アイデア置き場
- 作者
- クファンジャル_CF
- このエピソードの文字数
- 2,066文字
- このエピソードの最終更新日時
- 2018年7月4日 09:02
「お?若様ぁ!お早いお帰りで」
庭仕事中の下男が少年の姿を認めたのは、太陽がまだ昇り切っていない時間だった。象での遠乗りに出かけたこの、主人の孫にあたる人物はいつもならば午後までは戻らないはずだが。
のっしのっし、と心なしかいつもより早脚でやってくる二頭の象。手助けをすべく歩み寄った下男は怪訝な顔をした。かすかな鉄の臭い。それに、皆の強張った表情はなんだ。少女に至っては顔面蒼白で震えているではないか。
少年は慣れた様子で象の背よりするりと着地。手助けする暇もない。
「お祖母様に会ってくる。彼女を頼む」
「へい。どうされたので?」
「後で話す」
戦士を従え、そそくさと歩み去って行く少年。その背を見送り、下男は命令を実行するべく、少女が降りるのに手を貸した。
◇
「―――そうか。
香が焚きしめられた空間で、婦人は孫の言葉を聞いていた。ヴェールに隠されていて見えぬが、その表情は苦々しいものであろうことが推察できる。
「ひとまず防備を固めなければ。奴らは逃げたんだね?」
「はい。何匹か」
戦士が首領らしい
「やれやれ。よっこいしょ」
婦人は重い腰を上げた。姿こそ若々しいが、彼女は既に老境にある。強大な霊力が肉体の衰えを押しとどめるにも限度というものがあった。若いころに体を酷使しすぎたのだ。肉体労働は御免被りたいが、彼女にも果たさねばならぬ責務というものがある。
王族なんぞやるもんじゃないね、と言いつつ、婦人は部屋より出て行く。
少年も、後に続いた。
◇
―――いったい、ここはどこなのだろう。
少女は、そんなことを考える。
既に部屋の外は夜。御簾の向こう側は昨夜と違い、煌々と篝火が焚かれている。昼間の事件のせいだろう。
自分のいるこの場所。いや、この世界。最初、単に遠い異国で目覚めたのだとばかり思っていた。何らかの事故で、自分はそこに至るまでの記憶を思い出せなくなっていただけなのだと。しかし、見たこともない天体。昼間の怪物ども。そして、魔法。少年が用いていた、あの不可思議な力はそうとしか呼びようもない。
そんなもの、おとぎ話の中にしか存在しないと思っていたのに。
「怖い。怖いよ……」
自身の体を抱き締め、少女は呟いた。
その様子を、じっと見つめる曲者の姿があった。
◇
―――ひとまず無事か。
少女を見下ろし、曲者は安堵した。助けた甲斐があったというものだ。昼間の戦い。人間たちを
彼に主人より与えられた使命は、少女を連れて帰還すること。それも、その荷物とともに。
残念ながら荷物の行方は分からぬ。少なくともこの部屋には保管されていないらしい。今日までこの館には入ることもできなかったのだから仕方ないとはいえ。恐ろしく強力で巧みな結界が張られている。象に絡みついていなければ入り込むことはできなかったろう。
忌々しい。あの日。川を探し回っていた時、人間たちに少女を拾われてしまったのが運の尽きだった。奪い取ろうとして稲妻の魔法を喰らい、退散する羽目にもなった。あの少年はなかなかの腕前である。
まあ過ぎてしまったことは仕方がない。それより、いかにして荷物を確保するかに尽力すべきだ。この館を探し回っていれば、いずれは発見することも叶おう。
今後の方針を定めた彼は、朱色の柱を這って移動する。
彼の姿。それは、小さな小さな蜥蜴のものだった。
◇
空を、暗黒が覆っていた。
星々の光はあまりにか弱く、闇を退けるには至らぬ。それはどこにでもある。井戸の底にも。壺の中にも。物陰にすら。光ですら暗黒を追いやることなどできはしない。いや、より強くするだけだった。
だから、闇の種族。邪悪なる怪物どもの信仰心は、夜を迎えるたびに一層強まった。
夜の湿原に集うのは、多種多様な怪物ども。醜悪な面構えに武装した
総勢二百にも届こうかという闇の軍勢が、炎を囲んでいたのである。
渦巻いていたのは明らかなる熱狂。血に。殺戮に。略奪に餓えていた怪物ども。その欲望がいよいよ、解き放たれる時が来ていたのだ。近くにある人間たちの集落をこれより襲うのである。急がねばならなかった。昼間、偵察隊が発見されてしまったから。防御を固められては厄介だ。
闇の軍勢は、雑然と。されど統一された目的に従い動き出した。
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小説情報
- 小説タイトル
- アイデア置き場
- 作者
- クファンジャル_CF
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