第三章 華麗なる探偵部の活躍

☆野上隆之介の推理


 放課後の化学室からは、昨日凄惨な事件があった事を一切感じられなかった。今日ここで授業を受けた生徒は、昨日の放課後、床に血溜まりが出来ていた事など想像できないだろう。

 僕は、昨日の事件の検証のため、真咲君、霧君の二人の助手を伴い、現場となった化学室を訪れていた。何度も現場に足を運ぶのは捜査の基本だ。そしてこれが探偵部発足後、正式に学校から依頼を受けた初めての事件である。

 ついに教師が我が部の顧客リストに名を連ねるまでになったのだ。

 さらに僕には探偵部の部長として、部員を一流の探偵に仕立てあげる使命もあった。今は助手の立場で勉強してもらっているが、それに満足されては困るのだ。捜査をしつつ部員を育てる。簡単な仕事ではない。しかし、やらねばならないし、やれてしまうのだ。なぜならば、それが探偵だからだ。

「さて、諸君」

 窓の方を向いて二人を背にしている体勢から、そう一声掛けて振り向き、僕は言った。

「この事件どうみますか?」

「どうみるっていわれてもねぇ。本当に事件があったの? 首吊り死体が消えたっていうけど、私は見てないし。真咲君はみたの?」

「いや、死体は見ていない。だけど、血が落ちていた。それはおまえも見ただろう?」

「血に見えたけど、本当に血なの? 人間の? それとも動物のじゃないの?」

「動物の血が落ちている方が異常だな。もしかすると黒魔術の儀式が行われていたのかもしれない」

 議論するのは構わないがあまり非現実的な方に進まないでくれよ。ここで本筋に戻そう。

「まあ、待ちたまえ。これはその血痕を拭いたティッシュです。これを調べれば人間の血液かどうかすぐにわかります」

「……」「……」

 真咲君はつまらなそうに、霧君はニコニコと微笑んでこちらを見ていた。見ているだけだった。ここはどうやって調べるのか聞くところだろう!

「その顔はどうやって調べるのか聞きたそうな顔だね? よろしいその疑問を解決しよう」

 そう言って、持参した紙袋からルミノール反応試薬キットを取り出した。刑事ドラマの鑑識のシーンで使われるアレである。心の中では、テレレッレッテレー♪という例の軽快な音楽が鳴り響いているが、探偵の威厳がなくなるので口には出さない。

「なんでそんなものを持っているの?」

 今度は良い質問をしてくれた。

「ふふっ、探偵の嗜みですよ。霧君」

 ずっと前に買ったこのキットを使う時がやっと来たのだ。前に鼻血を出したとき使わなくて本当に良かった。鼻血ごときにこのキットを使うのはもったいなさすぎる。それにキットに付属している器具はプラスチック製で、あまりありがたみがない。幸いここは化学室だ。実験器具には事欠かない。さっそく棚から大き目のビーカー、試験管と試験管立て、スポイトを拝借してきた。何事にも舞台設定が重要なのだ。

 まずは血痕を拭いたティッシュの一部分を千切り、ビーカーに入れた。次に試験管で薬液を作り、スポイトで吸い、血痕の部分に垂らす。薬液を垂らされた血痕は、かすかな青白い光を発した。

「見たまえ。科学の勝利だ! これは確かに人間の血ですよ!」

 真咲君がごちゃごちゃ文句を言っているが、科学捜査は絶対なのだよ。

「さて、昨日の血痕が人間の血だと証明されたわけですが、次はこの血がいつ落ちたかについて検証しようではないか。それで聞き込みの結果は? ワトソン君、まさかくたびれゾンになっていないだろうね」

 僕の小粋なジョークを聞き流して真咲君が応えた。

「……。言われた通り斉藤先生に聞いてきた。昨日、この教室の掃除は確かに行われたそうだ。床にも血は落ちていなかったし、ハッチも閉まっていたそうだ。掃除には斉藤先生が立ち会って、鍵は先生自身が掛けたと言っている。『化学室の鍵はー、特に厳しく管理しろって言われててなー』と言っていた」

 真咲君が似ていない物まねを披露してくれた。

「ふむ、血痕は机の影なので見落とすかもしれないけど、ハッチが開いていたら気が付くだろう。それに、あの血の乾き具合を見ると、掃除の時にあったものとは考えられない。その証言は信頼できるね。で、掃除をした生徒の証言は?」

「知らない。先生にしか聞いていない」

「気が利かないなあ。そこまで聞いたのなら、掃除していたクラスに行って証言を聞いてくればいいでしょうに」

「なんだよ、先に言っておけよ」

 僕としては、助手への指導の一環だったのだが、

「もう、ケンカしないでよ」と横から霧君が口を挟んできた。

「ケンカなんてしていない」

 その意見には僕も賛成だ。

「クラスまでは分からないけど、普通科の三年生だと思うよ」

「ほう、なぜそう思うのかな?」

「あそこから」と言って、霧君が斜め向かいの教室棟を指差した。そこは僕達の教室だ。

「掃除の時この教室を見ると、たまに三年の体操着を着た人が掃除をしているの。もしウチの学科か美術科の生徒なら見覚えがあるはずだけど、掃除していた人に誰も見覚えがないから」

 感動した! なかなかの探偵眼である。僕は霧君の手を取って言った。

「霧君、素晴らしいよ! 君には探偵の素質がある! よし、僕が責任を持って君を名探偵にしてあげよう」

 横では真咲君が不機嫌な顔をしていた。霧君ばかり褒めたので不貞腐れているのだろう。

「真咲君、霧君のように日常生活で目に入ったものを心に留めておく事が大切なんだ、これを捨て目って言ってね、探偵に欠かせない能力なのだよ。君もこの先しっかりと学んでいけば立派な探偵になれるよ」

「つまり、その事に気が付かなかったという事は、お前には捨て目が無いということか」

 こんな憎まれ口を叩くけど、本当はこんな事を言う時ほど落ち込んでいるのだ。僕は真咲君の後ろに回り、肩を軽く叩いて励ました。

「次は霧君の報告を聞こうじゃないか。化学室の異変に気付いた生徒はいたかね?」

「はーい。一年から三年のウチの学科の教室を回って、昨日の放課後に残っていた人がいなかったか聞いてきました。美術科には聞いていないけどいいよね?」

 美術科にも聞ければ申し分ないが、教室棟四階の西側を使っている美術科とはお互いの領域に入り込まないのが暗黙のルールだ。美術科の教室から化学室は見えないし、わざわざウチの学科の教室に来た生徒もいないだろう。

「昨日、五時過ぎまで残っていた生徒はいませんでした。四時くらいまで残っていた生徒はいたけど、化学室で変った事が起きているのを見た生徒はいません。念のため三階から化学室を見てみたけど、中までよく見えなかったから聞き込みはしていません」

 さすが霧君、細かいところによく気が付く。しかし報告は残念だった。首吊り死体を見た生徒がいれば騒ぎになっているはずなので、その期待はしていなかったが、まったく目撃者無しというのも期待外れだ。仕方ない、次のステップに進むとしよう。現場でしか教えられない事がある。

