【5周年記念SS】異世界転移、地雷付き。
お祝いするの!
- 作者
- DRAGON NOVELS
- このエピソードの文字数
- 5,154文字
- このエピソードの最終更新日時
- 2024年1月10日 11:58
ラファンの町にあるアエラが経営するレストラン。
その日、お店を訪れたのは、可愛い獣耳と尻尾を持った女の子だった。
「アエラお姉ちゃん、ごしゅーねんなの!」
「え? ごしゅーねん……あぁ、五周年ですか?」
お昼の開店時間まであと少し。
カウンターの椅子で膝立ちになり、身を乗り出すようにしてミーティアから告げられた言葉に、アエラは仕込みの手を止めることなく小首を傾げた。
「えっと、ナオさんたちに関係することですよね? 冒険者になって――では、ないですよね。ナオさんはまだ若いですし。……私と違って」
外見的には、ナオよりも明らかに若い――いや、幼いアエラ。
しかし、現実にはアエラの方が少しばかし年上であり、そのことを思い出したアエラは少々ヘコむが、エルフなら気にするほどではないと気を取り直し、更に頭を捻る。
「修行を始めて、でしょうか? 冒険者になる前から鍛えていたという話ですし」
色々とお世話になっている、そしてちょっと気になっているナオに関することである。事情がなんであれ、お祝いしないわけにはいかない。
アエラはこれ以上考えるのをやめ、目の前で嬉しそうに笑っているミーティアに尋ねた。
「ミーティアちゃん、なんの五周年なんですか?」
「んっと……『ついに、二桁!』とか言ってたけど……よくわかんないの!」
「あらら……」
きっぱりと告げたミーティアに、アエラの肩がガクリと落ちる。
「でも、『周年』と言うからには大事なことなんですよね?」
エルフであり、人よりも少し長い寿命を持つアエラであっても、五年間は決して短い期間ではない。確認するように尋ねれば、ミーティアはコクリと頷く。
「ミーの人生の半分以上なの! きっと、すごく、すごく、大事なことなの。ミーが頑張って、お祝いしてあげるの!」
「そうですか。良いと思いますよ。皆さんも喜ぶと思います」
アエラがニコリと微笑むと、ミーティアも笑顔でギュッと手を握る。
「だとしたら嬉しいの! だから、アエラお姉ちゃん、美味しいお料理を作ってほしいの。ミーのお小遣いで足りるかなぁ……?」
笑顔から一転、ミーティアが不安そうな顔で、握りしめていたお財布を差し出す。
その中には年齢一桁の子供が持つには不相応な大金が入っていたが、アエラは優しく笑い、それをそっと押し戻した。
「ミーティアちゃん、恩人であるナオさんたちの記念日ということであれば、お金は頂けません。是非私に作らせてください。日付が判れば、お店の予約も開けておきます」
「うぅ~……、わかったの。アエラお姉ちゃんの気持ちはそんちょーするの」
自分も助けられた身。恩返しをしたいという気持ちが解るミーティアは、少し唸ってアエラの言葉を受け入れるが、すぐに困ったように「う~ん」と体を揺らす。
「でも、でも、ミーも何かしてあげたいの」
「そうですね、お料理を手伝って貰っても良いのですが……。それなら、記念品を贈るのはどうですか? 記念日であれば、そういった物も――」
「わかったの! 早速探しに行くの!」
パッと表情を輝かせ、椅子からぴょんと飛び下りて走り出すミーティア。
「あっ、でも、あまり高すぎる物は――」
ナオたちもきっと受け取りづらい。そう思ってアエラは慌てて付け加えるが、その時既にミーティアの姿は、扉の向こうにあったのだった。
◇ ◇ ◇
「リーヴァお姉ちゃん、五周年なの!」
唐突にお店へ襲来したミーティアの言葉に、リーヴァは目をぱちくり。
長い兎耳をゆらゆらと揺らしてしばらく考え、両手をポンと合わせる。
「……あぁ、もしかして、ユキさんたちの記念日か、何かですか?」
「そうなの! よくわからないけど、きっと記念日なの!」
「よく解らないんですか?」
「お姉ちゃんたち、ちっちゃく話してたの。でも、ドラゴンがどうとか言ってたの!」
「ド、ドラゴンですか……? まさか、討伐成功の記念日――いえ、さすがにナオさんたちでも、ドラゴンは斃せないですよね」
リーヴァからすれば、ナオたちはとんでもなく強い。
だが、そもそも実在が疑われているドラゴン。斃したと考えるのはあまりに飛躍しているし、五年前ともなればナオたちもまだ子供であり、あり得ない話である。
