homesick revolver
旧第一話(2024/8/28版)
- 作者
- 画野 四雪
- このエピソードの文字数
- 3,300文字
- このエピソードの最終更新日時
- 2025年9月20日 11:19
曇り空に、黒い雲が流れている。
普通の、ごくありふれた住宅街の中に建つ、二階建て、白い壁のアパート。そこの駐車場には、見慣れた感じの車が並んでいて、そのどれもが、さっき止んだ雨に濡れたままだ。
電柱の電線から、水が滴っている。
そんな、雨で湿った駐車場のアスファルトを、ナオの革靴が踏みしめる。
歩く彼女の、ゆっくりと落ち着いた足取りに合わせて、黒い革靴が硬い足音をコツコツと立てている。
空は一面、黒い曇り空。
昼間なのに暗く、歩くナオの先にあるアパートの白い壁が、曇りの日陰によって灰色に見えてくるほどの暗さだった。
そんな暗い曇りの日陰を寒く感じたのか、ナオは歩きながら、小脇に抱えていたコートに袖を通し、スーツの上から羽織った。
彼女はスーツを着ていた。黒色のスーツで、下はスカートではなくズボン、首には黒色のネクタイが
男のようなスーツだが、ナオは女性である。彼女の低い背丈や、スーツ越しにもわかる細い身体つき、肩まで伸びた髪に、白い肌を見れば、一目で女性だとわかるだろう。
そんなナオはアパートへ歩きながら、着ている黒色のスーツの上に、茶色のトレンチコートを羽織った。彼女の小さな身体にはサイズが大きいらしく、丈が長くブカっとしている。
ナオはそんなコートの前を開けてスーツの上に羽織ると、そのポケットへ両手を寒そうに入れ、アパートへ歩く。
地面には水溜りがあり、彼女はそれを避けて歩いている。
そんな、水溜りを見るナオのその目には、
どうやら寝不足らしく、彼女は歩きながら、その隈のある目を、時より手でグイと擦っていた。
それだけでなく、どうやら頭も痛めているようで、その顔色も優れていない。
彼女は少し青白い顔をしていた。
そんなナオへ寒い風が吹いて、羽織ったコートが揺れる。
彼女の履く革靴が、地面に靴音を硬く立てている。
そうして歩いていると彼女はアパートへ着き、その階段をのぼり始めた。
階段内は暗く、光も風も入ってこない。
階段の低い天井には、クモの巣が薄く張っている。
そんな階段に、ナオの靴音だけが静かに響く。
ナオは階段をのぼりながら、首に締めている黒色のネクタイを片手で軽く締め直した。
その、彼女の小さな手の肌は白く、指も折れそうに細い。
そんな手で、彼女は隈のある目を擦った。
アパートの二階までのぼる。
ナオがその一階までのぼった時、彼女はおもむろに、コートの右ポケットへ手を入れ、そして、その中から
黒い
小型で隠し持ちやすいもので、ナオのコートのポケットの中に、今まで見事に隠れていた。
そんなリボルバーを握るナオは、黙々と階段をのぼっている。
暗い、静かな階段の中で、彼女の握るリボルバーが、小さく黒光りする。
そしてナオは、今度はコートの左ポケットへ手を入れ、そこから数発の
暗闇の中、ナオの小さな手の上で、銃弾の
ナオは階段をのぼりながら、リボルバーの弾倉へ、その銃弾を指で一発ずつ、丁寧に
暗い階段には、拳銃を握るナオの靴音だけが、コツ、コツと静かに響いている。
外の方から、電車の走る音が響いてきた。
アパートの二階。
その、部屋の玄関ドアが並んでいる廊下に、ナオは着いた。
彼女の靴音が、静かな床に響く。
廊下からは曇り空が見えて、寒い風が入ってくる。
ナオはそんな廊下の壁際に、無言で立ちどまった。
両手を腰の前で組み、無言で、静かに立った。
黒いリボルバーは、変わらず彼女の右手に握られたままだ。
そんな彼女は、廊下の奥にある部屋、206号室の方を、静かに見つめている。
彼女の見つめる206号室は、別に、変わった部屋には見えない。
他の205号室や203号室と変わらない、普通の部屋である。
ナオはそんな部屋の扉を、時よりその隈のある目を擦りながら、静かに見つめていた。
暗い曇り空では、寒い風と共に、黒い雲が音もなく流れている。
そうしてナオが廊下に立って、少し時間が経った頃。
