第六章 リリトの歓迎会

 陸緒は悲しそうな顔をするリリトに言う。

「リリト、僕のお弁当、一緒に食べよ」

「それじゃあ陸緒の分が少なくなる」

 クラスで目立たない男子の、小倉崇臣(おぐらたかおみ)がぼそりと言った。

「食堂行けばいいじゃん」

 陸緒は手をポンと叩くと言った。

「うん、そうしよう。食堂いこ! リリト」

 陸緒はリリトの手を引くと、食堂に向かった。

「小倉君、ありがとう」

「別に……」

 リリトは小倉の顔を見て言った。

「サンキュ、たかおみ!」

 リリトに笑顔を向けられた小倉は、自分でも気づかなかったが、顔が緩んでた。

「うわ、キモっ、小倉。リリトちゃん意識してる」

 その言葉を聞いて、小倉はブツブツと呟いて、教室を出て行った。

 食堂に着いたリリトは、目を輝かせる。

「うわぁ、美味そうだなぁ」

「リリト、あそこで食券買って持って行くんだよ」

 リリトはカレーライスと、ラーメンの食券を購入すると、それを食堂のおばさんに渡した。 

 味はともかく学食は来るのが早い。

 受け取ったカレーを美味しそうに食べるリリトに陸緒は尋ねた。

「ねぇ、どうして小倉君を下の名前で呼んだの?」

「お? 全員、下の名前で呼んでるよ。私の事もリリトって皆、言うだろ?」

 カレーを食べ終わり、髪を耳にかけると、ラーメンを啜った。

 スープまで飲み干すと、次にリリトはパンを買いに行く。

 しかし、学校のパンの売れるスピードは速い。

 リリトが手に取ろうとした時に、最後のあんパンが誰かの手に渡った。

「うぅ……私のあんパン」

 恨めしそうに見る姿も、食堂にいた生徒達は可愛いと笑う。

「一年生に編入した子だよね?」

 声をかけたのは剣道部主将の三年生、若槻翔太わかつきしょうたがリリトに話しかけた。 

 その身長差は三十センチはあった。

「誰だ? お前は?」

「三年生、君よりも二つ年上の先輩なんだけどな。コレ、お近づきの印に」

「ほわぁ、お前良い奴だな! 私はリリトだ」

 翔太はメロンパンをリリトに渡した。

「良かったら、今度の休みにどっか行かない? 美味しいスイーツの店見つけたんだ」

「おう! 時間が合えばな。じゃあね、しょーた。陸緒が待ってるから」

 それからも、リリトは学園内の人気のある男子から、次々に話しかけられていた。

「リリトってモテるんだね。まぁ可愛いけど」

「ふふっ、私からしたら、お前達の方が可愛いぞ、なんだか希望に満ちあふれてるな」

 日本の学生を見てリリトは真剣にそう思った。

 苺ミルクを、ちゅーっと飲み干すと、リリトは伸びをする。

「午後は昼寝の授業がいいな」

「そんな授業ないよぉ」

 笑いながら陸緒は思い出したように、リリトを図書室に誘った。

 陸緒の通う、峯欄台高校の図書室は日本最大級の大きさを誇る図書室がある。図書館と言って良いほどの広さで、昔外国の富豪が寄付して出来たらしい。

「リリト、ちょっと寄ってこ」

 自動扉をくぐると、沢山の本棚がリリトを迎えた。

「わぁ」

 リリトは近くの本棚の本を無造作に取り、何かの短編集をめくると、読み始めた。

「リリト、休憩時間少ないからそれ借りていこ」

「……うん……やっぱ、いいや」

 本を戻し、教室に戻る。

 五限目は日本史の授業だった。

 リリトは、小さい国の中で、戦争ばかりしていた日本という国が、不思議でならなかった。ノートを取りながら、日本史の先生の言う事と教科書を読み、それなりに理解出来る所もあった。