「あー、君たち。遺留品や犠牲者にも気をかけなければならないのですが、この部屋で一番注目しなければならない点はなんでしょうか? 分かりますかな?」

 僕は優しく二人に問いかけた。だが、真咲君はふくれっ面で明後日の方向を見ているし、霧君もニコニコしているだけで答える気はなさそうなので、結論を告げた。

「昨日、ここは密室だったのです!」

「はぁ?」「それで?」

「……」

 二人の返答に絶句してしまった。真咲君はともかく、霧君は見どころがあると思っていたのだが残念だ。よろしい、君達は教え甲斐のある生徒のようだ。

「全ての扉や窓に鍵が掛かっていたり、障害があったりして通常の方法では出入りが出来ない部屋を密室というの! 探偵部員なら覚えて!」

「密室は知っているけど……大げさじゃない?」

「そうだな。大げさだな」

 こんな時だけ仲良く同じことを言う。

「なんでよ! 十分でしょ! 入るのに鍵が必要だったじゃない! 窓も全部鍵が掛かっていたよね! 準備室の扉にも鍵が掛かっていたし、中に誰も居なかったよね!?」

 昨日、渋る斉藤先生を説得して化学準備室の扉を開けてもらい、中が無人である事も確認していた。

「密室でしょ!? 違う!?」

「わかったよ。いいよ。それで」

 真咲君が投げやりに答えた。

「なに、『それで』って!? 全然わかってないよ!? 探偵になれば漏れなく密室事件に出会えると思っているの? 怖いわー。素人怖いわー。ほとんどの探偵が密室事件に出会うことなく引退しているよ! よし分かった、何パーセントの疑問があるの!? 言ってみてよ」

「だからいいよ。無いよ」

「あれ? なんでカナ? 僕はパーセンテージを聞いているのに、どういうことカナ?」

「……。0%」

「ご免なさい。確認のため、主語をはっきり言ってもらってもいいですか?」

「……」

「なに室? なに室?」

「ミッシツ」

「えぇ? 密しなに?」

「密室だ!」

 教師役としてこの先が思いやられる。前途に大きな不安を抱いたが、数秒の沈黙の後に

「よろしい!」と言って頷くと、今度は、ずっと下を向いたまま固まっていた霧君が、

「ぶわぁははは!」という謎の言葉を発した。

「ぼばば、ばぁはははは!」

 訳の分からない言葉に真咲君は、「悪霊にとりつかれたのか!?」と心配したが、霧君は涙を流しながら弱々しく、「大丈夫」とだけ言った。

 どうやら笑いをこらえきれなくなっただけらしい。まったく失礼な助手達だ。

「とにかく、昨日ここは密室だった! 首吊り死体があったけど、わずかな時間で消えてしまった! 残っていたのは血痕とケーブルとノートだけ! 以上質問は?」

 霧君が手を挙げた。

「はい。霧君」

「密室を確認したのは、野上君と真咲君とあと、小島君? と三人いるけど、首吊り死体を見たのは野上君だけというのは客観性にかけるのではないでしょうか?」

 ほう。良いところを突いてくる。やはり霧君の方が優秀なのかもしれない。

 僕はルミノール反応の実験により青白く光っているティッシュを振りながら答えた。

「証拠があります。現場には血が落ちていた」

「でも、血が落ちていたのと、首吊り死体があったことはイコールではないでしょ?」

「だから、僕が確かに見ているのですよ」

「疑っているわけではないけど、客観性がねえ」

 なかなかしつこい。

「事実は動かしようがないですが、まあ、足りない証拠は今後の捜査で明らかになるでしょう」

 認める事も探偵に必要な資質であるということも学んでほしい。それを教えるため、霧君の積極性に免じてここは一時引いておきましょうか。真咲君がニヤニヤしているのが、ちょっと気になったが、無視して先を続けた。

「えー、密室だったこの化学室ですが」

 そう言ってから、改めて化学室を見渡すと、こちらに熱い視線を送っている三人に気が付いた。ここを訪れた時から、教室の隅でなにか実験をしていた人達だ。霧君によると化学部の方々らしい。

 僕の推理の邪魔にならなかったので気にしていなかったが、三人とも先ほどまで着ていた白衣を脱いでいた。僕の探偵講義に興味津々、聴く気満々らしい。実験に身が入らないのなら話を聴いても構わない。僕は気楽に参加できるように聞き込みにかこつけて彼らを呼んでやった。

「そこの君達、ちょっと話を聴かせてくれるかな? 僕は先日起きたある事件について、斉藤先生から依頼を受けて動いている探偵です。ちょっと質問をさせてください」

 事件という言葉で動揺させてしまったらしく、部員達は顔を見合わせてこそこそ話あっていた。僕が両手を広げ友好の態度を示すと、安心したのかこちらに来てくれた。

「君たちを疑っているわけではないのです。楽にしてください。昨日、この教室は鍵が掛かっていたようだけど、部活はなかったのかな?」

 眼鏡を掛けている男子生徒が答えてくれた。

「部活はありましたが、化学室は使っていません」

「というと?」

「秋に近隣の高校の化学部による発表会があるんです。うちの部は、市内の大気汚染について調べているので、昨日は外に出て窒素酸化物の測定容器を設置していました」

「なるほど、興味深いですね。ぜひ実験の結果を教えてください」

 ちらりと真咲を見ると、腕を組んだ姿で別の方を見ていた。霧君は右手でこめかみを押さえて下を向いていた。尋問テクニックを学ぶ貴重なチャンスだよ、君たち。

「鍵は? 化学部専用の鍵を持っていますか?」

「鍵は部活の度に職員室に借りに行っています。化学室は特に鍵の管理が厳しいのです。ここにある薬品だけで簡単な爆発物なら作れてしまいますから」

「ここに水銀はありますか?」

 突然真咲君が口を挟んだ。

「本格的にヤバいものは、あっちの準備室っすよ。水銀も準備室にならあると思います。こっちの教室にも水銀を使った古い温度計ならありますよ」

 横から眼鏡の一年生らしい生徒がそう答え、実験器具が仕舞ってある棚を指差した。先ほど引き出しからスポイトを取り出した時に温度計もあったのを思い出した。

 唐突に何でそんな事を聞いたのだろうか。だが真咲君は僕が問いただす前に、今度は僕に質問した。

「タロットカードで、『吊られた男』はなにを意味するか知っているか?」

 ますます訳がわからない。僕が答える間もなく、「それは、英知、慎重、試練、直感だ」と言うと、また黙ってしまった。積極的に質問するのは良いが、それはいま聞く事なのか?

