カクヨム

『選ばれなかった9つの世界』のエピソード「第182話 976話 九秒」の下書きプレビュー

選ばれなかった9つの世界

第182話 976話 九秒

作者
johnconnor(ジョンコナー)
このエピソードの文字数
5,497文字
このエピソードの最終更新日時
2026年9月22日 22:30

――ガラララララララッ!!


九個の報酬が回る。


朔は針を見ていた。


【特上回復薬 ――使用済み――】


そこを通り過ぎる。


【最高級ばんそうこうセット】

【救急箱】

【高級プリン九個】

【エリクサー】

【ものすごく丈夫な浮き輪】

【ふかふかの大判バスタオル】

【冷たいオレンジジュース】

【きれいな石】


ぐるぐると回っていた九個が、少しずつ遅くなっていく。


「かいふく」


赤い文字が来る。


でも。


通り過ぎた。


朔の眉が寄る。


救急箱。

プリン。

エリクサー。

浮き輪。

バスタオル。

オレンジジュース。

石。


そして。


――カチ。


【2 最高級ばんそうこうセット】


白い箱が、ぽん、と朔の手へ落ちた。


「ばんそうこう」


凛を見る。


ハオの腕の中。


血が多い。


でも、これは傷を治すものだ。


朔は箱を両手で抱えた。


「なおす」


光が弾ける。


【使用枠 7/9】


同時に、《NOT YET》の胸。


【00:09】


小さな人影が、自分の胸をとん、と叩いた。


世界が後ろへ引っ張られる。


【00:08】


床へ落ちかけていた血が戻る。


【00:07】


凛の身体へ。


【00:06】


開いていた傷が閉じていく。


【00:05】


倒れていたちびイリスが起き上がる。


【00:04】


砕けた白銀が集まる。


【00:03】


小さな剣が手へ戻る。


【00:02】


六人が、それぞれの場所へ戻っていく。


【00:01】


朔は見ていた。


全部。


【00:00】


――ぱん。


◇


「来ます」


藍染の声。


朔の目が開いた。


知っている。


ここだ。


ディオが一歩前へ出る。マダラも動く。ドフラミンゴが位置を変え、ハオはリゼを後ろへ置く。


正面にはカイドウ。


ちびイリスが踏み込んだ。


その瞬間、朔の頭の中では、さっき見た九秒が先に進んだ。


――次、マダラ。


反対からディオ。


その間をイリスが抜ける。


でも、そこにはドフラミンゴ。


その次はハオ。


最後に空いたところには、藍染。


全部を理解しているわけじゃない。


どうして六人がそんなふうに動けるのかも分からない。


でも。


次に誰がいるのかは分かる。


カイドウの足が床を踏んだ。


「凛!」


凛が振り向く。


「さく?」


「いかないで!」


それだけ言って、朔は凛の手を掴んだ。


何で、と聞く時間はない。


向こうではもう六体のスタンドが動いている。


《ONLY I REMAIN》が殴る。


止められる。


ちびイリスが方向を変える。


――次は、そっち。


ディオがいる。


さらに変える。


――その次。


ドフラミンゴ。


いる。


朔には見えていた。


だから。


「イリス!」


呼んだ。


ちびイリスの目が、ほんの一瞬だけ朔へ向いた。


その瞬間、マダラが入る。


白銀の腕を止めた。


朔の顔が変わった。


――ちがう。


呼んだら、こっちを見る。


その一瞬も使っちゃう。


朔は口を閉じた。


見る。


今度は、見るだけ。


カイドウが前。


マダラが横。


ディオが反対。


ちびイリスが抜ける。


ドフラミンゴ。


ハオ。


そして。


藍染。


ちびイリスが止まった。


カイドウが前へ出る。


「悪いな」


――これ。


朔の身体が固くなる。


知っている。


このあと。


六体が重なった。


《ONLY I REMAIN》の鎧へ、次々と一撃が入る。


腕。


肩。


胸。


白銀に亀裂が走った。


凛の手が動く。


朔は強く握る。


「だめ」


「イリス!」


凛が前へ行こうとする。


離さない。


――行かなかったら。


――凛は、だいじょうぶ?


