２１世紀に目覚めました

最終話 恵子と麻美 元の世界へ？

十時頃。

「麻美ちゃん、考えたんだけどあたし達、ずっとここにいていいのかなって。晴和お兄さんや由希江お姉さんにも迷惑がかかるし」

「そうだよね、アタシも元の世界のことも気になるし」

　恵子と麻美は晴和のお部屋でテレビゲームをしながらこんなことを話し合っていた。

「元の世界に戻りたくは無いけど、あっちの世界があれからどうなってるんか気がかりや。でもノートから物が取り出せるんだから、元の世界にも戻れるんじゃないかって思ったけど、戻れんかったからね」

「確かにアタシ自身が入り込めてもおかしくないよね」

　麻美は例のノートを手に取り、自分がいたページをじーっと眺める。

「あたしこの間乗っかってみたけど、入れんかったよ」

「恵子お姉ちゃん、逆転の発想だよ。乗っかるんじゃ無くて、頭から入ってみれば行けるかも」

「そっか、麻美ちゃん天才やっ！」

　恵子もノートに手に取り、自分のいたページを開いて頭に被せてみた。

　すると、

「おう、入れた」

　恵子の顔だけがノートに埋まった。手をパッと離すと重力に従うようにさらに体がどんどん埋まっていき、終には完全に姿が見えなくなった。

「恵子お姉ちゃん、大成功だね。アタシもあとでやってみようっと」

　それから約三分後、

「あれぇ？　まだ戻ってこないや。どうしたんだろう？」

　不思議に思った麻美は、恵子のノートを手に取り恵子が入ったページを下にしたままバサバサ振ってみた。

　そしたら、

「うわっ！　ぎゃんっ！」

　恵子がノートから落ちて来た。床にビターンと顔面を打ち付ける。

「いたたたぁ。どうやらあたし、完全に絵に戻ってたみたい。ノートに完全に隠れてからの記憶が全くないし。自力じゃ戻れないみたいや」

「そうなの？　じゃアタシも絵に戻っちゃうのかな？」

「きっとそうやろう」

「じゃぁ戻りたくないな。なんか怖い」

「けどいつもお世話になるのは悪いから、晴和お兄さん達が学校行ってる時くらい絵に戻って過ごそう」

「そうだねぇ、その時は晴和お兄ちゃん達に出してもらおう。男には男の、女には女のふるさとがあるし、アタシと恵子お姉ちゃんにとって、ノートもふるさとだもんね」

　恵子と麻美はお勉強もしつつテレビゲームやマンガやインターネットを楽しんだのち、正午頃に由希江が用意してくれたお昼ご飯を食べるためキッチンへ。

　高菜チャーハンが二皿並べられていた。レンジでチンしてリビングに運び、四十八インチの大画面液晶テレビでバラエティ番組を見ながら食べている最中、

「恵子お姉ちゃん、晴和お兄ちゃんや由希江お姉ちゃんにお世話になったお礼に、アタシ達が晩ご飯作ろうよ」

「それはグッドアイディアやね。きっと喜んでくれるよ」

　こんなことを思いつく。

　二人は午後からも引き続き午前と同じようにして過ごし、午後三時半頃。由希江が用意してくれたおやつのプリンを食べ終えると、お目当ての料理に必要な材料を探し始めた。

「これだけあれば作れるね。よぉーし、やるぞぅっ！」

「あたしも気合入って来たよ。麻美ちゃん、こねるの、あたしも手伝おうか？」

「大丈夫、アタシ一人で出来るもん♪　世界ジュニア小麦粉こねこね選手権優勝のアタシの実力見せてあげるよ」

