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『【5周年記念SS】俺だけが魔法使い族の異世界』のエピソード「羊化けの魔法」の下書きプレビュー

【5周年記念SS】俺だけが魔法使い族の異世界

羊化けの魔法

作者
DRAGON NOVELS
このエピソードの文字数
2,800文字
このエピソードの最終更新日時
2024年1月26日 19:43

 俺の名はアルバス・アーキントン。最後の魔法使いだ。

 現在、お上の強権にさらされ、我が最大の財産・奴隷エルフのアルウと愉快な仲間たちとともに『禍の予言』をとめるために、導きの旅とやらに駆りだされている最中だ。

 現在、俺たちは野を越え、山を越え、辺鄙な渓谷にやってきている。

 目の前には豊かな平原が広がり、羊たちは呑気に草をはみ、村のほうからは牧歌的な楽器の音色と人々の歌が、温かい風にのって聞こえてくる。


「ここまで逃げてくれば大丈夫だな」

「アルバス様~? アルバス様はどこにいるのですか~?」


 まずい。俺を探す声が聞こえる。身をかがめて羊たちの群れに姿を隠した。

 すぐに桜色の鮮やかな髪をした美少女がやってくる。


「おかしいですね、このあたりにアルバス様の匂いが残っているのですが……」


 言ってスンスンと鼻を鳴らす彼女の名はサクラ・ベルクという。彼女は俺の嫁を名乗る不審者であり、旅が始まってからというもの事あるごとに夜這いをしかけてくる危険人物でもある。すなわち煩悩ピンクなのである。

 俺の魔法使いとしての力は、俺が童貞であることに依存している。それを失えば俺はたちまち様々な不調に見舞われてしまう。いまは力を失うわけにはいかない。

 俺も男である。サクラがその気になれば断り切れない。ゆえにこうして予防をすることが大事だ。そうしなければ昨晩のように、押し倒されてしまうだろう。アルウが助けてくれなかったら危なかった。


「アルバス様、いるのはわかっているのですよ~、出てきてください」


 このままでは見つかってしまう。俺のような目つきの悪い男のどこが気に入っているんだか……嬉しいが、いまは迷惑だ。仕方ない。あれを使って撒くしかない。

 俺は四つん這いになり、咳払いして喉の調子をととのえ「めぇえ~!」と鳴いた。

 符号は成った。『羊化けの魔法』が作用する。この魔法の隠された効果を特別に教えてやろう……なんと姿を羊に変えることができるのだ!


「めぇえ~(訳:これで俺がアルバス・アーキントンだとはわかるまい。サクラ、お前は俺という魔法使いを相手にしていることの意味を思い知ることになるだろう」

「おや、この羊さんだけやたら目つきが悪いような……もしかしてアルバス様?」

「め、めぇえ……(訳:※動揺する声)」


 サクラは顔を近づけて、じーっと見つめてくる。変なリアクションをしたり、逃げてしまったら、それこそ丸わかりだ。耐えるのだ、アルバス。大丈夫。バレるはずがない。


「ふふん、なるほどなるほど……」


 サクラは怪しげににまーっと笑みを深め、うなづいている。もしやバレた?


「流石のアルバス様も羊に変身するような奇妙な術までは使いませんよね」

「めぇえ(訳:ふん、勝ったか)」

「それは別として。──むぎゅうぅぅう! なんなのですか、この目つきの悪い羊さんは! アルバス様みたいですごく可愛いのです! たくさんぎゅーってせざるを得ないのです!」


 サクラはモコモコした俺を抱きあげて、強く抱きしめてきた。純白の羊毛に顔をこすりつけてモフモフしてくる。俺は無抵抗で「めぇえぇ……」と鳴くしかできない。

 そうか。女の子はモフモフだとか、モコモコだとか、そういうのが無条件で好きだったな。まあよい。俺がアルバス・アーキントンの羊──アルバスシープだとバレたわけではない。