白銀の亀裂が増えた。


ちびイリスが剣を上げる。


「まだ――」


砕けた。


凛の身体が震える。


胸に、赤い線。


一本。


朔の目が大きくなった。


――だめ。


肩。


腕。


脇腹。


脚。


凛は前へ行っていない。


ちびイリスにも触っていない。


それでも傷は開いた。


「凛!」


朔はすぐに箱を開けた。


一番大きく血が出ているところへ、ばんそうこうを一枚。


ぺた。


血が止まった。


本当に。


そこだけ。


「なおった」


一瞬、朔の顔が明るくなる。


でも。


別の傷から血が出る。


もう一つ。


その横も。


朔は箱を見る。


凛を見る。


傷は、いっぱいある。


――一枚じゃ、たりない。


もう一枚を取ろうとして。


止まった。


貼る。


また貼る。


それじゃ間に合わない。


ばんそうこうは効いている。


外れじゃない。


ちゃんと治せる。


でも。


これじゃ、凛を助ける前に時間がなくなる。


朔が小さな拳を握った。


「まだ」


――カチ。


《NOT YET/ノット・イェット》


◇


止まった。


血も。


水面も。


六人も。


全部。


朔だけが動いていた。


しばらく、凛を見る。


さっき貼った場所。


そこだけは確かに血が止まった。


「なおってる」


外れじゃなかった。


ちゃんと助けた。


でも、足りない。


朔は顔を上げた。


時間は止まっている。


今は急がなくていい。


一人ずつ見る。


カイドウ。


マダラ。


ディオ。


ドフラミンゴ。


ハオ。


藍染。


さっきより少し分かった。


自分がイリスを呼んだら、イリスはこっちを見た。


凛を止めても、凛は傷ついた。


六人は一度動き始めると、誰も相談していないのに全部が噛み合った。


そして。


最後。


六人全部が。


イリスを見ていた。


「…………」


朔はちびイリスの前まで歩いた。


小さな銀髪。


その向こうに六人。


さらに後ろ。


リゼ。


最初は。


リゼに触るゲームだった。


今は誰もリゼを見ていない。


イリスも。


六人も。


凛も。


さっきの朔も。


「…………」


何かが引っかかった。


でも、まだ言葉にはならない。


ぽん。


《NOT YET》が現れた。


胸には、


【00:09】


その下。


【使用枠 7/9】


光が一つずつ現れる。


九個。


一番。


赤い。


【1 エリクサー ――使用済み――】


「…………」


二番。


また。


赤い。


【2 完全回復薬 ――使用済み――】


朔の顔が曇った。


「これも?」


《NOT YET》は何も言わない。


使えない。


でも。


三番。


【3 最上級エリクサー】


赤くない。


朔の目が止まる。


「これ」


指を伸ばす。


反応なし。


選べない。


その隣。


【4 蘇生全回復薬】


「…………」


こっちも。


使える。


朔が二つを見る。


最上級エリクサー。


蘇生全回復薬。


どっちでも。


凛を助けられそうに見える。


でも。


選べない。


五番。


【5 高級プリン九個】


六番。


【6 絶対に脱げない水泳帽】


七番。


【7 ふかふかの大判バスタオル】


八番。


【8 ものすごくよく浮く浮き輪】


そして。


九番。


【9 きれいな石】


「またいし」


朔はもう一度見る。


赤い二つ。


その隣。


最上級エリクサー。


蘇生全回復薬。


欲しいものは。


ちゃんとある。


「…………」


九個が円を描く。


赤い二つも。


一緒に。


回る。


朔の目が少し大きくなる。


――使えないのも?


中心に一本の針。


選べない。


止められない。


小さな拳を握る。


――ガラララララララッ!!