 すると後ろからリリトに手紙が回ってきた。

「ん?」

 中を開くと、木崎ゆか達主催で、リリトの歓迎会をするという内容だった。リリトは木崎ゆかの方を見ると、小さく手を振っているのが見える。

 目を輝かせて、リリトはウィンクして見せた。睡魔がピークになる六限も、リリトは普通に、楽しく授業を聞いていた。

 たすき掛けの法則なる物を習ったが、襷が何か一切、分からなかった。ホームルームが終わると、生徒達は買い出しのじゃんけんを始めた。

 そんな中、小倉崇臣は鞄に教科書をしまうと帰ろうとした。

「たかおみ、帰るの?」

 リリトは寂しそうに小倉にそう言うと、小倉は言った。

「どうせ僕がいても、ウザがられるだけだし……」

 普段は誰の言葉も無視する小倉だったが、リリトには何故か素直に答えれた。

「私はたかおみの機転で、食事をたらふく食べられた。少なくとも、私はお前が好きだぞ!」

 八重歯を見せ、リリトは笑った。

 クラスのお調子者の男子が、小倉の肩を組むと言った。

「じゃあ小倉と、俺達で買い出し行ってくるからさ」

 戸惑う小倉を連れて、数名の生徒が買い出しに出た。

 木崎の親友の、白石京子しらいしきょうこは机の上に座り言った。

「リリトちゃん、マジ天使だよね。あの根暗の小倉を、あそこまで明るくさせるんだもん。でも、愛の告白みたいだよね。好きだ! って、あはは」

「私はゆかも、きょうこも、皆好きだ。こんな私を受け入れてくれる。日本は良い国だな」

「リリトちゃんって、ちょっと古風だよね」

 少し照れながら、大きな買い物袋を持った小倉達が戻ってきて、歓迎会は始まった。

「ねぇねぇ、リリトちゃん、私らの事呼び捨てだから、私らもリリトって呼んで良い?」

「うん、いいよ」

 果汁一〇〇%のオレンジジュースを飲んで頷く。

「何か、皆に礼をしないとな」

「じゃあ俺と付き合ってよ」

 小倉を買い出しに連れ出したサッカー部の川崎がそう言うが、リリトは片目を瞑り、舌を出した。

 陸緒は楽しそうに笑うリリトを見て、自身も嬉しくなった。以前、陸緒に絡んだメンツが陸緒の前に来ると、手をついて謝った。

「伊万里、この間はゴメン、リリトさんは私等を許してくれたから、私等もケジメつけないといけない。殴りたければ殴ってくれ」

 クラスの全員がその光景に目が釘付けになった。

 リリトが謎のライダーから彼らを救った事、そして彼らを全うな道に進ませた事、陸緒に絡んだ連中は、クラスの全員にも詫びた。

「いいじゃないか、過ちを気づけた時、君は大人になる。少年よ、大志を抱け」

 リリトはオレンジジュースを自分で注ぐと、そう言った。

「私の愛してる人がよく言う台詞だ」

 愛している人という言葉に、クラスの女子が黄色い声を上げた。

「えー、何々? リリトの恋人?」

「ナナ」

「女の人?」

 話しがややこしくなりそうだったので、陸緒はリリトの保護者である、ゼッハの事を皆に話した。

 リリトに彼氏がいない事を知り、ガッツポーズを取る男子達を女子が笑った。いつしか、陸緒もクラスの皆と語り笑いあっていた。

 八時頃まで馬鹿騒ぎは続いた。

 皆で下校するも一人、また一人と、自分の家へと姿を消した。気がつけば、陸緒と二人きりだった。

 リリトは陸緒の手に自分の手の甲をちょんちょんとつける。それに気がついた陸緒がその手を握る。

「えへへ」

「リリト、ありがとう」

「何が?」

「リリトがいたからクラスでの距離が縮まった」

 リリトは胸を張ると言った。

「私は陸緒を幸せにする為に来たからな。えっへん」

 リリトは陸緒の家まで送ると、手を振った。何かを食べて帰ろうかと思ったけど、少し疲れたのでホテルに戻った。ゼッハから電話がかかってきていたとの事をフロントで言われ、リリトはゼッハに電話をした。

「もしもし」

「おう、私の可愛いリリト、ヤーパンの学校はどうだね?」

「すっげぇ楽しい」

「そりゃ良かった。私がいなくて、泣いてるかと思ったよ」

「うん、少し寂しい」

「この二ヶ月が終わったら、好きなだけ私といるんだから今は陸緒とヤーパンを楽しみなよ」

「うん、ねぇ、頼みがあるんだけど」

「言ってみ」

「あのね……」

 まだ二日だと言うのに、ゼッハの声を聞くと甘えてしまう。

 それでも公園で戦った相手の事はゼッハには黙っていた。ベットでひっくり返りながら、リリトは図書室で読んだ本を思い出した。

 心を持たない機械人形が心を求める話、結末はよく分からなかった。心を手に入れた機械人形は最後に、自分で自分のスイッチを切った。

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