 だが、水銀は推理小説で度々登場する重要なアイテムだ。その証言を引き出したのは手柄といっていい。後で褒めようと心の中にメモをして、慎重に会話を進めた。

「今持っている鍵で準備室に入れますか?」

「駄目ですね。準備室の鍵は、生徒には貸してもらえません」

「なるほど、よく分かりました。ところで…」

 ここでゆっくり化学部員三名の顔を順に見渡してから、努めて明るく切り出した。

「昨日、この化学室に入っていないことを証明できますか?」

「はあ? 職員室の鍵貸し出し帳を見れば、昨日鍵を借りていないことはわかると思うけど」

「そうですか。では、この教室で部活が行われなかった事を誰かに話しましたか?」

 化学部が無関係なら、犯人は昨日化学室が無人であることを知っている人物である。これこそ質問の意図を相手に悟らせずに自然にアリバイ確認を行い、かつ、さりげなく犯人に繋がる情報を聞き出す探偵のテクニックだ。

 しかし、この技術を学ぶべき二人の内の一人、真咲君はあらぬ方を向いて話を聞いているのか不明だし、霧君は下を向いて震えている。前途にますます不安を感じたが、眼鏡の女子生徒の答えはもっと失望するものだった。

「部のスケジュールは、部のホームページに載っていますよ」

「えっ!?」

「うちの部の活動は不定期なんです。部員もよく間違えるので、部のホームページにスケジュール帳を載せています。制限は設けていないので、誰でも見ることができます」

「誰でも!?」

「そうです。晴高ネットのスケジュール機能をそのまま使っています」

 晴高ネットとは、我が校の生徒向けネットワークコミュニケーションサービスであり、生徒なら掲示板、スケジュール帳、ブログなどの機能が利用できる。

「そうですか……」

 助手達を見ると、なぜ僕がこんなに失望しているのかまるでわかっていないようである。

 犯人への道筋が一本失われてしまったのだぞ!

 しかも、追い打ちをかけるように眼鏡の女子生徒はこう言った。

「そろそろ鍵を閉めるので、出ていってもらえますか」

 化学部め! 全員眼鏡なのに、なんて非協力的なんだ!



□芦屋真咲の解明


 事件翌日の放課後、俺たちは化学室を訪れた。野上が化学室で現場検証をしたいと言い張ったためだ。

 昨日は鍵がかかっていた化学室だったが、今日は開いていた。中では化学部が実験をしていたのだが、野上は、「失礼する」と言って返事も待たず遠慮なく入って行ってしまった。龍胆寺を見るとこちらも、「大丈夫でしょ」と後に続く。本当にずうずうしい奴らだ。

 野上は、昨日血が残っていた場所に来て一通りうるさい事を言った後、手に持った紙袋から箱を取り出した。血液反応キットだというが、パッケージのイラストは良い子の実験道具にしか見えなかった。

 そもそも、血は昨日掃除してしまったのだ。いちいち学校に持ってこないで家でやってこいと言うと、

「馬鹿だなあ。こういうものはシチュエーションが大切なんだよ」とほざく。

 もういいよ。早くやれ。はいはい。結果は? 間違いなく血液だって?

 この箱には鉄分に反応するって書いてあるぞ、確かに血液の中のヘモグロビンには鉄分が含まれているけど、単にその辺の鉄に反応しているだけではないのか? 仮に血だったとしても、人間の血か動物の血か分からないだろうに。

 そんな科学捜査とやらの盲点を黙っていてやったのに、今度は俺に言いつけた仕事に文句をつけた。そればかりか、龍胆寺の方が探偵に向いているとか言って、手を握ってへらへらしているのだ。龍胆寺も俺が同じ事をしたら厳しく当たるだろうに、野上には怒らないのはどういうことだ。勝手に二人で探偵ごっこをしていればいい。俺は俺なりにこの事件について考えることがあるのだ。


 張り切っている野上には悪いが、これは殺人事件などではない。

 当たり前だ。首吊り死体が突然現れて、都合良く消えるはずがない。普通なら、「事件は無かった。はい終了」である。

 だが、昨日拾ったノートに書かれていた悪魔の文字。これは見過ごすことのできない物証だ。

 野上の相手をしながらそんな事を考えていると、野上が突然キレた。適当に答えた言葉が、野上のウザいスイッチを入れてしまったようだ。こうなると手に負えない。嵐が過ぎるのを待つしかない。部屋の隅では化学部員達が器具の片づけをしていた。実験はもう終わったのだろうか。やれやれ、俺も早く帰りたい。

 はいはい。仰る通りでございますよ、と適当に相手をしていると、横でやり取りを聞いていた龍胆寺が突然奇声を上げた。まるで悪魔が取りついた様だ。

 そんな事はあり得ないと思うのだが、もしかするとこの場所の気が良くないものを引き寄せたのかもしれない。俺の心配が的中しているのなら、ここは陰陽師の調伏呪文より、カトリック式の悪魔祓いがいいだろう。だが今は聖水すら用意していない。ここでできるのか? いや、やるしかない!

 必死に手順を思い出していると、龍胆寺の様子が落ち着いてきた。どうやら持病の発作らしかった。この場所が原因の霊障ではないと信じたい。

 ひと騒動の後も野上の話は続いた。化学部員達を見ると掃除も終わり、こちらを不審な目で見ていた。手に鍵を持っているところをみると、もう帰るところなのだろうが、俺たちがいるので鍵を閉められないのだろう。

 そろそろ外に出よう、そう話を切りだそうとすると、野上が部員たちを呼びつけた。一足遅かった。犠牲者を増やしてしまい申し訳ないが、いい機会なので俺も一つ化学部員に質問をさせてもらった。

「この教室に水銀はあるのか?」

 答えは、あるとの事だった。

 俺の杞憂がさらに増す回答だ。

 昨日、俺は首吊りと聞いてタロットカードの『吊られた男(Hanged Man)』を思い出した。

 この男はなぜ吊られているのだろうか。一説には、英知を得るために自らを樹に吊るしたのだという。

 中世ヨーロッパにおいて、最高の知恵者は錬金術師であった。錬金術とは水銀などの卑金属を金に変える試みであり、後の化学の発展に大きな影響を与えたと言われている。もちろん現在の化学の力を使っても、水銀を金に変える事は出来ない。しかし、悪魔の力を使ったらどうであろうか…

 俺のこの考えは、化学室から追い出された事により中断されてしまった。

 居場所を失った俺達は部室に戻ることになった。野上は、重大な発見したので意見交換をしたいと言っていたが、どうせ一方的にしゃべるだけだ。俺は早く帰りたいと主張したのだが龍胆寺が、

「野上君に賛成! たまには、あんたも気の利いた意見を出しなさいよ!」などと野上に同調したので、俺の意見は却下された。

 化学室を出て廊下を歩いていると、後ろから異様な殺気を感じた。もちろん、鍵を掛けている化学部員のものではない。確かめる必要がありそうだ。

 俺は階段手前で足を止め、前を行く二人に声を掛けた。

「ちょっと野暮用ができた。先に行ってくれ。すぐに追いつく」

 何気ない風を装ってそう言うと、野上は手を上げて階段を下りて行った。しかし、龍胆寺は、俺の言葉に何かを感じ取ったのか、振り返って俺を心配そうに見つめた。

 何か言いたそうだったが、俺がうなずくと微かに笑って、

「すぐに来なさいよ! ずっと待っているからね」

 そう言うと、野上の後を追い階段を下りて行った。

 あまり死亡フラグを立てないで欲しいものだ。

 階段を下りる二人の足音が聞こえなくなり、鍵を職員室に返しに行く化学部員達も見送った俺は、廊下の突き当たりにある化学室に向かってゆっくり歩き出した。

 一歩一歩進むごとに確信は強くなる。俺はズボンの後ろポケットに手を入れ、陰陽師の憑代であるヒトガタを取り出した。

「さて、気のせいなのか。それとも……少なくとも味方ではなさそうだ」

 こいつは縦10㎝横5㎝の大きさのポストイットを人の形に加工した優れモノだ。

 平安時代と違って今の世の中には便利なものがある。壁に貼っても落ちないし、すぐに剥がせる。一枚一枚に式神として使役するための術が書けるので、すぐに呼び出すことができる。ご先祖様の手元にあれば、宿敵清明との戦いも楽になったはずだ。