　麻美は自信満々に言い、戸棚から出した小麦粉、さらに砂糖と冷蔵庫から出した卵とバターをボールに移し、ヘラで混ぜたのち手でこね始める。

「麻美ちゃんめっちゃ手際いいねぇ。あたしはいなり寿司作ろうかな？　それともカレーにしようかな？　……カレー作ろうっと」

　恵子は冷蔵庫から玉ねぎとニンジンとじゃがいも取り出した。きちんと洗ってからまな板に置いて、包丁を手に持ちザクザク切り始める。

その最中に、

「ただいま。なんかいい匂いがするなぁ」

　晴和が帰宅した。キッチンの方へと向かっていく。

「おかえりーっ、晴和お兄ちゃん」

「晴和お兄さん、おかえりなさい」

「二人とも、お料理してたのか」

「うん、アタシ料理得意だよ。いつもクッ○ングパパのレシピで練習してるから」

「あたしもけっこう得意や」

「そっか。それは期待出来そうだ」

「晴和お兄ちゃん、アタシは今、何を作ってるんでしょーか？」

　麻美は楽しそうに問いかけると、

「テッテレテレテレテッテレテレテレテッテレテレテレテー、テッテレテレテレテッテレテレテレテッテレテッテレテー、ジャンジャン♪」

　こんなメロディーを口ずさみ始めた。

「これ、カルメンの闘牛士の歌？」

「うん！　正解だけど、晴和お兄ちゃんに今訊いてるのはお料理の方だよ。アタシ達、何を作ってると思う？」

「うーん、パンかな？」

　晴和は自信無さそうに答える。

「ブッブー。正解は、クッキーだよ」

「そっか。作り方最初は同じだから迷ったよ。俺も手を洗ったら夕飯作り手伝うね。お米はまだ炊いてないよね？」

「晴和お兄さん、あたしがお米炊こうか？」

「頼んだよ」

「えっと、お米は？」

「コンロ下の棚にあるよ」

「そっか」

　恵子はそこの扉を開け、中からお米が入ったバケツ型の透明容器を取り出す。

「これ、無洗米だから、洗わなくても大丈夫だよ」

「そうなんだ。二十一世紀ではお米を洗わなくてもいいようになってるんやね」

　晴和から伝えられ、恵子は感心していた。

　恵子は計量カップで六合を量り炊飯器の内釜に移し、水を六合の位置まで入れて炊飯器にセット。このあと三人いっしょにクッキーの型を抜いていく。

　その最中に玄関チャイムが鳴り、

「こんばんはー晴和くん、恵子ちゃん、麻美ちゃん。今夜はおば様がいないので、夕飯作り手伝いに来たよ。わぁー、すごくいい匂い」

　実果帆も訪れて来た。彼女もいっしょにクッキーの型抜きを楽しんだのち、

「お野菜、けっこういびつだね」

　まな板に載せられた、切りかけの野菜に目が留まった。

「細かく切るのは無理やってん。じゃがいもは皮ついたままやろ」

　恵子はてへっと笑う。

「それじゃ、あとは私がやるね。天ぷらも作るよ」

「俺も手伝うよ」

「ありがとう晴和くん」

　冷蔵庫からさらにレンコンやなすび、さつまいもなどを取り出し、晴和と実果帆は並んでいっしょに野菜切り作業。

「晴和お兄さんと実果帆お姉さん、こうして見ると、新婚夫婦みたいやねー」

　恵子はその様子を微笑ましく眺める。

「こらこら、恵子ちゃん」

　晴和は苦笑い、

「恵子ちゃん、恥ずかしいよ」

　実果帆は照れ笑いした。

