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とても嬉しいですありがとうございます!
現在話は87話まで進んでいるのですが、予定していたプロットからちょいちょい外れて進んでいるため100話で終わるか不安になってきました。
110話まではかからないと思うのですが……。
とりあえずなんとなく話を書いたので良かったら読んでみてください。
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幕間小話「夢」
200年程前のこと。その人間は見るからにみすぼらしい姿をしていた。
結婚もせず、安い部屋を借り、服代も毎日の食費も惜しんでひたすらに魔法の研究に打ち込む人間だった。
人間は魔法の研究をしているときだけ、生きている実感があった。
魔法に出会うまで普通に暮らしていたはずだが、どう暮らしていたか今となっては忘れてしまっていた。親の顔はかろうじて覚えているが、友達の顔はもう忘れてしまった。
その人間にとって魔法より大事なことはなかった。
死に物狂いで勉強し、5年遅れで魔法学校に入学し、寝食を忘れて勉強に没頭し、5年後には首席で卒業した。
幸いにも研究系の職業につくことができ、寝食を忘れて仕事に打ち込んだ。
何度も上司に結婚を進められたが、すべて断った。家に帰る時間があれば研究をしたかったからである。
酒も好きだが飲まなかった。研究が進まなくなるからである。
甘いものも好きだったが食べなかった。甘いものを買う金があれば研究費に回したかったからである。
毎日毎日狂ったように研究に励み、己を顧みることもなく。部屋は荒れ、他人はその人間を狂人の類だと判別するようになった。
しかし人間は気にしなかった。おかげで、毎日研究ができて幸せだったからだ。
幸せを妨げるものはなくなった、と思ったものの唯一残っている研究の邪魔。それは寿命である。
「あー、なんで人間なんかに生まれたんだろうなぁー」
人間はどうしようもないことをぼやいた。人間はもう三十代。まともに研究者として残された時間はおおよそ20年。よくて30年だろう。下手すればあと10年もできれば御の字かもしれない。
ずっと家に引きこもって研究している己の生活は健康的とはとても思えない。自分が、せめてエルフに、できれば聖樹族の方のエルフに生まれることができれば、人間らしい生活も、満足行くだけの研究も、どちらも両立できるであろうに……。
たった3,40年しか研究の出来ない人間と、少なくとも数百年を研究に当てることが出来るエルフ。
人間は、そこから睡眠時間を削り研究を2つに増やした。霊薬の研究と、転生の研究である。前者についてはそこそこ業績を残したが、後者については文献は残っていない。ただ、研究者の死体が発見された時、満足そうな死に顔だった、という話だけが伝わっている。
「うーん、世界樹って寿命とかどうなんだろ」
「知らないッス。でも扶桑様は12000歳超えてるッスからね。上手く生きればそのくらいまでは余裕何じゃないんスか?」
「うーん、そんな長い時間、何をして過ごせばいいんだ……」
主である世界樹はそんな贅沢な話をしている。
「なんでも好きなことして過ごせばいいんスよ。私も好きなことしつつ、若君のお世話する予定ッスから」
「お前は趣味9:仕事1くらいの比率で生きてるよな」
「いやあ、7:3くらいはあるっすよ、若君には長生きしてもらわないと、私の仕事がなくなると再就職が大変ッスからね!」
エルフは本音で語ったつもりだが、主の世界樹は胡散臭そうな目でエルフを見ている。
「お前、最終的な人生の夢とかあんの?」
「あるけど、もうないんすよ」
「どういうこと???」
「秘密っす」
この主が生きている間、多少の仕事はしながらでも1000年以上好きな研究ができるだろう。好きな魔道具を作って斬新な霊薬を作る。1000年以上あれば、どれだけの研究成果が出せるだろうか。まだ研究を始めてから110年ほど。
エルフの夢はもう叶っている。これ以上は望まない。
あとは、何を作るか、新しい研究材料を見つけるか、というだけの話である。