 このままやり過ごそう。羊毛越しに発育のよい、つまり、豊かな膨らみのようなものが、押し付けられ、むにゅっと形を変えているせいで心がざわつくが、しばらくの辛抱だ。


「これほどに可愛い羊さん、みんなに見せてあげないといけませんね」


 サクラは俺を抱っこしたまま村へと戻った。


「お嬢様、どこに行っていらしたのですか」

「アルバス様を捕まえてきたのです! ……じゃなかった、こほん、アルバス様によく似た可愛い羊さんを捕まえてきたのですよ!」


 サクラは鼻息を荒くして俺を自慢げに見せびらかした。旅仲間の少女らは「これは……確かに似てる」「目つきの悪さは間違いなく先生のもの」「もふもふですね!」と、思い思いに言葉をはっしながら、流れるように頭を撫でてきては、モフってくる。

 隙をみて人間に戻らないと永遠に愛でられてしまいそうだ。なにかに目覚めそうだし、俺のためにも周りのためにも、これ以上、アルバスシープでいないほうが良いだろう。


「あっ! 逃げた!」

「待てぇ~! 誰かアルバス様を捕まえて~!」


 うまいこと追っ手を撒けた。俺は物陰で人間にもどれた。

 その夜、食事の席でサクラは「アルバス様に似た羊がいたのですが──」と、俺のほうを見ながら、やたらと話題を振ってきたが、俺は我関せずの態度を貫きつづけた。


「むう、アルバスに似たモフモフ羊……」


 言って、落ち込んだ表情をするのはアルウだった。我が奴隷にして最大の財産。彼女はさみしそうに「わたしも見たかった。モフモフしたかった」とちいさな声でいう。


「とのことです、アルバス様」

「なんだ、なんで俺にそんなことを言うんだ、サクラ」

「いえ、なんとなく」


 サクラはじーっと見てくる。


「そんなに見られても俺は件の羊とはなんの関係もないからな。どうしてやることもできん」

「はぁ、目つきの悪い羊、モフモフしたかったなぁ……」


 アルウは意気消沈してそう繰りかえして言った。

 俺は冷徹な人間だ。優しさとは無縁の人間だ。意地悪で恐ろしい人間なのだ。

 奴隷と主人という力関係は絶対に崩させないし、ことあるごとにアルウに恐怖を植え付けては俺の言うことを聞くように調教をほどこしているくらいだ。

 アルウのことはいずれ売り払うシルク硬貨の山としか考えていないくらいだ。ゆえに俺の心は揺らがない。アルバスシープになってやり、モフらせてやることは簡単だが、そんなことしない。俺にはなんのメリットもないのだからな。

 だから、どんなに可哀想な表情を浮かべようと、この奴隷エルフが「目つきの悪いもふもふ羊」を拝める日は来ない。たとえ100年待ってもそんな日は訪れないのだ。


 ────


 仲間たちとの楽しい食事が終わった。

 すっかり暗くなり、星々が澄んだ夜空に広がる。

 月明かりが渓谷を照らすなか、すっかり夜は静まりかえっている。

 アルウは落ち込んだ様子でベッドに潜りこんだ。

 昼間、自分以外の多くの仲間が目撃したという目つきの悪いもふもふ羊に、自分だけ会えなかったことが心残りなのである。


「めぇぇえ」


 羊の鳴き声が聞こえた。アルウはハッとして背後をみる。

 純白の羊毛をふっくらと備えた羊がいた。目つきはすこぶる悪い。

 羊は自分でアルウのもとに寄ってくるよ、おでこをスリスリしてくる。


「わぁ、目つきの悪い羊……! 本当にいたんだ! 可愛い!」

「めぇえ~」

「良い子、良い子。大人しい。お利口さん」

「めぇぇ~」


 アルウは笑顔を浮かべてなでくりまわす。

 されるがままの羊は、しかし、子を見守る父親のように満足そうであった。

 その晩、アルウは不思議な羊を抱きしめながら眠りについた。

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小説情報

小説タイトル
【5周年記念SS】俺だけが魔法使い族の異世界
作者
DRAGON NOVELS
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