カクヨム

『アイデア置き場』のエピソード「 」の下書きプレビュー

アイデア置き場

作者
クファンジャル_CF
このエピソードの文字数
1,662文字
このエピソードの最終更新日時
2018年7月4日 09:22

湿原に、その村はあった。

小さな集落である。周囲を取り囲む柵と水堀の外、わずかばかりの畑と狩猟。雨季にはすぐそばまで迫る河川での漁業とそしてささやかな交易で成り立っている土地だった。辛うじて乾燥した空間を拠点に、住民たちは開拓してきたのである。

立ち並ぶ家屋はいずれも高床式。不意の洪水に備えたものだが、床下を通る風のお陰で涼しいという利点がある。また、空いた空間には家畜を飼うという役目もあるのだった。

太陽が沈んで久しい。普段ならば眠りに就く時間だったがしかし、今宵は違う。そこかしこで篝火が焚かれ、武装した男たちが行き交っていた。すぐそばに小鬼ゴブリンが出たとの報が入ったからである。徒党を組んだこの怪物どもはときに恐ろしい力を発揮する。油断ならなかった。

とはいえ村人たちは、深刻に考えすぎもしていなかった。村で飼育している何頭もの象はいざとなれば強力な戦力となったし、すぐそばの館に住まう王族の女性―――村人たちはお館様と呼んでいた―――は力ある魔法使いである。いざとなれば助けを求めることもできた。

そんな中、物見櫓ものみやぐらに詰めていた村の男は、夕日が沈んだ方角に揺らめく炎を認めた。

「……なんだ?」

目を凝らす。はじめはっきりとは見えなかったその様相が、やがて明らかとなった。

それは、松明だった。ひとつではない。十でも効かない。何十という松明を手に手にこちらへ迫ってくるのは、下卑た笑みを浮かべ、武装を携えた、多種多様な怪物どもの集団。

事態を認識した男の額を流れていったのは脂汗に違いあるまい。

「……なんてこった……」

全貌は今だ明らかではないがしかし、奴らが相当な多勢であるのは明白である。

男は、足元に向けて叫んだ。

「闇の種族の大軍だ!!こっちに向かってるぞ!!」


  ◇


進軍を続ける闇の軍勢。

その先頭集団で、小鬼ゴブリンの一匹は興奮していた。

いよいよニンゲンどもの里に攻め込むのだ。女を犯そう。男は四肢を引きちぎって殺そう。子供は奴隷としよう。略奪も思いのままだ。素晴らしい。この軍勢の前では奴らなどひとたまりもあるまい。

この軍勢に参加する、全ての者が同じ心持ちだったろう。

だから、前方。やや右方向、こんもりとした丘陵の上に現れた人間を見つけたときも同じように考えたに違いない。

―――女?

それは、ローブをまとい顔をヴェールで隠した、恐らく女であろう。たった一人?

小鬼ゴブリンの疑問に答えるかのように、そいつは右腕を振り上げた。その、瞬間。

―――揺れた。

明らかな地揺れ。大地が震えたのである。一度だけではない。二度。三度。

狼狽する怪物どもの向く、視線の先。女の背後で、それは起こった。

―――なんだ。あれはなんだ!?

女の横手にのは、手。だがあの大きさはなんだ。片手だけで小屋ほどもある巨大さを備える手などあるはずがない。なのにあれはなんだ。あれは現実なのか。ならばその持ち主はどれ程の巨体なのか。嫌だ。見たくない。そんなものを見てしまったら―――!!

小鬼ゴブリンの願いむなしく、そいつは


―――VVVOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!


咆哮―――なのだろう。そいつの口から漏れだしたのは。

そう。口がある。目がある。しかしそれはまるで子供の落書きのような単純なものであり、そしてそれが刻み込まれているのは、粘土。驚くほどにずんぐりむっくりの巨体はユーモラスとすら感じられたがしかし、そんな可愛らしいものではない。なぜならばそいつは、地形ほどもある巨体を備え、立ち上がり、あまつさえとしている!!

粘土で作られた巨人。すなわち粘土人形クレイゴォレムは、女を守るように一歩進んだ。

それで終わりではない。

次々と丘陵の上。女の左右に現れたのは、盾と槍。そして微塵ボーラで武装した、百にも届こうという数の男たち。さらにそやつらの右翼、道の奥から進んできたのは何頭もの巨大な象である。

無力な集落?とんでもない。力ある魔法使いが、あそこにはいたのだ!

魔法使いの女は腕を振り下ろし、そして叫んだ。

「皆殺しとせよ。闇の者どもに身のほどというものを教えてやれ!」

合戦が始まった。



共有されたエピソードはここまで。 クファンジャル_CFさんに感想を伝えましょう!

小説情報

小説タイトル
アイデア置き場
作者
クファンジャル_CF
公開済みエピソードの総文字数
0文字