回る。


エリクサー。


――使用済み。


完全回復薬。


――使用済み。


最上級エリクサー。


蘇生全回復薬。


プリン。


水泳帽。


バスタオル。


浮き輪。


石。


また。


赤いエリクサー。


赤い完全回復薬。


最上級エリクサー。


朔の目が大きくなる。


「…………!」


針が遅くなる。


赤い。


【エリクサー ――使用済み――】


通る。


次。


【完全回復薬 ――使用済み――】


そこも。


通る。


【最上級エリクサー】


「…………!」


今度こそ。


でも。


少しだけ。


進んだ。


通り過ぎる。


【蘇生全回復薬】


朔が息を止める。


針。


遅い。


でも。


また。


進む。


【高級プリン九個】


【絶対に脱げない水泳帽】


そして。


――カチ。


【7 ふかふかの大判バスタオル】


「…………」


朔は止まった。


目の前に、大きな白いタオルが現れる。


ふかふか。


柔らかい。


「たおる」


凛を見る。


ばんそうこうの箱を見る。


ちびイリス。


六人。


もう一度。


タオル。


治すものじゃない。


強くなるものでもない。


何に使うのか。


分からない。


《NOT YET》も何も言わない。


朔は両手でタオルを持った。


「…………」


それしかない。


なら。


「これでやる」


光が弾ける。


【使用枠 6/9】


《NOT YET》が胸を叩いた。


世界が、また後ろへ引っ張られる。


【00:08】


【00:07】


【00:06】


戻る。


【00:05】


朔は目を閉じなかった。


【00:04】


見る。


【00:03】


覚える。


【00:02】


今度は。


【00:01】


さっきより少しだけ。


後から始まる。


【00:00】


――ぱん。


◇


目を開けた時。


藍染の「来ます」は、もう終わっていた。


ディオは一歩目を踏んでいる。


――ちょっと遅い。


分かった。


さっき、ばんそうこうを貼った。


そこで時間を使った。


だから今度は、そのぶん先から始まっている。


九秒前。


いつも同じところへ戻れるわけじゃない。


使った時間は戻ってこない。


朔は動かなかった。


まだ。


大きなバスタオルを抱えたまま、六人を見る。


戦いはもう始まっている。


――マダラ。


来る。


――ディオ。


反対。


ちびイリスが抜ける。


――ドフラミンゴ。


そこ。


ハオ。


藍染。


頭の中だけで、前の九秒が先に進む。


実際には、まだ一瞬。


カイドウが踏み込んだばかり。


朔は待つ。


今じゃない。


ちびイリスが方向を変える。


止められる。


また変える。


そこにもいる。


《ONLY I REMAIN》が拳を振るう。


二体が受ける。


三体目が入る。


六人の目が、少しずつ一つの場所へ集まっていく。


イリス。


全員。


イリスを見ている。


朔の指が、タオルを強く握った。


――まだ。


カイドウのスタンドが正面から入る。


マダラが横。


ディオが反対。


白銀の両腕が止まる。


ちびイリス本人が抜けようとする。


ドフラミンゴ。


そこにいる。


方向を変える。


ハオ。


いる。


最後。


藍染。


もう見ている。


完全に止まった。


六人全部が。


ちびイリスへ向いている。


――いま。


朔が走った。


「朔!?」


凛の声。


返事をしない。


六人へ向かって。


その真ん中へ。


大きなバスタオルを抱えたまま走る。


カイドウが前へ出た。


「悪いな」


拳。


《ONLY I REMAIN》へ入る。


白銀が揺れた。


六体が続く。


腕。


肩。


胸。


次々に入る。


朔は走る。


「おい!」


誰かが気づいた。


それでも止まらない。


白銀に亀裂。


一つ。


二つ。


ちびイリスも押される。


剣を上げる。


その目は。


まだ六人を見ている。


朔は最後の一歩を踏んだ。


「イリス!」


ばさっ。


大きな白いタオルが。


ちびイリスへ被さった。


「――!?」


六人が止まった。


本当に。


一瞬だけ。


攻撃の先に。


朔がいる。


カイドウの拳が止まる。


マダラも。


ディオも。


ドフラミンゴが目を見開いた。


「何してんだ、ガキ!」


ハオが一番早かった。


「朔!」


リゼの前から動く。


朔を引き離すために。


でも朔は。


タオルごと。


ちびイリスを抱いた。


小さい。


中で。


まだ身体が固い。


剣も離していない。