 素早く四枚を取り出し廊下の壁四方に貼り付け呪文を唱えると、それぞれのヒトガタから半透明の霊体が浮き上がり俺自身と同じ形をとった。それと同時に護符を取り出し足元に置き、再び呪文を唱えた。

 四体の式神を呼び出すと同時に、身隠しの術により俺の気配を断ったのだ。

 素養の無い人間には俺の姿に何も変わりはないが、俺に悪意を持った存在には俺が四人現れた様に見えるだろう。

 改めて化学室の方を向き、深く呼吸して息を止めた。

 僅かな沈黙の後、右前方の式神から声にならない声が轟いた。明らかに攻撃を受けたのだ。だが俺の式神も消滅する瞬間に、その敵に向けて攻撃を放っていた。

 どこのどいつか知らないが、そっちも気が短いようだな。俺も面倒くさい駆け引きなんて好きじゃないんだ。だけど教科書通りの攻め方では芸が無さすぎるぞ!

 攻撃を受けたヒトガタが、壁からはらりと剥がれ落ちた。それが床にたどり着く前に足元の身隠しの護符を取り、別の護符を置き呪文を唱えた。

 ヒトガタの式神は所詮ただの囮である。敵のやる気を確認させてもらっただけだ。それに俺も学校の中で荒事をするつもりはない。廊下を破壊してしまっては言い訳ができないからな。

 今足元に置いた護符は、異世界への招待状だ。相手が俺に攻撃の届く範囲まで踏み込めば、高次元の狭間、魑魅魍魎、百鬼夜行の世界にご招待だ。そこなら俺の力を解放してもこの次元に影響はない。

 さあ、バトルを楽しもうぜ!

 だが、突然殺気が消えた。

 相手方もこんなところで戦うつもりはなかったようだ。折角、バトルの場所を提供してやろうというのに、挑発だけで終了とはこちらとしても肩すかしだ。

 ヒトガタを回収し、部室に向かう。やれやれだ。

 しかし、相手はどんなヤツだったのか。やはり、悪魔と関係があるのだろうか。


 俺達の学校には三つの校舎があり、それぞれ、教室棟、特別教室棟、部室棟と呼ばれている。

 教室棟が一番南に建っており、高校の正門から入るとまずこの校舎に行きあたる。真ん中が特別教室棟で、北が部室棟だ。そしてそれぞれの校舎が中央の渡り廊下で繋がっている。

 教室棟と特別教室棟が四階建てで、部室棟のみ三階建てだ。部室棟という名前は通称だ。部室があるのは建物の東半分なのだが、生徒からはそう呼ばれている。部室の部分だけ中央に廊下が通っており、廊下を挟んで北向きと南向きの部屋が並んでいる。

 探偵部の部室は、部室棟の二階の東端にある。化学室も特別教室棟四階の東端にあるのだが、化学室から部室に向かうには校舎中央の渡り廊下を渡る必要があるため、南を上にして見ると『コ』の字をしたようなルートを辿ることになる。


 その探偵部の部室から騒ぎ声が聞こえてきた。

 部室を一言であらわすなら、殺風景と言っていいだろう。扉を開けると正面にカーテンの無いガラス窓が見える。左手の壁のスチール製の本棚と、右手の壁の奥の事務机とキャスター付きの椅子がこの部屋をあてがわれた時からあった備品だ。

 部屋の中央には、教室で使われなくなった古い机と椅子のセットを四つ向かい合わせで置いている。それらを見つけてきたのは龍胆寺だ。レースのテーブルクロスを敷けとは言わないが、もう少し華やかさがあってもいいと思う。しかし残念ながら、唯一の女子部員にそんな期待はできない。

 窓が北向きということもあり、ドラマで見た警察の取り調べ室の様な薄暗い部室なのだ。

 部室から聞こえた騒ぎの主は当然、野上と龍胆寺。そこでは机を挟んで先ほどの俺に負けない激しいバトルが行われていた。

「確かにここに入れたって! 本当に知らない?」

「知るわけないでしょ!」

「ああ真咲君、証拠品、証拠品がぁ」

 野上が太い眉毛を哀れなほど下げ、情けない声を出して俺に縋り付いてきた。

「ノート持ってる? 持ってない?」

 どうやら、現場に落ちていた証拠品のノートとケーブルが無くなったらしい。

 もちろん俺は知らない。

「化学室に行く前にここに入れたのを見たよな? な?」

 ノートとケーブルは事件のあった日に俺が持ち帰ったのだが、翌朝、野上に渡していた。そして放課後、野上自身が部室の『証拠品ボックス』に嬉々としてしまったのだ。

 証拠品ボックスとは、証拠品を保管するため、わざわざ百円均一ショップで手頃な箱を買ってきて『持ち出し禁止!』のステッカーを張り、側面に大きく『証拠品』と書いた箱だ。

 野上はその箱にノートとケーブルをしまうと、窓際まで進み遠くを見つめながら、

「助手のお二人に課題を与えましょう」などと偉そうに言った。

 ウザい事この上ないが、要は俺と龍胆寺に聞き込みに行けということだった。渋々行ってやったのに戻って来てみれば、コイツは俺が出て行った時と同じポーズで窓の外を見ていた。しかも俺にねぎらいの言葉をかける前に、

「探偵部の部室にはブラインドが必須だと思うのだけど、どうかな?」と阿呆な事を言いやがった。お前はどれだけ窓が好きなのだ。窓に何か因縁があるのかと聞くと、

「窓の傍らで思案する探偵は絵になるでしょう」と重ねて阿呆な事を言う。

 呆れているところに、クラスで聞き込みをしていた龍胆寺も戻ってきたので、三人で化学室に向かったのだ。部室には鍵を掛けていかなかった。

 どれだけ阿呆を重ねるつもりだろうか。犯人はさぞ楽だっただろう。部室で一番目立つ机の上に証拠品が目印付きで置いてあったのだから。

 俺もあんなノートとケーブルを欲しがる奴がいるとは思わなかったので放って置いたが、部室の鍵くらいは掛けて出かけた方が良かったかもしれない。

「やっぱり盗まれたんでしょ。探偵としては、ちょっと迂闊だったんじゃないの?」

 最初に疑いをかけられた龍胆寺が野上を責めた。

「あの箱は、トラップを仕掛ける予定だったんだよ! 第三者があの箱を開けると、その姿を写真に撮るはずだった」

 かなり苦しい言い訳だ。

「これが探偵の振る舞いだというのか! 失望したな」

 俺も化学室でのやりとりの仕返しをささやかにしてやった。

「とにかくこれではっきりしたことがある! 証拠品を盗んだ犯人が昨日の事件を起こしたのだ。捜査の手が伸びたことに焦って危険を冒したんだ。つまり、犯人は追いつめられている!」