「いったぁ。よそ見した隙に指切れた」

「大丈夫？　晴和くん」

「大丈夫、大丈夫」

「ちょっとだけ血が出てるよ。バンドエイド巻いて上げるね」

「ありがとう実果帆ちゃん」

「お二人さん、頑張ってね」

　恵子は温かくエールを送る。

「晴和お兄ちゃんちって、たこ焼き器もあるんだね。アタシ、たこ焼き作りたーい」

　麻美は食器類が入っている下側の戸棚扉を開けた。

「いいけど、肝心のタコは無いよ」

　晴和は冷蔵庫を確認しに行って伝える。

「えー」

　麻美は不満そうにタコのごとく唇を尖らせた。

「私が買ってこようか？」

「いや、それは悪いよ。そうだ、姉ちゃんに頼もう」

　晴和は由希江の携帯に連絡し、帰りにタコを買って欲しいとの旨を伝えた。

「緊急時にいつでも連絡が取れるってのは、二十一世紀の文明の利器の賜物やね」

　恵子は感心しながら、星型やハート型、動物型などに抜かれたクッキーをクッキングシートに並べていく。

　実果帆がレンコンなどを揚げている最中、

「実果帆お姉ちゃん、これも天ぷらにしたら美味しいよ」

　麻美は横から何かを放り込んだ。

「麻美ちゃん、これは何かな？」

　実果帆はにこやかな表情で質問する。

　衣がたっぷり付けられ、細い棒のような形をしていた。

「鉛筆だよ。えんぴつの天ぷらになるよ」

　麻美は得意顔で伝える。

「麻美ちゃん、鉛筆を粗末にしたらダメだよー」

　実果帆は菜箸でそれを掴み、にこっと微笑みかける。

「うん」

　麻美はそう答え、くるりと回ってリビングへ戻っていこうとした。

　しかし、

「待って麻美ちゃん」

　実果帆に肩をガシッと掴まれ阻止されてしまった。

「なぁに？　実果帆お姉ちゃん」

　麻美の表情はやや引き攣る。

「悪いことしたから、お仕置き♪」

　実果帆は麻美をサッと抱え上げた。

　そしてお尻をむき出しにして、ペチーッンと一発叩いたのだ。

「ごめんなさーい」

　麻美は涙目に。すっかり反省したようである。

「麻美ちゃんへのお尻攻撃は、本当に効くねぇ」

　恵子はにっこり微笑む。

　それから三〇分ほどして、

「ただいまー。タコさん買って帰ったよー」

　由希江が帰ってくる。彼女もいっしょに夕食作りを手伝い始めた。

「ぐちゃぐちゃになっちゃった。ひっくり返すの、思った以上に難しいわね」

「由希江お姉さん、大阪生まれ設定のあたしに任せてや」

「恵子お姉ちゃん、すごーい！　まっつぁんみたーい。アタシだって負けないよ」

　由希江、恵子、麻美の三人がたこ焼き作りに励んでいる最中、晴和と実果帆は他に出来上がったメニューをお皿によそっていく。

　みんなで協力して六時半頃に全て完成。

カレーライス、クッキー、天ぷら、たこ焼きがキッチンテーブルに並べられ、五人での夕食の団欒が始まった。

「恵子ちゃんと麻美ちゃん、明日は何が食べたい？」

　由希江はたこ焼きを頬張りながら、向かいに座る二人に問いかける。

「あの、由希江お姉さん達に伝えたいことがあるんだ。あたしと麻美ちゃん、元の世界にも戻れることが分かってん。せやからあたしと麻美ちゃん、これからはなるべく絵に戻って過ごすことにするよ。ずっとおったらご迷惑やろうから」