取りあえず、何らかの記念日ということだけは間違いないのだろう、とリーヴァは納得して、どこかわくわくとした様子のミーティアに尋ねる。
「それで、ミーティアちゃんのご用事は?」
「ミーはお姉ちゃんたちにお礼をしたいの! 記念品を買いたいの!」
「記念品ですか。確かに五周年の記念に何か贈るのは、ありだと思いますが……」
それなりにお金を持っているミーティアではあるが、子供である彼女が下手なお店に入れば、足下を見られてぼったくりに遭う危険性は決して低くない。
その点では、知り合いのリーヴァの店を選ぶこと自体は間違っていないのだが……。
「う~ん、でも、私のお店で売っている物は基本的に実用品ですし、ユキさんやハルカさんでも作れてしまいますからねぇ。記念品となると……。ミーティアちゃんからの気持ちということであれば、それでも良いのかもしれませんが」
最近リニューアルしたリーヴァのお店。以前から扱っていた錬金素材や冒険者向けの商品も残っているが、主力商品は女性向けの美容用品にシフトしている。
口コミで愛用者も増えていて、物によっては手に入りづらい商品も出てきているため、贈る相手が女性であれば、大抵は喜ばれるだろう。
だが、それでも基本的には消耗品であり、記念品に向いているかは微妙なところだ。
「んと、難しい?」
「はい。お店に並べていない物であれば記念品となり得る物もありますが、ミーティアちゃんが払える金額だと、少し……」
「で、でも、ミー、お小遣い、結構貯めてるの。ちょっとだけしか使ってないの!」
ほらっ! とお財布を出すミーティアだが、リーヴァは困ったように笑う。
ナオたちとも付き合いが深い彼女は、ミーティアが下手な大人よりもお金を持っていることを知っているし、ミーティアが相手なら値引きもできるが、ハルカやユキであれば贈られた物の価値や、それがリーヴァのお店で買った物であることはすぐに判る。
色々な意味で、ミーティアに高価な物を売ることは難しかった。
「あまり高い物だと、ナオさんたちも受け取りづらいと思いますよ?」
「う~、そっかなぁ……?」
「そうですよ。大事なのはミーティアちゃんの気持ちです。なので、記念品として贈るのは、本当にちょっとした物で良いと思います。錬金術の物は私が贈りますから」
「……解ったの。もうちょっと考えてみるの」
ミーティアはそう言うと、しょんぼりとしてお財布をしまう。
「でも、『ちょっとした物』って、難しいの」
頭を左右に傾けながら「う~ん、う~ん」と悩むミーティアを見て、リーヴァは優しく微笑むと、自分も顎に手を当て、少し頭を傾けて考える。
「そうですね、それこそ、お手紙ぐらいで良いと思いますが……。なにかしらの日用品というのも、ありかもしれませんね。子供が小遣い稼ぎにやる手仕事とか――」
「あっ、閃いたの! リーヴァお姉ちゃん、ありがとうなの!」
リーヴァの言葉の途中でミーティアは声を上げ、お礼の言葉もそこそこに再び駆けだした。
◇ ◇ ◇
アエラの食堂、リーヴァのお店、そのどちらでも目的を達成できなかったミーティアが次に向かったのは、何かと関わることも多く、友達もいる孤児院だった。
そんな中でも仲の良い幼女の前に立ち、ミーティアは
「レミーちゃん、五年目の記念日なの!」
言っていることは同じだが、レミーの年齢に合わせて少し言葉を変えている。
だが、相手はまだ幼い子供。アエラたちほどの理解力を期待するのは無謀というものである。
当然のようにレミーは、ほけ~っと口を開けてミーティアを見上げたのだが、二人の間の共通の話題は限られる上に、レミーは幼いながらも聡かった。
「……ナオちゃん?」
しばらくしてポツリと呟かれた言葉に、ミーティアは我が意を得たりと頷く。
「そうなの! お祝いするの!」
「おいわい! すぅの! ――あ、でも、レミー、おかねないの」
嬉しそうな笑顔から一転、しょんぼりと肩を落とすレミーを励ますように、ミーティアはその手を両手で握り、笑顔を向ける。
「大丈夫なの! 気持ちが大事って聞いたの」
「きもち? レミー、ナオちゃんは、だいすきなの!」
「なら、ミーと一緒に何か作るの。孤児院でやってる内職で、何かないかなぁ?」
運営費の足しにするため、孤児院では孤児たちが小間物を作って売っている。
ミーティアがここに来た目的はそれであり、レミーもすぐに頷く。
