第12話 恋愛相談なのかな?

 次の日の放課後、のぞみは久しぶりに麗華に会う約束をしていた。月曜日に麗華と別れの挨拶をして、今日は金曜日。1週間もたっていないのに、長く会っていないような気がした。そのくらい、この5日間の特技科での生活は驚きの連続だったのだ。


 のぞみがショッピングモールに着くと、すでに麗華がいた。

「麗華ちゃん」

「のん!ひさしぶり!」

 麗華がのぞみに抱きついてきた。のぞみも抱き返す。相変わらず麗華ちゃんは可愛いな、のぞみはそんなことを考えながら顔がほころんでしまうのがわかった。

「とりあえず、アイス食べながら話そう!」

「そうだね」

 そう言うと二人はいつものアイス屋さんでアイスを買い、ベンチに座った。


「で、どういうことなの?」

 麗華がアイスを食べながらのぞみに尋ねる。

「え?」

「のんが急に特技科に転科になった話よ」

「あ……それは」

 のぞみは麗華に説明するのをためらってしまった。単純に恥ずかしかったのだ。

「のんのママにこの前偶然会った時に、のんに婚約者がいるって聞いたわ」

「え!」

「もしかしてその関係?」

 麗華はするどかった。のぞみは隠してもしょうがない、と首を縦に振った。

「そう……」

 麗華は考え込んでいるようだった。

「麗華ちゃん……」

「どうしたの?」

 のぞみは清三について考えていたことを麗華に相談してみることにした。

「あのね、その婚約者は清三さんっていうんだけど、私の事を好いてくれるみたいなんだけど」

 のぞみは言葉に詰まってしまう。どうやったらうまく説明できるだろう、そう考えながら必死に言葉を探した。

「どうして好きになってもらえたのか、よくわからないんだよね。前に会ったこともない気がするし」

 のぞみの話に麗華はうーん、と唸ってしまう。

「実は、どこかで会っているんじゃない?」

 麗華の問いに今度はのぞみが唸ってしまう。確かに好きになられるとしても、外見で惚れられるとは考えにくい。以前どこかで会って好きになってもらった、と考えるのが普通だけれども、清三と会ったような記憶が一切浮かんでこないのだ。

「その、清三さんはかなり存在感がある人で……会ったことないと思う」

「そう。存在感がある人ってなかなか忘れられないもんね」

 麗華が納得したように頷いている。

「のんはその人が好きになれそう?」

「……わからない」

「良い人そう?」

「うん……たぶん。私には優しいし」

「じゃあ、婚約者として付き合ってみたら?もう婚約者になってるってことは断れないんでしょ?」

 麗華の言葉は適切だった。清三さんの実家は偉い家。なぜのぞみの家に婚約の話が来たのかはわからないが、立場的にのぞみは断ってはいけない気がするのだ。それに清三との婚約話を断るほど、誰か好きな人がいるわけでもない。

「そうだね」

 のぞみは流されているな、と考えながら麗華に頷いた。

「それか、聞いてみたら?本人に」

 麗華の発言に、のぞみはハッとした。


 そうだ!この際、本人に聞いてみよう!……どうしてその考えを思いつかなかったんだろう。初めて会った時は詳しく聞けなかったから、今度会った時にもっときちんと聞いてみればいいんだ。


「ありがとう、麗華ちゃん。そうしてみる」

 のぞみは自分の中のもやもやがすっきりして、視界が晴れたような気がしていた。

「そう?良かったわ」

 麗華も笑顔になる。笑顔の麗華ちゃんはやっぱり可愛かった。




 清三ときちんと話す、と決めてしまえば、のぞみにとって後の悩みは学園生活のことだけだった。まずは選択授業で何を選択するのか決めないといけない。


 セルフコントロールの授業はたぶん受けた方がいいんだよね。それは決まりで。あとは、やっぱり薬学の授業かな。一番興味が持てそうだから、温室でハーブを育てる授業を取ろうかな……本当に私が特技科にいていいのかな……?


 のぞみは悩みながらも土曜日の最後の授業を迎えていた。


「松葉さん、選択授業は何をとるか決めた?」

 委員長が話しかけてくる。委員長はクラスの中では積極的にのぞみに話しかけてくれる、面倒見のいい人だった。

「あ、委員長、えっと……あ!ごめんなさい、明神君」

 のぞみはつい頭の中で呼んでいた委員長というあだ名をぽろっと口に出してしまった。慌てて訂正したが、本人にはばれてしまっただろう。恥ずかしくて顔が赤くなるのがわかった。

「あはは。委員長って呼んでくれていいよ」

 委員長は笑顔でのぞみに言ってくれた。委員長はどうやら本当に良い人のようだった。のぞみは委員長のやさしさに感動してしまう。

「ありがとう」

「いえ、どういたしまして」

 ふたりで微笑み合ってしまった。

「ところで、選択授業だけど」

「あ!そうだった。セルフコントロールと、あとは薬学を考えています」

 のぞみは今自分が考えている選択授業について委員長に伝えた。

「そう。だったら来週からはその授業を受けるといいよ。担当の先生には僕の方から伝えておくから。もし後から変更したい場合でも、正当な理由があれば認められるからね」

 そう言うと委員長は書類に何か書き込み、自分の席へ戻っていった。



 チャイムが鳴って程なくすると、国語の先生が現れた。どうやらこの先生がのぞみの担任のようだった。一般教養の国語の先生は、はっきり言ってまったく特徴がない。1年後に会ったら思い出せないのではないだろうか、というくらい印象に残らない顔をしている。そして中肉中背で、まさに山田太郎という名前がぴったりの男性だった。ちなみに先生の本当の名前は佐藤太郎。のぞみは先生の名前を聞いた時、おしい!と思ってしまった。誰にも言っていないけれども……。


 佐藤先生はHRの連絡を淡々と始めた。来週の特技科全体の予定などが主だった。それ以外には今週は取り立てて伝えることはない、ということでHRは15分もしないうちに終了した。あまりのあっさり具合に、のぞみはびっくりしてしまった。

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