「イリス」


タオルの中。


ほんの少し。


動きが止まった。


朔はぎゅっと抱く。


時間はない。


長いことは言えない。


だから。


一つだけ。


「だいじょうぶだよ、イリス」


ちびイリスが動かなかった。


一瞬。


本当に。


一瞬だけ。


朔の腕の中で。


力が抜けた。


でも。


剣はまだある。


終わっていない。


ハオが来る。


カイドウ達も、朔を避けて位置を変え始める。


そこで。


タオルの中。


ちびイリスの顔が動いた。


朔ではない。


六人でもない。


その向こう。


リゼ。


ハオが。


いない。


さっきまでずっと塞がれていた場所。


一つだけ。


空いている。


ちびイリスの目が止まった。


「…………」


何かを。


思い出した。


朔には分からなかった。


次の瞬間。


腕の中から。


消えた。


「え」


タオルだけが残る。


朔が振り向いた。


小さな銀髪が走っていた。


「おい!」


カイドウも気づく。


でも。


一度。


六人全員が朔を見た。


ハオは朔へ動いた。


マダラとディオの間がずれた。


ドフラミンゴも半歩違う。


さっきまで一度もなかった。


穴。


ちびイリスが抜ける。


カイドウが追う。


間に合わない。


リゼが目を見開いた。


「イリス?」


ちびイリスが最後の一歩を踏む。


とん。


小さな手が。


リゼのお腹へ触れた。


「触った」


誰も動かなかった。


「…………」


リゼがちびイリスを見る。


自分のお腹を見る。


もう一度。


ちびイリス。


「……あ」


少し考える。


六人を見る。


それから。


本当に今思い出したように。


「私、ゴールだった」


「…………」


カイドウが口を開いた。


閉じる。


また開く。


「……そういや」


マダラも止まったまま。


ドフラミンゴが額へ手を当てる。


「フッフッ……」


今度は少し笑った。


「そういうゲームだったな」


ハオも朔の前で止まったまま、リゼを見る。


藍染だけは。


ちびイリスを見ていた。


ちびイリスが、リゼへ触れていた手をゆっくり下ろす。


その背後。


白銀の騎士。


《ONLY I REMAIN》。


閉じていた鎧へ、細い光が戻った。


一つ。


また一つ。


隙間が開いていく。


誰も説明しない。


ちびイリスは自分の剣を見る。


六人を見る。


最後に。


凛。


凛は立っていた。


傷もない。


泣きそうな顔のまま、ちびイリスを見ている。


「イリス」


ちびイリスが答えた。


「勝った」


一拍。


凛の口が少し開く。


それから。


笑った。


「うん」


ちびイリスも、ほんの少しだけ胸を張る。


「私は負けていない」


「うん」


朔はその場へ座った。


腕の中には、大きなバスタオル。


もう。


走らなくていい。


「…………」


リゼが見る。


「朔?」


「つかれた」


「そりゃそうでしょ」


その声で。


何かが切れた。


カイドウが大きく息を吐く。


マダラも構えを解いた。


六体のスタンドが、一体ずつ消えていく。


《ONLY I REMAIN》も。


最後に白銀の光だけを残して。


消えた。


プールの水面は。


さっきまで大きく揺れていた。


今は。


小さな波だけ。


凛が朔のところまで来る。


その手には。


朔が持ち帰った白い箱。


「これなに?」


朔も見る。


「ばんそうこう」


「いる?」


朔は凛を見る。


傷。


ない。


少し考えて。


首を振った。


「いまはいらない」


「そっか」


「うん」


凛は箱を朔へ返した。


「ありがと」


朔が少しだけ首を傾げる。


「なにが?」


凛も分からない。


でも。


「なんか」


朔。


少し考えて。


にこ。


「うん」


その横で。


リゼが、ちびイリスを見る。


「ねえ」


「何だ」


「もう一回やる?」


六人。


全員。


リゼを見る。


リゼが笑った。


「今度、私が六人抜く」


ハオが即答した。


「やめてください」


カイドウが吹き出す。


ドフラミンゴも笑った。


マダラは頭を押さえる。


ディオは。


深く。


ため息を吐いた。


プールの水面が。


今度は。


誰かが落ちた音で。


大きく揺れた。

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小説情報

小説タイトル
選ばれなかった9つの世界
作者
johnconnor(ジョンコナー)
公開済みエピソードの総文字数
219,718文字