 こいつの物事を良いように解釈して強引に進める能力だけは関心する。

「そこまで言うのなら犯人の目星はついているのでしょうね」

 龍胆寺の容赦ない追求が続いた。

「焦ってはいけない。それに君だって容疑者の一人なんだよ」

「なんですって! どういう事よ!」

「まあ、落ち着けよ。野上の話を聞こう」

 野上の肩を持つわけではないが、龍胆寺の機嫌が悪くなると面倒なので助け船を出した。

「容疑者は言い過ぎたけど、つまりお互いアリバイを確認しておこうということだよ。僕は事件発生の時、真咲君と一緒にいた。悲鳴を聞いて化学室の鍵を取りに行っている間は小島君と一緒だった。化学室の前には真咲君が一人残されたと」

「おい。今度は俺が犯人扱いか」

「まあ、聞いてくれよ。化学室には鍵が掛かっていたし、昨日あの場所を通ったのも偶然だ。これは僕が証明できる」

「なんで通ったのよ」

「暇だったので、真咲君に占いをやってもらったんだ」

 式占という陰陽師が行う占いだ。

「そうしたら、南に凶事ありという結果がでたので、部室から見て真南にある教室を一階から見ていけば何か事件にあたるかなと」

「馬鹿な事をしているわね」

「いや大したもんだよ、実際に事件があったわけだから」

「そっちに行くなっていう結果なんでしょう。そんなところに自分達でのこのこ行くのが馬鹿だって言っているの!」

 それを言われると反論の余地もない。野上に煽てられて式占をやってしまったのがそもそもの間違いだった。

「あえて危険に入って行くのが探偵の使命じゃないか。まあ、そんな理由で特別教室棟の四階まで来たら、化学室の方から悲鳴が聞こえたんだよ。それで、鍵を開けて中に入ったのは、僕、真咲君、小島君の三人で、現場検証中に霧君と斉藤先生が駆けつけたと」

「私は昨日、文化部の委員会に出ていたのは知っているわよね? その帰りに斉藤先生に呼び止められて、あなた達が怪しい事をしているって聞いて一緒に化学室に行ったのよ」

 昨日、龍胆寺は部の代表として、文化系部活動の学園祭実行委員会に出席していた。

 実は、この部の正式名称は探偵部ではない。当初は、探偵部の名前で堂々と部活新設の申請をしたのだが、名前が問題となり生徒会に却下された。

 ひどい横暴だ。納得できるものではない。当然、生徒会とバトルになったのだが、俺と野上が戦っている間、龍胆寺は部員が居なくて休部状態だった部があることを調べあげていた。

 そして、その部、郷土史研究部に三人が入部する形で復活させ、実質探偵部として活動しているのだ。敵にすると恐ろしいが、味方にすると頼もしい。この時どさくさに紛れ、部の名前を郷土史探究偵知部に改名し、縮めて探偵部と勝手に名乗っている。

 部の申請の際にこんなにもめたのは、俺の本当の仕事を察知した生徒会長の陰謀である。

「そこは疑っていないよ。事件と証拠品の存在を知っているのはその五人だ。それで今日は、部室に証拠品を置いて出かけてからは三人一緒にいる」

「じゃあ、残りの小島か先生が犯人だな。さすが名探偵。事件解決だ」

「茶化さないでくれ。さっきも言ったけど、証拠品を盗んだのが首吊り事件の犯人だとすると、首吊り事件の犯人ではないと除外できれば、証拠品窃盗犯からも除外できると言える。そう考えると、悲鳴が聞こえた時僕達二人と廊下にいた小島君は化学室の中で犯行を起こすことはできない。斉藤先生が犯人なら、どうやって密室から脱出して職員室に移動したかを解き明かさなくてはならないのだけれど、そもそも斉藤先生が化学室に来たのは僕が先生に鍵を借りたからなので、先生を疑うなら職員室に居た先生全員も疑う必要がある」

 穴だらけの推理だが、黙って聞いてやった。

「だけど今日に関しては、小島君と先生のアリバイがない。本当は事件の本質について僕の推理を披露したかったのだけど、仕方がない。この際、事件関係者のアリバイを先に調べてしまおう。小島君はパソコン部だったね、三人で行こう」

「やっと私の無罪が証明されたわね」

 龍胆寺が微笑みながら言った。機嫌が直ったようだ。

 部活紹介の小冊子によると、パソコン部の部室は部室棟3階1Sとあった。部室棟は、東端を1番として番号が振られている。Sが南側、Nは北側で、生徒ならこれで場所がわかる。つまり、俺達が居る探偵部の部室の廊下を挟んで向かいにある部屋の真上だ。

 今度はしっかり部室に鍵を掛け、ちょっとした細工を扉に施し、パソコン部に向かった。

 パソコン部の部室の扉をノックすると弱々しい声で返答があった。中に入ると、俺達の部室とは異なり、大量の荷物が目に入った。

 部室の左手の壁にスチール製の本棚があるのは同じだが、本で埋め尽くされていた。その隣のキャビネットも、本とパソコンのソフトと思われるパッケージがぎっしり詰まっていた。正面の窓にはカーテンが引かれていて、その上からアニメかゲームのキャラの布製タペストリーが掛けられていた。中央には、脚が折りたためるタイプの長い机とパイプ椅子がいくつか置いてあった。右手の壁にはパソコンデスクが四つ並んでいて、全てに生徒座っていた。

 その中に小島はいなかった。中に入った時には全員がこちらを向いたが、一人を除きすぐにパソコンに向き直ってしまった。

 その人に龍胆寺が、「昨日はどうも」と言うと、相手も挨拶を返した。この人が昨日の委員会に出たのだろう。

 野上が、「小島君に会いに来たのですが」と言うとその人は、「今日は学校を休んでいます」と返した。俺達は顔を見合わせて、「ではいいです」と言って外に出た。

 容疑者その一は、そもそも本日学校に来て居なかったのだ。

 次に向かった職員室にも、容疑者その二である斉藤先生は居なかった。

 他の先生に特別教室の鍵貸出し帳を見せてもらったが、化学室の本日の鍵貸出しは化学部のみで、返却済みとなっていた。昨日は野上の名前で鍵の貸出しがあっただけだ。

「昨日化学室の鍵を借りている怪しいやつがいるぞ。こいつを尋問しよう」

 当の野上にそう言ってやると、龍胆寺も、両手をグーにして胸の前で合わせて、

「きゃー、拷問しようなんてこわーい」とはしゃいでいる。

 野上は黙って鍵貸出し帳を先生に返した。

 そのまま体育館に行くと斉藤先生がバドミントン部の練習を見ていた。部員に聞くと今日は放課後ずっと部活を見ているとのことであった。

 帰りに自分達の教室から向かいの明かりの消えた化学室を見てみた。時刻も昨日と同じくらいであったが、化学室の中は思ったより暗く、よく見えなかった。

 部室から証拠品が消えた謎の解明は、早くも暗礁に乗り上げた。



○龍胆寺霧の観察


 パソコン部の部室、職員室、体育館から最後に自分達の教室、と校内を巡り終わった時にはそろそろ下校しなければいけない時間になっていました。

 調査の結果に二人とも不満が残ったようで、部室に戻るまでの道中ずっと口論をしていました。私としてはその口論を間近で聞けて、とても楽しかったです。

 部室の前まで来ると、二人とも真剣な顔つきになりました。化学室に行っている間に誰かに部室に入られた事を反省して、先ほど部室を出る時に、真咲君が扉におまじないをしたのです。

