ある日突然、ゆったりとしたおおきな流れのなかに取りこまれた女性の成長譚です。
社会人生活から一転、自然にかこまれた古民家で十歳の少女になって目ざめたヒロインの寧さんが、大人や子ども、妖怪たちと個性ゆたかでひと癖のふた癖もある人々かこまれて、なくした過去を取りもどしながら、土地を見まもる存在である「あまね」として成長していく姿が、やわらかな筆致でえがかれていました。
いいことばかりではなく、いやなことやつらいこと、腹だたしいことにも、寧さんは数おおく遭遇しますが、物語を読みおえたときにはきっと、すずやかな山の風をかんじられるはずです。
とにかく雰囲気がいい物語です。若返って小学生になった主人公が、おばばや妖怪とともに、のどかに暮らしていく物語。ですが、それだけの物語ではないのです。主人公を取り巻く環境、学校で起こるいくつもの出来事、魅力的なキャラクターたちが生み出すドラマ、と書ききれないくらい魅力が詰まった傑作長編です。
落ち着いているけどとても読みやすい語り口、キャラクターの多彩さ、風景描写のきれいさ、そのすべてが相まってとてもいい雰囲気を作り上げています。
あくまで日常生活をベースにしているところが親近感を抱かせ、出てくる料理の数々がまた楽しく、長編でも飽きるところがありません。気が付くと物語の一年があっという間に過ぎていた、とキャラクターとともに感じることでしょう。