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SS『カズトの憂鬱』

これは本編の幕間で語られるかもしれない物語です。いずれこうなる未来のことを書いてるってわけですね。



「……」
「やぁ、遊びにきたよ」
「帰ってくれ」

「まぁまぁそう言わずに」と明らかに俺の反応を楽しんでいるA37。やはり長年生きている幻想少女は性格が歪んでくるのだろうか。

バレたら俺なんか肉片も残らないようなことを考えながら、胸ポケットから取り出したライターに火をつけ、彼女の口元まで運ぶ。

「ご苦労、肉体式自動発火装置くん」
「人を機械人形みたいに言わないでくれ」
「そうカッカなさんな。怒らせた代わりにイエルロに食べられないように床下の隠し冷蔵庫に保管してある最高級ケーキを食べるのを手伝ってやろう」
「毎回毎回、どこからその情報を……」

口内で文句を反芻しながら、渋々床下ハッチの嗜好品を取り出す。

もう一度彼女を見ると、どこからか取り出したドリッパーとミルでコーヒーを淹れていた。

コーヒーなんて、俺の手元にある三つ星ケーキ以上の高級品をどこで手に入れたんだ?

俺の視線に気がついたのか、いじらしい笑みを浮かべ、俺に話しかける。

「これはDr.フォードボルト御用達の共和国産のコーヒー豆でね? インコネル製の缶詰に入っていたのを引っ張り出してきたってわけさ」
「たかだか嗜好品にインコネル合金かよ……」

中のコーヒー豆ですら30万クレジットはくだらない代物だが、缶詰の部分に至っては当時の末端価格で300万、今なら安く見積もって1億5000万はくだらない、正真正銘この世で最も贅沢なコーヒー。

「こんなの開けて、Dr.フォードボルトが不憫でならねえよ……」
「別にいいんじゃないか? 死人に口無し。にはは、文字通り飲むための口すらないんだ」

豆から抽出した黒く、深みのある茶色の液体をティーカップに注ぎ込む。

コトポポポ……という音とともに広がる刺激的でいて安心感のある風味豊かな香り。

「いただこうか」
「あぁ……」

まずはコーヒーを、と持ち手に手を伸ばしてしまいそうな誘惑に打ち勝ち、フォークでケーキの先端を抉り取り一口。
貴重品である砂糖と牛乳をふんだんに使った濃厚で口溶けの良い味が舌いっぱいに広がる。

その最大の贅沢を完成させるために、俺たちは競うようにコーヒーを傾けた。

「……!?」

初めに感じたのは、味わったことのない深い苦味だった。飲み込んだ後も舌の根に残ったフレッシュな後味が心地よく、滑らかな酸味がスッと口全体をくすぐる。

「う、うまい」

今までに、代用コーヒーを飲んだことは何度もあった。総指揮官に招待されたパーティーで本物を飲んだ時の感動も覚えている。
しかし、それら全てを上書きしてしまうほどの強烈な味の記憶、それがこのコーヒーにある。

「にはは」

突如笑い声が聞こえ、
A37がフォークを手にとっているのを見た。丁寧に、ケーキの上部にあるホイップの塊を掬い取り……まて、そんな犯罪的なことをしていいのか?

そのまま、コーヒーに溶かし入れた。

「怖いなら別のカップでやればいいさ」

差し出されたカップに改めて注ぎ、試してみる。

「!!」

すっきりとした味わいに乳脂肪分が追加されることで、先ほどとは別物へとマイナーチェンジした!

「……ありがとう」
「ん? 俺はただお前に大きな貸しを作りたかっただけだよ」
「あぁ、そのお礼に……いつか絶対に、お前を俺の部隊に引き摺り込んでやる」

A37は、一瞬俺のことを見たかと思うと、いつもの笑い声を上げて、また煙草を吸う作業に戻る。

「にはは、ニュービーが俺を使うなんて、100年早い。せめて俺と同じくらい長生きしてから言ってくれ」
「……それは」

彼女の言の葉の裏を感じ、何か聞こうと思ったが、夕焼けが差す横顔を見て、思わずためらってしまう。

「……あぁ、その時が来る前に懇願させてやるよ」

その言葉を聞き届けるや否や、俺の顔に向けて肺に溜め込んだ紫煙を吹きかける。

「ゴボッ、ゴボゴボッ! 何するんだよ!」
「バァァァカ、それこそ100年早いわ」

いつものように、彼女が窓から身を投げ、侵入者を告げる警鐘がなる。

「……そろそろ、彼女には反応しないようにするべきじゃないか?」

『おまけ設定』

A37には、気に入った人間に煙草の煙を吹きかける癖があります。面倒を見てくれた親父さん譲りです。

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