「アタシ達がずっといると、家計に響くもんね」

「それはべつに、気にしなくてもいいんだけど。元の絵に戻っちゃうと、自力では出られないってことになるのかな？」

「そうなんよ由希江お姉さん。だから、あのノートのあたしがおるページ開いてひっくり返して出してな。その時はなるべく柔らかいベッドの上がいいわ。顔から落ちるから」

「アタシもそのやり方でやってね」

「分かった。気をつけて出すわ」

「私、麻美ちゃんが絵に戻っちゃってもすぐにまた出しそう」

　実果帆は少し寂しそうにする。

その時、予期せぬ出来事が。

「ただいまー」

　玄関から母の声が聞こえて来たのだ。

「えっ！　もっ、もう帰って来たのか？」

「ということは、私のお母さんも帰って来てるね」

「予定よりずいぶん早いわね。麻美ちゃん、恵子ちゃん、早くカーテンに隠れて」

「うん」

「分かった」

　麻美と恵子は小声で返事し、すぐさま焦り気味な由希江の命令に従う。

　それから約五秒後に、母はキッチンへ現れた。

「おば様、お邪魔してます」

「お母さん、おかえり」

「母さん、ずいぶん早かったな」

　三人とも冷静に振る舞う。

「嵐山は回るの止めたから、予定より早く帰って来れたの。お料理、母さんと鈴井先生の分も作ってくれてるみたいね」

「うん、ついつい作り過ぎちゃって。ほとんど実果帆ちゃんが作ってくれたけどね」

　由希江は苦笑いを浮かべて伝えた。

「やっぱりそっか。毎度悪いわね、実果帆ちゃん」

「いえいえ。私、お料理大好きですから」

　落ち着いた様子の実果帆に対し、

（麻美ちゃんと恵子ちゃん、どう隠し通そう）

（このままだと絶対見つかっちゃうわ）

　晴和と由希江の心の中は、こんな心配でいっぱいだった。

　都合良く、母は手を洗うため洗面所へ向かってくれた。

「麻美ちゃん、恵子ちゃん、今の内にワタシの部屋に逃げて」

その隙に由希江は囁くような声で指示を出し、麻美と恵子を二階へ上がらせようとした。二人はカーテンからそーっと出てすり足で廊下へ。

　あと二、三歩で階段へ差し掛かろうとした時、

「きゃっ！」

　恵子は思わず悲鳴を上げてしまった。大きなクモが這っていたのだ。

「何かしら？　今の声」

　母に聞こえてしまったようだ。

　さらに悪いことに、確認しに行ってしまった。

「おっ、お母さん」

　由希江は叫んで呼び止めるも、

「あら？　誰？　この子達？」

間に合わず。

母に二人の姿をばっちり見られてしまった。

「しまった。見つかっちゃった」

「どっ、どないしよう」

　焦る恵子と麻美。

「……二人とも、どこかで、見たような」

　母はきょとんとなる。

「そりゃそうでしょう。お母様があたしの作者なのですから」

　恵子は開き直ったのか堂々と主張した。

「えっ！？」

　母は口をパカリと開く。

「あたし、お母様が描いたイラストから飛び出してきてん」

「アタシは実果帆お姉ちゃんのママのイラストから出て来たの」

「えっ！　そんなこと、あり得ないでしょ」

「本当やって」

「本当だよ、おばちゃん」

「嘘、嘘」

「本当、本当。お母様、信じてーな」

「おばちゃん、アタシ達の言うこと、信じて」

　恵子と麻美は母の瞳をじっと見つめる。

「ほっ、本当に本当なの？」

　母は念を押すように問いかけた。

「本当だって。あたし、お母様が生み出した恵子っていうキャラクターなんよ」

「けいこ、恵子……あっ！　思い出したわっ！　ワタシが中学の頃に描いたマンガの主人公にした子だ。そしてもう一人の子は、麻美ちゃん、ね？」

「その通り！　アタシ、麻美だよ」

　麻美は満面の笑みを浮かべ、とっても嬉しがる。

「やっぱり！　さっちゃんに昔、見せてもらったのを思い出したわ。まさか、飛び出してくるなんて。さっちゃんに知らせなきゃ」

　母は携帯を手に取り、アドレス帳から連絡。さっちゃんとは説明するまでもなく実果帆の母のあだ名だ。

「姉ちゃん、なんか、予想外のことになったな」

「うん」

　晴和と由希江は呆然としながら事の成り行きを眺めていた。

「どうやら一件落着みたいだね」

　実果帆はにっこり微笑む。

　母が連絡し終えると、

「さっちゃんって聞くと、あの歌思い出すよ。実果帆お姉ちゃんのおばちゃんの本名はサチコなのかなぁ？」

　麻美はこんな反応をする。

