アイデア置き場
- 作者
- クファンジャル_CF
- このエピソードの文字数
- 2,784文字
- このエピソードの最終更新日時
- 2018年7月8日 09:17
不思議な女性だった。
一夜明け、少年によって連れてこられた部屋で待っていたのはヴェールで顔を隠した妙齢の婦人である。黒を基調とした服装はゆったりとしたローブを思わせ、少年や世話役の女性たち、禿頭の老人―――格好からして武人であろう―――のいずれとも似ていない。
―――まるで魔法使いだ。
少女の感想である。
香を焚きしめられた空間。室内に置かれている様々な物品は美術品か、はたまた実用品なのか。部屋の四隅には、庭にもあった粘土人形が直立不動の姿勢で設置されている。まさか動きはしまい、と少女は不安を振り払う。
「お祖母様。こちらが、件の娘です。
紹介しよう。私の祖母だ」
少年の言葉。前半は女性へ、後半は少女へ向けられたものである。
促され、少女は腰を下ろした。
少年も座ったのを見届け、女性は口を開く。
「ふむ。こりゃまた変わった相を持った
「……?」
例によって、何を言っているのかは分からなかった。品定めされているらしいのは理解できたが。
女性は頷くと、手を打ち合わせた。
それを待っていたかのように入って来たのは、召使―――なのであろう、幾人もの女性たち。彼女らが手にしていた品々を見て、少女は目を見開いた。
折りたたまれた衣。時を測る腕輪。黒い板状の鏡。目覚めてからついぞ目にしていなかった自らの持ち物を、召使たちが運んできたからである。
少女の眼前に、それらは並べられた。
「そなたの物だ。返しておく」
少年が頷いたのを目にし、少女が最初に手を伸ばしたのは鏡。掌に収まるほどの大きさのそれを拾い上げると、彼女は側面の窪みを長押しした。
奇怪なことが起こった。
ただの奇妙な形状の鏡。そう思われていた品が、突如として輝きを放ったからである。
驚愕の表情を浮かべる少年らの前で、少女は、待った。
◇
―――なんだ?光輝く品だと?
昨日、祖母と共に検分した際には何の反応も示さなかった鏡。それが輝き始めたのを見て、少年は驚愕していた。側面の、いかにもな突起や窪みを触ってもなんら反応を示さなかったのだ。あれは。
持ち主でなければ操れぬ秘宝の類なのかもしれぬが。
横から鏡面を見ていた彼は、文字が浮かんでいるのを認めた。かと思えば、それは切り替わる。そう。0715、という数字と、その右下。小さく6、13、という数字が浮かび上がったのだ。それぞれの横にあるのは見たこともないような、四角を縦にふたつみっつ積み重ねたような図形。それ以外にも細かな紋様が現れているが、細かすぎてこちらからでは読み取れなかった。
少年は、腕輪へと目をやった。みっつの針。うち、もっとも短い針が指し示しているのは7だった。それらの間。五つ刻みで三つ目の部分を指している長い針の示している位置は、恐らく15なのだろう。ならば、鏡は時刻を指し示す力があるということになる。他の数も、恐らく何らかの意味を持っているはずだった。
しばし鏡面を見つめていた少女は、やがて肩を落とした。どうやら、読み取った情報が気に入らぬものだったか。
「あ……ごめんなさい。荷物、ありがとうございます。壊れてはなかったみたい。けど……」
それだけを言って、項垂れる少女。
そこで、婦人が口を開いた。
「ふむ。お嬢さん。それを見せてもらえないかね?」
「……はい?」
婦人は意図を伝えようと身振り手振りである。しばし困惑していた少女であったがやがて意図を悟ったか。少女は、手にした鏡を婦人へと手渡した。
◇
悪戦苦闘を経て鏡を受け取った婦人は、既に光の消えたそれへと操作を加えた。
果たして。
再び、文字が現れた。数が0719に増えている。やはり時間を表しているのであろう。
それで満足せず、婦人は鏡を撫でた。
それは、突如として開いた。そうとしか表現できぬ動きで、映し出される文字が切り替わったのである。
びっくり仰天した彼女は、慎重に。されど、大胆に鏡面を検分する。
整列していたのは無数の
ほとんどは数字ではない。いや、最下段、真ん中。白い長方形に、逆三角が描かれたものの右上に13と示されているのを目敏く発見した彼女は、それを指でなぞった。
「おお」
再び開いた。まるで絵画が動いたかのような光景である。彼女は分からないなりに、この器物の扱い方を理解しつつあった。これは。この
「いやはや。これを創ったのは、相当な賢者か魔法使いに違いあるまいて」
扱いやすいように考え抜かれた構造。いかな知恵者が思いついたかは知れぬが、興味は尽きぬ。
とはいえ文字を読み取れぬ以上、これ以上の操作をしていても得られる情報は限られていよう。だから、彼女は鏡を持ち主へ返した。
受け取った少女は、再び窪みを長押しした。やがて鏡は光を失う。なるほど、使わぬ時はあのようにしておく。ということであろう。
腕輪を身に着け、鏡を懐にしまおうとした少女は困惑。今着ているのは、貸し与えられた衣である。物品を入れておく余地はない。
「ひとまずこれを使うがよい」
再び入って来た下女が運んできたのは、
「あ、ありがとうございます」
先程も発された言葉に、なるほど、これが感謝を表す語なのだな。とひとりごちる婦人。
「ふむ。体はもうよさそうじゃのう」
「ええ」
答えた孫に、婦人は頷く。
「なら、後で外にでも連れていっておやり。館の中にばかりいては、気分も落ち込むじゃろうて」
「はい、お祖母様」
そうして、少年少女は部屋を辞した。
◇
その存在は、大地の外側を巡っていた。
遥かな高み。人が決してたどり着けぬ領域。すなわち星々が瞬く世界。
人の類が星界と呼ぶ世界をそれは巡っていたのだった。
その、未来永劫続くはずの眠りが今、破れた。ごく小さなささやき。されど、必死に相手を探す呼びかけによって中断されたのである。
休眠状態だった全身が活性化していく。呼びかけの発信源を特定し、内容を解析しようとする。同時に自己診断を開始。
恐ろしく損傷している。本来の役割を果たすことは叶うまい。だが、適正な手段による呼びかけには応えねばならぬ。
感覚器を復旧。正確な位置が特定できよう。そう思われた瞬間、呼びかけは途絶えた。
その時、それの内に芽生えたのは落胆だったのかもしれぬ。
だから、それは待った。次なる呼びかけを待ち構えたのである。すぐなのか。一年後か。十年後か。もう来ないかもしれない。問題ない。永劫の歳月を待ったのだ。
それは、待った。
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小説情報
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- アイデア置き場
- 作者
- クファンジャル_CF
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