4:執行者Ⅲ

 授業が終わると、もちろん元凶、もとい庵藤に問い正した。





「どうしてあんなことしたの?」





 腕を組み、席に座る庵藤の前に立つ。





「いや暇だったし」


「暇だったじゃない! おかげですごく恥ずかしかったんだから!」


「ていうか、普通引っ掛からないから」





 思い出したのか、また笑いだした。





「う、うるさい! まず謝れ!」


「サキリン? 大声出してどうしたんだ?」





 私が大声をあげていたからなのか。狭山が尋ねてきた。真顔で訊いているし、どうやら本当に知らないようだ。さっきの時間、寝ていたのかもしれない。けどだからといって、教えるはずもない。





「別に。何でもない」


「いやさっきの時間のことなんだが……」


「ちょっと……」





 庵藤を制止することも叶わず、狭山にも知られることになってしまった。こいつも馬鹿にするのかと思いきや、顔をうつ向かせ、親指を立てた右手をまっすぐ私に示した。わけが分からない。





「……!?」





 狭山が顔をあげると、ぶわっと涙を流していた。ますますわけが分からないんだけど。





「さすがサキリン。たまに見せるそのおっちょこちょいが可愛い」


「……!?」


「くそ~、ちゃんと起きとけば良かった。あわよくばビデオカメラにでもその光景を……っ!?」





 普通の反応よりたちが悪かった。とりあえず脛すねめがけて、蹴っ飛ばすことにした。











「う~」


「よしよし、紗希は可愛いね」


「……むぅ」





 机にもたれかかっていると、加奈が前から頭を撫でながらそんなことを言う。今はそう言われても、褒められてる気がしない。





「馬鹿にしてる?」


「別に馬鹿になんかしてないけど。純粋に可愛いと思ってる。それは置いといて、今回は寝惚けてた紗希も少し悪かったわね」





 確かにその通りだ。ちゃんと判断できていれば、こんなことも起きなかったかもしれない。





「まぁもちろん、庵藤が九十九%悪いんだけど」





 そう言って、加奈は隣の庵藤を見据えた。習って私も視線を移す。





「親切に教えてやったんだが?」


「嘘だったでしょ。これ以上やるなら私も黙ってないけど?」





 気のせいか、加奈が怒っているように思える。庵藤も多少驚いてしまったみたいだ。





「あ、えと……加奈?」


「紗希~。さっき寝ちゃったよ~。あとでノート写させて~」





 前の席のはずの優子が、後ろから抱きついてきた。場の雰囲気を読んでほしいのだけど。





「分かった分かった。もう少し自重してやるよ」





 わ、加奈が庵藤を言いくるめた。こんな光景は初めて見たと思う。





「紗希聞いてる~?」


「え、あ、ゴメン。ノートだよね。あとで貸したげる」


「やた~」





 はしゃぐように喜ぶ優子は、子供みたいだった。後ろの優子に気が向いていると、加奈に呼ばれる。何だろうと前に向き直す。





「な、何?」





 途端に、鼻先をぐいっと人指し指で向けられる。





「紗希も、ちゃんとしっかりしてないとね」





 呆れたように加奈が忠告をする。





「あ……うん」





 私はただ返事するだけになってしまった。





「よし」





 けど、にっこり笑う加奈は、お姉さんみたいで頼もしかった。














 放課後になる。特にこれといって変わり映えたことはなかった。優子は部活へ向かい、加奈も今日も残らなきゃいけないみたいだった。





「う~ん……」





 何だか寂しいようなそんな気がする。やっぱり一人より二人、二人より三人である。そういえば、最近は三人で遊びに行っていないし。今度の休日に誘ってみようかと考える。





 その時だった。私は家に向かって真っ直ぐに歩いていた。その帰路の途中、私の前に予想だにしない人物が現れた。





「……!?」


「神崎紗希だな」





 無愛想気味なのは、白い銃を持つあの男だ。恐竜のような怪物に襲われていた時に助けてくれた。けど、リアちゃんにもギルにも強い敵意を見せていて、ギルは殺すべき存在だと言った男。私はそうは思っていないだけに、この人を信用していいのか分からなかった。結果的に助けてくれたのは間違いないが、敵味方の区別がいまいちつけれなかった。





「話がある」





 男はそう言った。あまりに突然の出来事。だけど……。この人は私の知らないことを知っている。


出来るだけ平静を装い、話だけでも聴こうと私は思った。黙って私はコクッとうなづく。





「でもその前に、貴方の素性を教えて」





 何の反応もなく、男はただ黙って私を見ていた。だがそれもすぐのことで、ゆっくりと口を開く。





「俺は、執行者と呼ばれている」

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