「麻美ちゃん、さっちゃんの本名はサチコじゃなくて沙智って言うのよ」

　母がこう教えてほどなく玄関チャイムが鳴り、

「どうしたん豊子（とよこ）？　そんなに興奮して」

　沙智が鈴井宅を訪れて来た。笑顔を浮かべ問いかける。

「さっちゃん、この子、見て！」

　晴和・由希江の母、豊子は興奮気味に指した。

「誰かな？　ん？」　

　沙智はじっと目を凝らす。

「……ひょっとして、麻美ちゃん？」

　十秒ほど見つめたのち、こう問いかけた。

「うん！　そうだよ。アタシ、沙智おばちゃんの描いたイラストから出て来た子だよ」

「あらあら、本当にそんなことがあるのね」

「あたしは恵子」

「恵子ちゃん……覚えてるわ！　豊子が中学の頃に描いてたマンガの主人公ね。懐かしいわ～」

　沙智は特に驚いた様子も見せず、和んでいた。

「晴和、由希江、この子達、いつからいたの？」

「恵子ちゃんは三日前、麻美ちゃんは二日前から」

　晴和が恐る恐る伝えると、

「もう、どうして今まで黙ってたんよ」

　豊子はにこにこ顔で言う。

「だってさぁ、説明に困るし。正直に言ったらアニメと現実との区別が付かなくなったのねって言われそうだったし」

　晴和は困惑顔で伝えた。

「そっだったの。確かに晴和が言うように言っちゃいそうだったわ。母さんもまだ現実のことだとは思えないもの。でも、現実であって欲しいわ」

　豊子はにっこり微笑む。

「これは絶対現実よ、豊子」

　沙智は満面の笑みを浮かべ、自信を持って言う。

「晴和お兄さんと由希江お姉さんのお母様、あたし、これからずっとここに住んでもいいですか？」

「もちろんよ。ワタシのイラストだから、ワタシの娘のようなものだもの」

「沙智おばちゃん、ずーっといていいの？」

「当たり前じゃない。麻美ちゃんも、今日からはずーっとウチの子よ」

「それじゃ、沙智おばちゃんのこと、ママって呼んでいい？」

「もちろん、むしろそう呼んで欲しいわ」

「麻美ちゃんのお部屋、私のお部屋と同じでいいかな？」

　実果帆が問いかけると、

「うん、それでじゅうぶんだよ」

　麻美は屈託ない笑顔で答えた。

「あたしと麻美ちゃんのこと、お父様にも知らせた方がいいですよね？」

　恵子が豊子に問いかけると、

「そうね。家計にも関わってくることだし、帰って来たら母さんから伝えておくわ」

「わたしもちゃんと伝えとこうっと」

　豊子と沙智は笑顔で言う。

　それから二〇分ほどして、

「ただいまー。母さんももう帰ってたんだね」

　父が帰って来た。

「麻美ちゃん、恵子ちゃん、リビングに隠れといてね」

　豊子は小声で命令する。

「はーい」

「上手くいきますように」

　麻美と恵子はすぐにリビングへ。

ほどなく父がキッチンへやって来ると、

「おかえり鈴井先生、ちょっと伝えたいことがあるんよ」

　豊子はさっそくこう切り出した。

　すると、

「恵子ちゃんのことだろ」

　父は笑顔でこう言った。

「えっ！」

　豊子はあっと驚く。

「じつはぼく、恵子ちゃんがいること、とっくに気付いてたんだよ」

「ええっ！　いつから？」

　由希江も新たに伝えられたことにびっくり仰天した。

「晴和がぼくに数学の宿題を教わりに来た時だな、なんか変だと思った」

「あの時から気付いてたのかよ、父さん」

　晴和もかなりの驚き様だ。

「ちなみに麻美ちゃんのこともね。二人は豊子と実果帆ちゃんのお母さんが昔使ってたノートから出て来たんだろ」

　父からさらにこう伝えられ、

「麻美ちゃんのことまですでに知ってたのか」

「嘘ぉっ！」

「鈴井先生、勘が鋭いわね」

　晴和、由希江、豊子の驚きはより一層増した。

「おじちゃん、アタシのことも気付いてたんだね」

「あたしのこと、お父様にすでにばれてるとは思わんかったわ～」

　麻美と恵子はリビングから出て父の前に姿を現す。

「やぁ、こんばんは、麻美ちゃんに恵子ちゃん。一応、はじめましてかな？」

　父はとても機嫌良さそうに愛想よく挨拶し、

「じつを言うと三日前、豊子が寝室の片付けをしてた時に、ぽんと置かれてた豊子のノートをこっそり見てしまったんだ。その時、いきなり女の子の絵が飛び出して来たんだよ。ぼくは当然驚いて、慌ててその子の頭を手で押して引っ込めたんだ。そしたらまた絵に戻って。絶対夢だろうなと思ってみんなには言わなかったけど、あれは現実だったみたいだな」