ナオの見つめる先、206号室の扉が開いて、中から人が出てきた。
ガチャリというドアの金属音が、静かな廊下に響く。
出てきたのは、二十歳とかだろうか、ナオと同い年くらいの若い男だった。恰好は普通の人と同じで、特にナオのような黒いスーツ等は着ていない。普通の格好の男だ。
そんな男はドアを開けたまま、206号室内へ振り返り、室内へ
「コンビニ行くけど、いるもんある?」
と呼びかけた。
すると206号室の中からは
「あー、あれ。タバコ買ってきて。金後で返すし」
と、また若そうな男の声が薄く聞こえてきた。
部屋の中にもう一人、若い男がいるのだろう。
そんな若い男二人のやりとりを、ナオは廊下から静かに、隈のある目で見ている。
「二箱?」
「うん、二箱買ってきて」
「わかった。俺鍵持ってないから、帰ったら開けて」
「おう、いってら」
男がドアを閉めようとする。
その時、男の胸から血が噴き上がった。
男の胸から、赤い血が大きく飛び出し、辺りに飛び散った。
男はたちまちその場に崩れ落ち、開いたままのドアにもたれかかった。
男の胸、ちょうど心臓のある左胸から、血がドクドクと溢れ出している。
男は血の流れ出る胸を手で押さえつけ、息を荒くして、その場で必死に悶えている。水に溺れるような激しい呼吸が聞こえる。
その苦しみ悶える男の、揺れる視線の先。
そこにはナオがいた。
銃口から白煙を上げるリボルバー。
それを構えるナオが、苦しむ男の視線の先に立っていた。
静かだったアパートの廊下に、耳鳴りのような銃声の余韻が、響き渡っている。
ナオに撃たれた男は、動けないまま206号室内へ振り返り、そして力を振り絞った大声で
「殺し屋だ!逃げ──」
爆音の銃声が響く。
男は頭から血を噴き上げた。
男の脳天から大きく飛んだ血が、辺りの床を赤く濡らした。
ドアにもたれかかったまま、男は動かなくなった。
額と胸から、コンクリートの床へ血を無言で流していて、呼吸の音も聞こえてこない。
目も、魚のように見開かれたままで、瞬き一つしなくなった。
死んだ。
銃口から上がった煙が、寒い風に揺れている。
リボルバーを握るナオは男の死体を、隈のあるその目で見つめていた。
その時、206号室の奥で物音が鳴った。
死体を見つめていたナオはハッとして、すぐさま206号室へ、リボルバーの
ナオの革靴が血だまりを思い切り踏み、赤く濡れる。
206号室内。その奥のリビングでは、もう一人いた若い男が部屋のガラス窓を開けて、外へ逃げようとしていた。
男は既にベランダの柵へ足をかけていて、今にも逃げそうだ。
靴で部屋へ入ったナオは瞬時にリボルバーの狙いを男へ向け、引き金を引いた。
爆音が部屋に鳴り響く。
銃声に耳が痛み、反動がナオの腕を走った。
ベランダの男が今にも柵を越えようと、柵を掴む腕に力を込めた。
が、その脳天で血が噴き上がった。
赤い血が大きく飛び散り、窓ガラスが赤色に濡れる。
頭から血を噴き上げる男は、ベランダから外へ落下した。
部屋には、ナオ一人だけになった。
銃声の余韻が、静かに響く。
部屋に花火の後のようなにおいが、静かに漂っている。
ナオはベランダから落ちた男を追って部屋の奥へ進み、窓へ向かう。
静かな部屋の床に、血に濡れた革靴の足音が響き、赤い足跡がつく。
ナオは血まみれのベランダの柵から下を見た。
寒い曇り空の下、雨で湿ったアスファルトの上に、若い男が一人、首を変な方向に曲げて倒れていた。
男は血まみれで、倒れたまま、作り物の人形のように動き出さない。
死んでいる。
そんな男の死体を、ナオはベランダの柵越しに、静かに、隈のある目で見下ろしていた。
ベランダの柵から赤黒い血がポトリと滴り、ナオの足元へ落ちる。
開かれたままの窓のガラスは、男の血で真っ赤に濡れていた。
ナオはリボルバーを片手に、その場に立ち尽くした。
遠くからか、電車の走る音が聞こえてきた。
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小説情報
- 小説タイトル
- homesick revolver
- 作者
- 画野 四雪
- 公開済みエピソードの総文字数
- 642文字