 私達のクラスでは、真咲君が自己紹介で言った事について論争が続いています。真咲君は本物の陰陽師なのか、なんちゃって陰陽師なのかについてです。

 信じている派、懐疑派が激論を交わしていますが、真咲君自身が面白いという点では意見が一致しています。

 ちなみに野上君は信じている派です。なぜそう思うのかと聞くと、

「家業なんだろ? 伝統を受け継ぐのも大変だよな。修行すれば狐も操れるそうだ。狐は何を取ってくるのかな? できるようになったら見せてもらおうぜ」と言っていました。

 狐とは憑き物の一種である管狐の事だと思うのですが、野上君は鵜飼の鵜と同じように考えているようでした。

「探偵は全ての事を疑ってかかる損な性格だ」なんて言っていますが、信用した人の言葉は無条件で信じてしまうのが野上君らしくて素敵だと思います。

 扉を調べ終わった真咲君の、「結界は壊れていない。誰も入っていないようだ」という言葉を受けて、「ほう。それは良かった。それにしても、その呪文はすごいな! 今度教えてよ」と素直に驚いている野上君を見ると、単に天然なだけなのかなとも思ってしまいます。

「馬鹿な事を言うな。素人が簡単にできるようなものではない」と素っ気なく返した真咲君でしたが、顔は満更でもない様子でした。やっぱり二人は良いコンビなのです。


「手がかりはまるで無しだな」

 目をつぶり、本棚に向かって腕を組んでいた真咲君が、呟くように言いました。

「そうでもないさ。昨日現場にいた人物の中に犯人はいない。想定通りだよ」

 窓の外を眺めながら、野上君が満足そうに言いました。

 二人とも向き合って話せばいいのに、部室に入るなり二人で別の方向を向いて、独り言の様に話すのです。

 面白そうなので私も扉の方を向いて、これからどうするのかと尋ねてみました。大声で独り言を言っているようで、とても恥ずかしかったです。

「昨日は、真咲君がすぐに帰ってしまったからほとんど話ができなかった。今日も化学部が非協力的だったし、霧君が話をおかしな方に持っていくので時間を取られてしまった。そろそろ学校から出ないといけない時間だけど、ここで事件を整理してみようと思う」

 疑われたから違うって言っただけなのに、おかしな方ってひどいです。

「事件の本質を解き明かせば、全ての謎は解けるのです。なぜ犯人は化学室で首吊りを行ったかという事。つまり動機です!」

 野上君はどうしても殺人事件にしたいようでした。私としては、事件より野上君の言動に興味があります。そのため、異議は唱えず話を続けてもらうつもりでしたが、その前に窓の外を見ている野上君と本棚の前で腕を組んでいる真咲君を椅子に座らせました。このままだと笑ってしまって会話になりません。

「さあどうぞ」と促すと、野上君がコホンとわざとらしく咳払いをしてから、気取った口調で話し始めました。

「まず検討すべきは、殺人が目的なのか、それとも何かの目的のために殺人を行ったかです。殺人が目的であれば、犯人が被害者に恨みを抱いていたとか、被害者に知られた秘密を隠すために殺したとか、だれでもいいから人を殺してみたかったというのが一般的な動機でしょう」

「なるほどね。目的のための殺人というのは?」

「例えば、別の事件から目を反らすためとか、逆に殺人が行われた場所に注目を集めるためとかでしょうな」

「どう違うの?」

「分かった。前者は、例えば生徒会が化学室で事件を起こし校内の目を集めて、別の事件から目を逸らすとか、後者は、過去に生徒会が化学室で起こした凶悪な事件を告発するために、誰かが今回の事件を起こして化学室を詳しく調査させようとしたとかだな」

 相変わらず真咲君が生徒会を嫌いなことが、よく分かりました。

「まあそんなところですよ。目的のための殺人なら、なぜ化学室なのか。これを解明すれば自ずと犯人の動機も判明するでしょう」

「たまたま、っていうことはないよね? 正規の方法で鍵を借りずに忍び込んだんだし。そうなると薬品が目当てなのかな?」

「悪くない考えですよ。だけど、死因が薬物なら化学室は打って付けだけど、死因は首吊りです。化学室で首を吊る必要が犯人にはあったのです」

「やっぱり、首吊りはあったと考えるのが普通なんでしょうね?」

 私は昨日この学校に、首吊り死体があったとはどうしても考えられませんでした。しかし、それを指摘すると、化学室での真咲君の様になりそうなので、野上君を刺激しないように注意深く聞きました。

「下の人が不安定だったので、数秒しか見ることができなかったけど、天井からぶら下がった体はとても生きている人間の様には見えなかった。あれは確実に死体でした。これは間違いない事実ですよ!」

 数秒かよ! と心の中でツッコミを入れましたが、口には出しません。きっと数秒どころか一瞬だったのに違いありません。

「じゃあ、首吊り死体があったとして」

「あったとしてぇぇぇ!?」

 逆にツッコミを入れられてしまいました。すみません。許してください。野上君から追い詰められるような強い圧を感じたので、慌てて訂正しました。

「ええっええと。ありました。首吊り死体がありました。ありました。あー、えー……。誰が首を吊っていたのよ!?」

 答えに困って逆切れしてみたところ、野上君はびっくりしてそれ以上の追及をやめてくれました。意外と使えますね、逆切れ。困ったらまた、使わせてもらいましょう。

 真咲君は、下の人が云々と言われたときは左手をこめかみにあてて右手を大げさにひらひらさせていましたが、それ以外は化学室で懲りたのか黙って聞いているだけでした。

 でも、私が逆切れした時だけはちょっと嬉しそうでした。

「う、うん。誰が被害者かについては、判断材料が少ないので回答を保留しておきます」

「……」

「あっ! 分かっていても証拠が揃うまで言わないのは、『探偵あるある』なんですよ。自分の中では九割方解決しているんで、あとちょっとの証拠が出ればすぐに完全解決できますよ」

「それならいいけど。でも、殺人じゃなくて自殺ということはないの?」

 一瞬、痛いところを突かれた、という顔をしたのを見逃しませんよ。

「その可能性は否定しませんが、鍵を開けて中に入った時には誰も居ない密室だったのだから、なぜ化学室でという謎と、誰がどうやって死体を消して自分も脱出したかという謎は残ります。いずれにせよ、僕らに見つかったのは想定外だったのでしょう。その証拠に慌てていたのか現場にノートと血痕とケーブルという証拠を残しています。そして、そのノートとケーブルは犯人にとってよほど大切なものなのでしょう。そうでなければ探偵の巣窟であるこの部屋に忍び込むなんて考えられない!」