　こんなことを打ち明けた。

「お父さん、そんな体験してたのね」

「確かに、夢と思うよな。俺だって最初思ったし」

「鈴井先生、そんなことがあったのね」

　由希江、晴和、豊子は改めて驚いた様子だ。

「父さん、今回の件、すっかり現実として受け入れてるみたいだな」

　晴和が不思議そうに突っ込むと、

「そりゃそうさ。今回の現象も、今世紀中には科学で解明出来ると思うし」

　父は至って冷静に理科教師らしい考えを伝えた。

「ひょっとして私のお父さんも、麻美ちゃんのこと気付いてたのかな？」

　実果帆は疑問を浮かべると、さっそく彼女の父の携帯に連絡して訊いてみた。

『僕もとっくに知ってたよ、沙智が昔描いたイラストから飛び出て来た子だってことも』

　との答え。

「なぁんだ。お父さんも知ってたんだ」

　実果帆は嬉しそうに微笑む。

「わたしが昔描いたイラストの子だってことは、どうして知ったの？」

　沙智に電話が代わる。

『じつは僕、一週間くらい前にリビングのテーブル上に置かれてた沙智の昔のノートを手にとってちょっと捲ってみたら、イモリが飛び出て来てびっくりしたんだ。慌ててノートを閉じてまた捲ってみたら絵に戻ってて。あれは絶対気のせいだと思ったから黙ってたんだよ』

　実果帆の父も似たような経験をしていたようだ。

「そんなことがあったんだ」

　その知らせに沙智はちょっとだけ驚いた様子。

『でもどうやら現実だったようだね』

　実果帆の父は陽気な声で電話越しに伝えた。

「あなた、麻美ちゃんも、これからずっとウチの子にしていいかしら？」

　沙智はやや申し訳なさそうに問いかける。

『もちろんさ。麻美ちゃんも僕と沙智の娘のようなものだし』

　実果帆の父は快く承諾してくれた様子だ。

「いきなり二十一世紀の世界に来たアタシと恵子お姉ちゃんが、すったもんだもなくごく普通に家族として受け入れてもらえるなんて、ド○えもんやコ○助やタル○ートくんになった気分だよ」

「あたし、こっちの世界でもこんな素敵な家族に迎えられて、めっちゃ幸せや」

　麻美と恵子は喜びのあまり満面の笑みを浮かべる。

　　　　　　※

　それ以降。恵子は鈴井宅の、麻美は桜岡宅の家族の一員として、心置きなく過ごせることになったわけだ。

「ジェットバスは最高や～。さすが二十一世紀のお風呂やね」

「ジェットバスじゃないおウチもまだけっこうあると思うけどね」

恵子は由希江と、

「実果帆お姉ちゃん、今日はお船で遊ぼう」

「うん」

　麻美は実果帆と、毎日いっしょにお風呂に入っている。

　寝る時もいっしょだ。

　　　　　　　☆

「麻美ちゃん、俺のゲーム勝手に課金しちゃダメだって」

「ごめんなさーい」

「ソシャゲって、基本無料やけど楽しもうと思ったら高過ぎると思ってたファ〇コンソフトを遥かに超える額毎月のように課金せんとあかんのはヤバいですね。ペ〇リーヌちゃんの真似」

「Ｎｉｎｔ●ｎｄｏ　Ｓｗ●ｔｃｈ　Ｏｎｌｉｎｅも最高だね。ファ〇コンやスー〇ァミやメ〇ドライブやロ〇ヨンのゲームがいっぱい遊び放題だし、巻き戻しとどこでもセーブで難しくてクリア出来なかったゲームも簡単にクリア出来ちゃうもん」

「その機能は便利過ぎやわ～」

　恵子と麻美は、日を追うごとに二〇一〇年代の文明の利器を使いこなせるようになっていっているらしい。

（めでたし、めでたし）