「わかった! ミーちゃん、いこ!」
レミーとミーティア、二人で手を繋いで駆け出した先は……。
「なるほど、記念品ですか。良い考えですね」
孤児院の最高責任者であるイシュカは、相談に来た二人を見て暫し考える。
ナオたちには普段から寄付をしてもらったり、仕事を廻してもらったりと世話になっている。
小間物の作り方を教えるぐらいは問題ないし、小器用なミーティアなら、神殿でやっている内職ぐらいは、いずれもそれなりに熟してしまうだろう。
しかし、レミーと一緒に作るとなると、なかなかに難しい。
レミーはまだ四歳で刃物を扱わせるのは危険であり、特に手先が器用な子供でもない。
誰か年上の子供に作らせて、レミーには形だけ手伝わせることもできるが、それでレミーが納得するかどうかは微妙なところ。
だからといって、レミーが作った不良品を渡してしまうのも躊躇われる。
いくら気持ちが籠もっていても、そしていくら幼子が頑張って作ったとしても、目的を果たさない道具はただのゴミ、もしくは使い道のないオブジェである。子供たちが作った物を商品としている以上、そのあたりはシビアなイシュカなのだ。
「ミーたちが作れる物、何かないかなぁ……?」
「……では、鍋敷きはどうですか? 麦藁で作るのでお金は掛かりませんよ?」
色々考えた結果、出てきた答えがそれだった。
藁をある程度の厚さに編むことさえできれば、一応、鍋敷きとしての用は足る。
可愛がっている子供が作ったのであれば、形や編み目、模様などが歪でも愛着が湧くし、麦藁は農家の厚意で分けてもらった物がたくさんあるので、お金も掛からない。
レミーが諦めさえしなければ、おそらく形にはなるだろう。
「鍋敷き! お姉ちゃんたち、お料理するから、きっと使ってくれるの!」
「レミーも! レミーも、ミーちゃんと一緒につくぅの!」
「ふふっ、解りました。では、頑張りましょうね」
そんなやる気満々な二人に、イシュカは優しく微笑んだ。
◇ ◇ ◇
「「「五周年、おめでとうございます(なの)!」」」
「「「ありがとう!」」」
貸し切りとなったアエラの食堂に招かれたのは、ナオたち五人。
招いたのはアエラとリーヴァ、ミーティア、メアリ、そしておまけのレミー。
その五人から揃ってお祝いの言葉を貰い、ナオたちもまた声を揃えてお礼を口にした。
「急に食事会がしたいと言うから何かと思ったら――」
「五周年のお祝いだったのね。驚いたわ」
ナオとハルカが微笑みながらミーティアとレミーの頭を撫でると、二人は手を繋いで嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。
「やった、成功なの!」
「せいこう! よかったの!」
今回のお祝い、発案はミーティアで調整がメアリ、協力したのはアエラとリーヴァ。
仕事の関係もあるので、メアリから事前に『空けておいてください』と言われていたナオたちだが、二人が頑張っているのを見て、詳しいことは敢えて訊いていなかったのだ。
「五周年のこと、知ってたんだね? あたしたち、言わなかったのに」
「あぁ。冒険には関係ねぇことだしなぁ」
「はい。ミーが皆さんの話を聞いていたみたいで」
ユキとトーヤの疑問にメアリが答えると、二人は納得したように頷き、ナツキも「それで、ですか」と口を開く。
「私たちも内緒話をしていたわけではないですしね」
「喜ばしいことだから、むしろ声が大きくなってたかもなぁ」
「そうですね。リーヴァさんとアエラさんも、ありがとうございます」
「い、いえ、皆さんにはお世話になっているので、こういう時ぐらいは……」
「私もです。でも……今日は何の五周年なんですか?」
尋ねたのはアエラだったが、リーヴァもまた同意してコクコクと頷いた。
ミーティアたちに協力しつつも、二人の頭に常にあった根本的な疑問。
だが、『さぷらいず、なの!』と張り切っているミーティアの手前、ナオたちに直接尋ねることはできず、メアリもナオたちの会話を聞いていなかったので詳細を知らない。
そして、レミーに関しては言うまでもないわけで。
まさか、それを聞かれるとは思っていなかったナオたちは、少し驚いたように顔を見合わせるが、すぐに笑顔となって全員が揃って口を開く。
「「「それはね――」」」
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