第16話 清三との出会い

「のんちゃん、いつから清三さんの家に行く?」

 夕ご飯を家族皆で食べていると、ママがまるでどこかへ出かけるかのような気軽さでのぞみに聞いてきた。

「え!?」

「ふふふ。同棲よ」

 ママが手を口にあてて笑っている。

「どうして知ってるの?……今日清三さんに言われたのに……」

 のぞみは驚いてママを凝視してしまう。

「あら!ママはのんちゃんのことなら何でもわかるわ~」

 ママは嬉しそうに笑っている。

「ふふふ、嘘よ。清三さんが正式にお預かりしたいって、数日前にお話に来たのよ」

「そうなの?」

「そうよ~」

 ママは嬉しそうだ。

「嫌じゃ!」

 いきなり向かいに座っているおじいちゃんが叫んだ。それを見たおばあちゃんがおじいちゃんへお茶を渡し、背中をさすって慰めていた。


 なんだか……展開が早い気がするけれど……まだ結婚なんて


 のぞみは困ってしまった。

「あの、同棲なんて……結婚していないのに」

「16になったら結婚してもいいわよ」

 のぞみの言葉にママは目をキラキラさせている。なんだか結婚に憧れている女の子のようだった。

「でも……」

「最近何かと物騒だから男手がある方がいいわ、のんちゃん」

 向かいでおじいちゃんが腕を折り曲げ力こぶを作ろうとしていたが、その後すぐに自分の腕を見て寂しそうに肩を落としていた。

 

 ママの言い分はのぞみにはわかるようでわからなかった。

「ママ、あの……私って清三さんに以前会ったことある?婚約のことで会う前に」

 のぞみはそもそも今回の婚約についても、いまいち納得できていないのだ。

「あら?覚えていないの?……ふふふ。あんなに仲良しだったじゃない」

「え?」

 ママの言葉に首をかしげてしまう。

「そのうち思い出すわよ」

 ママは優しくのぞみに言った。


 やっぱりママも私に思い出してほしいってことかな?私はどうして清三さんのことを忘れているのかな?




 結果……覚えているわけがありませんでした。


 夕食後、ママがもったいぶりながら見せてくれた写真。それは何度も見たことがあるのぞみの生まれたばかりの頃の写真だった。

「ふふふ」

「???ママ、これ何度も見たことあるよ。どうしたの?」

「隣に写っているのが清三さんよ」

 ママはとっておきの秘密を話すときの子供のような表情だった。

「隣?」

 写真ののぞみの隣には誰も映っていない。ただ、生まれたばかりののぞみの手を握っている子供の手が映っているだけなのだ。

「この手が清三さんよ」

 ママが子供の手を指さした。

「え!?」

「のんちゃん、全然清三さんの手を離さなくて……本当に昔から仲良しなのね」

 ママは嬉しそうにきゃぴきゃぴしている。


 そんな小さい時の記憶なんかないよ~


 のぞみはそう叫びたい気持ちをぐっとこらえた。

「た、確かに会ったことはあるみたいだね……」

「そうなのよ♪」


 これって会ったことがあるうちに……入る……んだよね、たぶん。


 のぞみは一応納得した。どうやら小さい頃に会ったことはあるらしい。


 でも……清三さんも思い出してほしいなんて……こんな年じゃ覚えているわけないよ


 のぞみは心の中で清三にもつっこんでいた。


 のぞみとママがのぞみの小さい頃の写真を見ていると、丁度通りかかったおじいちゃんとおばあちゃんに見つかった。おじいちゃんはのぞみの写真を見ながら涙をながし、嫁に行ったら寂しいと呟いていた。おばあちゃんは、いつでも会えますよ、と慰めている。


 なんだか……このまま結婚しないといけない雰囲気だったり、するのかな?


 のぞみはおじいちゃんは気が早いな、と思いながらも、なんだか自分も流されているな、と感じていた。

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