「おい! まさか俺を巣穴の一員に勘定してないだろうな」

 ずっと黙っていた真咲君が発言したと思ったらそれでした。そこに怒るんだ。

 とにかく、解説してもらって申し訳ないけど、やっぱり私には殺人事件があったとは思えませんでした。でも、ノートを盗んだ人がいるなら、昨日の騒ぎを起こしたのと同じ人なのかなと漠然と思いました。

「いいですか。なぜ化学室だったのか、なぜ昨日のあの時間だったのか、なぜ薬殺ではなく首吊りだったのか、これらの謎が解ければ、犯人も犠牲者も判明する筈です。頑張って推理してください。不明な点があればいつでも相談にのりますよ」

 そう言うと立ち上がり、また窓の側に行ってしまいました。なんでそんなに窓が好きなのでしょうか。なにか面白い物が見えるのでしょか。窓の外は職員用の駐車場で、その先は森になっており、木々の隙間から大学の施設が見えるだけです。面白い物があるとは思えません。

「とまあ、ここまで一般的な推理の手順を解説してきましたが、僕は犯人の目的について、ひとつの確信を得ています」

「先にそれを言ってよ!」

 一応抗議してみましたが、本当に抗議したいとは思っていません。その方が面白くなりそうだったからです。

「探偵の道は厳しいのです。山に登るのに、いきなりロープウェイで頂上に到達してもつまらないでしょう」

 そもそも、そんな道を歩んでいるつもりはないですけどね。でも話は面白くなってきました。

「化学室である必要があったのです! 首吊りである必要があったのです! つまり!」

 そう言って振り向き、机に戻って両手で机を叩きながらこう言いました。

「見立て殺人です!」

「はあ?」

 私と真咲君、同時に声を出してしまいました。

「横溝正史の『八つ墓村』、アガサクリスティの『ABC殺人事件』、わかりますか?」

「『八つ墓村』はスケキヨが逆さになるやつだろう? 映画で見たよ」

「おやおや、映画で見ただけ? それでも探偵部の部員ですか? 偉大な探偵の助手ですか! まったく情けない。言いたいことはたくさんありますが、今日はいいです。後で読むべき名作リストを作りますので全部読んでくださいよ」

 スケキヨは『犬神家の一族』だと思うのですが、勢いにのまれ言いだせませんでした。そこをスルーするなんて、もしかして、野上君こそそんなに読み込んでいないのでは?

「いいですか! 密室の! 化学室で! 首吊りがあって! 一瞬の間に犯人と死体が消え、後に血痕と意味ありげなものが残された! いいですか、いいですか! これ、リーチ一発ツモドラドラハクハツチュンで役満でしょう!」

「野上、お前麻雀知らないだろ」

 真咲君が冷静にツッコミをいれましたが、野上君は無視して続けました。

「これね。たぶんシロートじゃ無理だね。一般人じゃ無理でしょ!? 突いちゃったよね。カ・ク・シ・ン! 確信ついちゃったでしょ! コレ! もう一度言いますよ、み・た・て・さ・つ・じ・ん! はい! コレ! 見立て殺人です!」

 長い沈黙の後、真咲君がうんざりしたように、「そうだな」と同意しました。私は笑いを堪えるのに精一杯で、なにもしゃべる事ができませんでした。

「分かりますか? 童謡の歌詞の通りに殺人が起こるとか、言い伝えの通りに人が殺されていくといった殺人事件の事です。読むべき本のリストに入れておくので詳しくはそちらを読んでください」

「じゃあ、今回は何を何に見立てているんだ?」

「さあ?」

 野上君はとても無邪気な顔をして言いました。

 私は、野上君のその顔と真咲君のげんなりした顔のギャップに堪えきれず、ついに口に出して笑ってしまいました。私の笑いが収まるまで会話が中断してしまったおかげで、見立て殺人についてはうやむやになってしまいました。もう少し聞きたかったのに残念でした。

「余計な事はもういい。結局犯人は誰なんだ? この部室に来たって事は、俺達の事を知っているんだろ。今のところ一方的にやられているが、それでいいのか?」

 ほとんどしゃべらなかった真咲君が挑発するように言いました。

「もちろん、野上君はこれからどうするか考えているよね?」

 私もそれに乗って期待を込めた目で見つめて言いました。

 いつも彼はプレッシャーを掛ければ掛けるほど面白い事をやってくれるのです。

「先手を取られてしまったのは認めるけどねえ」

 私はちょっと困っている野上君にさらに期待の視線を送り、所々に散りばめたネガティブキーワードを強調して言いました。

「そうかぁ、じゃあ、もう仕方ないよね。残念だけど、こうしていても無駄だよね」

「待ってよ」

「あーあ、もう今日は諦めて帰ろうか」

「待て、待てーい。探偵に諦めの文字は無いのだ! そうだ、こちらから仕掛けよう。犯人をあぶり出す!」

「なになに? どうするの?」

「犯人に宣戦布告してやるのさ」

 そう言うと、スマートフォンを取り出し操作しだしました。

「この事件は公になっていない。そこで、晴高ネットに関係者しかわからないメッセージを載せる。犯人からなにか反応があるかもしれない」

 晴高ネットとは、私達の通う高校、晴彗学園大学付属高等学校の生徒向けネットワークコミュニケーションサービスの事です。学校内のパソコンからブログ、掲示板、スケジュール帳などの機能を使う事ができます。グループ登録すれば、そのグループ内で情報を共有することもできるのでクラスや部活単位で使っているところもあります。化学部のスケジュール帳もこの機能をつかっています。ログインすれば携帯電話やスマートフォンでも利用することができます。全校生徒向け掲示板もありますが、書き込みをすると学年クラス名前が表示されてしまうので、生徒が個人的な書き込みをすることはあまりありません。主に生徒会からのお知らせ、部員募集、練習試合の応援募集などに使われています。

「書き込む場所は、『全校生徒向け掲示板』でいいな。内容は、そうだな…」

「お前にしては良いアイディアだな。こんなのはどうだ。『ノートを盗んだ犯人につぐ。部室での行動は全てカメラで撮影されている。お前はもう終わりだ。慈悲を請いたければ今すぐ出頭しろ』」

 野上君のスマートフォンを覗き込みながら真咲君が言いました。

「それでは最後通牒だよ。今は犯人を追いつめない方がいい。まずはコンタクトを取る事を考えよう」

「『6/7の放課後に探偵部の部室に来た人。落し物を預かっています。返信ください。』と、これでどうだ」

 メッセージを紙に書きながら言いました。

「もう少し犯人にしか分からないメッセージを入れたら? ノートには何が書いてあったの?」

「ノートには、悪魔の言葉が書いてあった」

 真咲君が教えてくれました。

「ついでに目撃者も探したら?」

「悪魔だな。あくま……よし良い事を考えた。目撃者捜しも付け加えよう。そうするとタイトルも分かりやすい方がいいな」

 野上君がスマートフォンを操作して掲示板に新しいメッセージを入力していきました。

【タイトル:[至急]6/7部室棟2階1N落し物[重要]】

【本文:6/7の放課後に探偵部の部室(部室棟2階1N)に来た人。落し物を預かっています。返信ください。あくまでも、あくまでも、秘密は厳守します。また、この時間に部室を訪れた人を見たという人も連絡ください。】

