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『黎明の救国英雄譚』のエピソード「ギア=ザズクイート」の下書きプレビュー

黎明の救国英雄譚

ギア=ザズクイート

作者
羽鳥(眞城白歌)
このエピソードの文字数
1,417文字
このエピソードの最終更新日時
2021年11月23日 18:45


 普段なら、あの程度の相手に遅れをとるなどありえなかった。

 魔族ジェマ魔法使いルーンマスター妖魔インプ一匹。手強い相手だが、今まで何なく勝ってきていたんだ。

 それなのに、なぜかあの時は、背後にもう一匹の妖獣が来ていることに気がつかなかった。勝利続きで油断していたのかもしれない。

 俺は彼女アルティメットの悲鳴に、一瞬だけ意識を逸らしてしまっていた。


 もちろん、モンスター相手にそんな事は、命をくれてやるようなものだ。でもあの時は、頭で何か考えるより、身体が勝手に動いてしまっていた。


 俺の剣士フェンサーの勘が告げている。

 奴らが狙っているのは、アルティメットだ。

 守ってやらなくては。あいつは、白兵戦なんかまるで駄目だし、俺よりはるかに弱い。

 何よりあいつは俺の大切な――仲間(いや恋人?)だ……!


 ――その、一瞬の隙がまずかった。


 悪かったと言いたくはないが、もっと冷静になるべきだった。

 瞬間、眉間に鋭い痛みが走り、眼前が真っ赤に染まって――アルティメットの、さっきよりずっと大きな悲鳴と俺の名を呼ぶ声が、から聞こえた……。

 何が起こったのか、その時はまったく理解できなかった。

 視界がふさがれて目を開けることもできず、無我夢中で剣を振り回した。敵を俺が倒したのか、アルティメットが倒したのかもわからない。

 俺がいつの時点で意識を失ったのかも。


 バカだよな、俺。

 アルティメットは翼族ザナリールで飛べるんだから、地を歩く妖獣モンスターなんかにやられるはずないとか、いざとなったら精霊魔法を使って何とかできるだろうとか、冷静になれば周りのことがいろいろ見えたのに。

 俺はもう少しで、彼女を守ってやれないだけでなく、自分の命すら失うところだった。

 そして、そのことがアルティメットを傷つけてしまった。


 俺は当時まだ、今よりずっと未熟で……ある意味子供ガキだった。

 自分の命を危険にさらすことが、守られる相手をどれだけ傷つけるのか。

 俺の受けた傷なんかとは比べようもない深い傷を、彼女の心に刻んでしまうってことも。

 全然、わかっていなかった。


 身の程知らずな自信と油断も、戦っている最中によそ見するなんてバカな行為も、つまりはそういうことに帰結する。

 それは、彼女を傷つけた。


 アルティメットに肩を借りながらどうにかたどり着いた宿屋で、傷の手当て(額から右頬にかけて、斜めにざっくりやられていた)を終え、そのまま俺は眠ってしまった。

 アルティメットはその間に、どこかへいなくなっていたんだ。

 次の日俺は、彼女の姿が見えないのに驚いて、すごい剣幕で宿の主人に詰め寄った。もっとも親父のほうは動じた様子もなく、あの子なら夜明けごろ出ていったよ、と一言。


 俺は愕然がくぜんとして、真っ白になった。

 正直、ワケがわからなかった。あいつは書き置きも手紙も何も残さず、何も言わずに突然出ていってしまった。

 宿代も、わざわざ俺の分まで律儀に、払って。

 まるで消えてしまったみたいだった。


 すぐに聞き込みを始めて行方を捜したけれど、何も手がかりは得られなかった。

 あいつがなぜ出ていったのか、どんなに考えてもわからなかった。

 そして、見つけだせないまま現在いまに至る。





 今なら、あいつの心の痛みが少しはわかるようになった。

 どうしても、見つけなくてはいけない。会って、言いたいことがたくさんある。


 謝らなければ。

 そして、俺がちゃんと口にしてさえいれば、あいつが俺のもとから離れようなんて思わずにすんだだろう、たくさんの言葉を。


 想い続けて、捜し続けて――いつの間にか、そしてあっという間に、五年が過ぎていた。



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小説情報

小説タイトル
黎明の救国英雄譚
作者
羽鳥(眞城白歌)
公開済みエピソードの総文字数
878,923文字