冒険機YOUR サイドストーリー
サイドストーリーNo.4 森の中へ飛び降りて
- 作者
- オロボ46
- このエピソードの文字数
- 1,724文字
- このエピソードの最終更新日時
- 2025年5月30日 21:48
「……森に落ちるって、あんな感じなんだなぁ」
立ち並ぶ木を見上げて、アタシは思わずそんなことを呟く。
再起動した後も、ベランダから転落したりワシ型兵器に落とされたり、なにかと高いところからよく落ちてる気がするけど……さっきのは今までよりも高かったんじゃないかな。
「……ユアは……怖く……ないの……? 高いところから……落ちるの……」
背中で震えていたシャヴァルドが、恐る恐る聞いてきた。
……アタシが1度機能停止する時、マスターが言っていた言葉を思い出しそうになった。
「……まあ、実際に落ちる前は怖いって感じたぜ。落ちた後も言葉がなかなか出なかったし」
「それでも……地面を歩けるだけで……すごいよぅ……」
シャヴァルドはふと地面を見ようとして、すぐにアタシの背中に顔を埋めながら呟いた。さっきまであんなにかっこよかったのに、すっかり弱々しくなっちゃってるなぁ。
「……それでも、叶わねぇよ。アタシのマスターには」
「マスター……って?」
首をかしげるシャヴァルドに、アタシは顔を見せた。
「ああ、アタシの大好きなマスター。アタシはマスターのハナヨメさんになるのが夢だったんだ」
高いところから落ちた経験を振り返ると……
マスターとの思い出が、再生された。
あれは、マスターが4歳になったころ。
マスターが幼稚園での友達の親に誘われてキャンプに行くことになった。親子同伴ということでアタシも忙しいお父さんとお母さんの代わりに同行したけど……
親の目を盗んだマスターの友達たちから、アタシにつり橋へ来いと言われた。
「なあなあ、ここから飛び降りて見ろよ! テレビでやってたヒーローみたいに!」
「あの子言ってたもん! なんでもできるって!」
「できないなら、あいつのことを嘘つきっていってやるー!」
まだ危険な場所であるという実感が湧かない子供たちに詰め寄られて、アタシは困っていた。
そこまで高くはなかったものの、実際に下を覗いてみて
「危険です。それは推奨されません」
「「「ええー、やってよー!」」」
純粋な瞳で見てくる子供たちに、まだ初期設定口調で敬語のアタシは電子頭脳の音しか流すことができなかった。
「やめろよ!」
そんな時……マスターが駆けつけてくれたんだ。
「あ! 嘘つきだ!」
「このAI、飛び降りないよ! 何でもできるって嘘じゃん!」
「うーそつき! うーそつき!」
……自分が飛び降りないから、マスターが嘘つきって呼ばれている。
この時の疑似人格は……悲しいという感情に包まれていた。
「じゃあ、僕がやる!!」
「「「「 え? 」」」」
次の瞬間、マスターはつり橋から飛び降りたッ!!
「わ、わああああ!!? ほんとに飛び降りたああ!!?」
「人間だったら大けがしちゃうよお!!」
「ね、ねえ! どうしようどうしよう!!?」
「今、大人に連絡しました! すぐに救急車を手配しますので、みんなはじっとしてください!」
プログラムに身を任せて対処は取ったものの、この時のアタシは気が動転しそうになるほどの衝撃だった。アタシの危険予測機能が気づいて手を伸ばすよりも早く降りたマスターの……その躊躇のなさに、驚いたんだ。
それとともに……疑似人格に、正体不明の感情がわき上がった。
今思えば、この時だったんだ。
マスターに、惚れたのが。
「他の子供が真似したら危険だから後でちゃんと叱ったけどよお……マスター、アタシの顔を見て思わずあんなことをしたんだってさ」
歩きながらマスターとの思い出話をしていると、背中のシャヴァルドがもぞもぞと動いた。
「今はもうマスターはいないけど……マスターと一緒にいたアタシがついてる。だから、低いところでも安心していいんだぜ!」
「……」
後ろを振り向けば、顔を上げたシャヴァルドと目があった。
シャヴァルドは震えた目をして、口を開いて……
「低いところで高いところから落ちる話しないでよおおおおおおおおお!!!」
ピイイイイイイイイイイイーーー!!! と再び泣きだしてしまった。
「……マジで、ごめん」
低所恐怖症のシャヴァルドにとって、高いところから恐怖の対象である低い場所へ落ちるのはよっぽど怖いらしい。
アタシももう少し、空気を読んで発言しねえとなぁ……
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小説情報
- 小説タイトル
- 冒険機YOUR サイドストーリー
- 作者
- オロボ46
- 公開済みエピソードの総文字数
- 0文字