「これでどうだ」

「『あくまでも』の部分がわざとらしいし、堂々と探偵部と書いてあるのが気になるが、まあ、こんなもんだろ」

「いいと思うよ」

「よし、送信、と」

 生徒にはあまり利用されていない掲示板なので見てもらえるか心配でしたが、返事を期待してその日は下校しました。


 翌日は、野上君が休み時間ごとにメッセージを書き込んだ掲示板をチェックしていましたが、放課後になっても返信はありませんでした。捜査会議の名目で放課後は部室に集合するように言われましたが、私はその前に陽子ちゃんから相談を受けていたので、後から行く事にさせてもらいました。

 見澤陽子ちゃんは『野上君と芦屋君を見守る会』のメンバーで、私に負けないくらい二人の言葉や振る舞いに興味をもっています。私も探偵部に誘ったのですが、美術部と生徒会の書記をやっているためこれ以上掛け持ちはできない、と残念そうに断られてしまいました。そのため、部活中にあった面白エピソードを教えるととても喜んでくれます。

 ただ、二人の関係をボーイズなラブに結び付けたがるのが困ったところです。

 私の教えた事を曲解した上に妄想を大量に加えた恋物語に仕立て上げてくれるのですが、その方面に興味がない私にはちょっとついて行けません。薄い本を作りたいと言っていたので、それは何かと尋ねると、二人がいちゃいちゃする同人誌だそうです。さすがにそれは全力で止めるつもりです。

 『見守る会』のメンバーは他に数人いますが、残念な事に全員陽子ちゃんと同じ意図で二人の事をみています。私にはそっちの興味は無いと説明しているのですが、だったら二人のどちらかを狙っているのかと邪推されてしまいます。

 私の目的はあくまで二人の観察なのです。一人でもとても魅力的なのですが、二人のコンビは最強です。そこには、二人の個性が合算された以上の魅力が発生するのです。足し算の効果ではなく、掛け算の効果なのです。

 そんな事を陽子ちゃんに熱く語ったところ、

「分かるよ! カケルだよね! 霧ちゃんは、野上君×芦屋君? それとも芦屋君×野上君?」

 そう返されました。全然分かっていません。今は説明を諦め、適当に誤魔化していますが、いつか共感してくれる人が出てくる事を期待しています。

 話が逸れましたが、陽子ちゃんの相談の内容というのは、昼休みに『目安箱』に届いた生徒からのメッセージになんて回答すればいいか、という事でした。

 『目安箱』とは、晴高ネットの生徒会のページにある、生徒が生徒会への要望を自由に書き込める掲示板です。それに回答するのが陽子ちゃんの仕事となっているそうです。

 何代か前の生徒会が設置したものだそうで、今ではあまり活用されていないようです。投稿されたとしてもまじめな意見ばかりで、ほとんどが定型文の回答で済んでいたそうです。

「ただの、いたずらだと思うんだけど、どう返信していいかアドバイスを貰えない?」

 そう頼まれたのですが、続けて、

「それに朝から二人がこそこそしていてすごく怪しい。なにか知っているでしょう? 教えてよ~」とお願いされました。

 きっと本題は後者なのでしょう。大切なお友達なので、私にできることなら喜んでお手伝いさせていただきます。


 陽子ちゃんと部室棟三階の西端にある、生徒会室に向かって歩く間、ここ数日の出来事を根ほり葉ほり聞かれました。一応(もしかしたら本当に!)事件なので、できるだけぼかして話しましたが、陽子ちゃんは事件には興味がないようで、質問されたのは二人の事だけでした。

 生徒会室には、会長の安倍さんがいらっしゃいました。会長さんは、五月の選挙で生徒会長に当選した普通科の二年生です。銀フレームの眼鏡をかけ、ビシッとした髪型をした、神経質そうな人です。

 生徒会とは、四月に探偵部設立の件でちょっとしたいざこざがありました。五月に選挙があり今は代替わりしたのですが、会長さんは前の代から会計をやっていたため、その時からずっと真咲君に目を付けられている可哀そうな方です。

 野上君は、申請した名前が使えないなら部活にしなくてもいいと言ったのですが、真咲君が部活にこだわったため、私が屁理屈を考えて部活の申請を通してもらいました。真咲君は変わった活動をする部活に入るのが夢だったそうです。

 しかしこの件で、真咲君は生徒会が大嫌いになってしまいました。元々真咲君は、なぜか生徒会に不信感を持っていて、そんな事はないよと私が否定しても、

「俺は日本の学校生活の経験が乏しい。だが、だからこそ言えることがある。聞いてくれ、数ある文献や映像資料の中で常に陰謀の中心にいる存在、それが生徒会だ」と言って譲りません。

 野上君は、「イギリスで変な本を読んだのだろう。ずっとイギリスに居たんだ、仕方ない」と気にしていません。ある時、私がしつこく聞いたら渋々別の理由を教えてくれました。

「会長の名前が気に入らない」

 どうやら会長さんの苗字が、真咲君の先祖のライバルと同じだからだそうです。自分の名前が『安倍』でなくて良かったと思いました。

 陽子ちゃんの後に続いて私が生徒会室に入ると、会長さんは怯えたような表情をしました。ごめんなさい~。今日は私一人ですよ。安心してくださいね~。と目で訴えかけましたが、すぐに視線を外されてしまったので、私の想いはあまり伝わらなかったようです。

「ちょっとまっててね」

 陽子ちゃんは生徒会室の隅にあるパソコンデスクに向かい、電源を入れました。

 パソコンが立ち上がるのを待つ間、陽子ちゃんは会長さんの方を振り向き、

「会長、この時間に来ているなんて珍しいね」と尋ねました。

「先生に資料の整理を頼まれてね。今日は部活を休んできたよ」

「大変だね。こっちが終わったら手伝うよ」

「大丈夫、そんなに時間はかからないと思うから。今日はホームページの更新?」

「会長はいないと思ったので、『目安箱』に来ていた変な投稿の返事を一緒に考えてもらおうと思って霧ちゃんに来てもらっちゃった」

 私は軽く会長さんに会釈をしました。

「真面目だねえ。何代か前の会長が公約として作ったようだけど、引き継ぐ身にもなって欲しいよね。どうせ誰もみてないし、適当でいいから」

 右手で眼鏡のつるを気難しそうに持ち上げながら言いました。

「そうかもね~。念のため会長もちょっと見てよ」

 陽子ちゃんはブラウザを立ち上げると、『目安箱』というウェブページを表示させました。

 ページ上部にある投稿フォームにメッセージを入力し、投稿ボタンを押すと、新規投稿がその下に追加されていく仕組みです。投稿したメッセージは全校生徒に公開されます。

「これなんだけど」

 陽子ちゃんが指差した所を会長さんと一緒に覗き込むと、そこにはこんなメッセージが書き込まれていました。


【全校生徒に告ぐ。晴高にラプラスの悪魔が復活した】

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