング後に酒を飲むと、効果が落ちると言われている。
「まあ今日は特別だ。こんなに旨いものを食ったら飲まないわけにはいかんよ。あっはっは」
「かしこまりました。それでは地下室から葡萄酒をお持ちします」
「待て待て。俺が行く」
マルディンが席を立つ。
「なあ、シャルクナ。この一角鮪(グラーダ)に合う酒はなんだと思う?」
「え? あの……」
試されていることに気づいたシャルクナ。
濃厚な一角鮪(グラーダ)の赤身と、マルディンの好みから品種を考える。
地下室にはいくつもの高級葡萄酒が保管されていた。
だが、シャルクナは別の酒が思い浮かんだ。
「葡萄酒ではありませんね? 火酒です。それもジェネス王国北部のものです」
「あっはっは! よく分かったな! その通りだよ。待ってろ、今持ってくる」
正解して胸を撫で下ろすシャルクナだった。
マルディンが地下室へ行っている間に、シャルクナはグラスを二つ用意。
そして、火酒で乾杯した。
食事をして酒を飲みながら、今日あったことなど他愛のない話を交わす。
「じゃあ寝るかな。シャルクナ、片付けは明日でもいいぞ。早く寝ろよ?」
「ありがとうございます」
食事を終え、マルディンは二階の自室へ向かった。
マルディンの言いつけを守らず、シャルクナは完璧に片付けを済ませた。
風呂に入り、自室で髪の手入れをする。
家具とベッドしかない部屋なのだが、質素すぎるとマルディンが用意した三面鏡の前に座る。
「今日も……楽しかったな。うふふ」
ベッドに入り、美しい切れ長の瞳を閉じる。
シャルクナは明日の夕飯のメニューを考えながらも、何も決まらず、すぐに深い眠りについてしまった。
真面目なシャルクナにとって、実は初めての経験だった。
潜入先で任務が楽しいと思えることが。