異世界に銀行は当たり前に存在するのだろう?

虹色水晶

その銀行は異世界の人々を幸福にした

その男は異世界転生チーターであった。

所持金一億ゴールドであった。

「うはっ。これなら余裕だワロスwww」

そう思って一歩前に踏みだそうとした。

「なんだ体の動きが、鈍い、ぞ・・・?」

そう思いながらなおも転生チーターは動こうとした。

「違う!身体がいう事を効かん!どういうことだっ!!」

ピクリとも動かない自分の体に全身びっしりと冷や汗を感じながら転生チーターは怯えた。

今彼は雨あられと投げナイフを百本ほど投げつけられたのならば。

或いは学生帽を被った不良に蹴り飛ばされたのならば。

一瞬にして彼はあの世行であろう。

「あんた道の真ん中でなにをしているんだい?」

街の住人Aが転生チーターに声をかけてきた。

「か、体が動かないんだ!!」

怯える転生チーターに対し、街の住人Aはこう答えた。

「そりゃ、そんなにでかい荷物を持ってれば重くて動けないに決まってるさ」

村の住人Aに言われ、その時初めて、転生チーターは自分が金貨一億枚が詰まった袋を背中に背負っている事に気が付いた。

「それを捨てれば動けるようになるぜ?」

「そんな!これを捨てるなんてとんでもない!!これの中身は俺の全財産が入っているんだ!!

これがなくなったら俺がこの世界に産まれて来た意味がなくなってしまうっ!!」

「そんな大げさな。中身が一億枚の金貨だっていうのかい?」

「そうなんだ!金貨が重くて動けないっ!!」

「なら銀行に預ければいいだろう?」

「銀行?」

街の住人Aが指さす方向には、石造りの立派な建物があった。

そこにかけられた看板は袋から金貨が溢れている絵が描かれている。

「あれが銀行か?」

「おや。もしかしてあんたの故郷の村には銀行がないのかい?

じゃあ俺が銀行について教えてやるよ。まず自分の持っているお金を銀行に預ける。

すると銀行があんたの金貨や、銀貨を大切に預かっていてくれるんだ。

必要な時は」

街の住人Aはポケットからカードを取り出して見せた。

「これはキャッシュカードって言ってな。銀行の支店がある街なら自分が預けた

金がどこでも引き出せるんだ。重い金貨を持ち運ぶ必要がないから便利だし、盗賊に金を盗られる心配もないぜ。

あんたもその金を銀行に預けたらどうだい?」

なるほど。この世界には中世ヨーロッパ風異世界には銀行があるのか。

それを知った転生チーターは早速全財産を銀行に預ける事にした。

全財産を預けた後、転生チーターは少し街をぶらつきながらふと思った。

「そうだ。流石にクレジットで買い物はできないな。宿屋に泊まるのも店で買い物するのも多少の現金がいるだろう」

そう思いなおし、金を引き出そうと銀行に戻る事にした。

「転生チーター様ですね。本日はどのような御用件でしょうか」

銀行員はつい先ほど金貨一億枚を預けた人間に対し、あくまで事務的に応じた。

「お金を降ろしたいんだけど」

「転生チーター様は当銀行に9千900万枚の金貨の預金なされております。如何程御入用でございますか?」

転生チーターは耳を疑った。

「さっき俺が預けたのは金貨一億枚だよな?」

「はい」

「それがどうして9千900万枚に減っているんだ?」

「当王国銀行では本年度よりマイナス金利が導入されました。

従ってお客様の預金はマイナス1パーセントなり、9千900枚となります」

「なんだって!ふざけるな!!」

「そうは言われましても。国の政策金利ですので」

食って掛かる転生チーターに対し、あくまで事務的に応対する銀行員。

その隣から、農夫らしき老人が現れた。

「すまん。去年金貨200枚を預けた者なんじゃが。今ワシの金貨は利子がついていくらになっておるかのう?」

「おい爺さん騙されるな!この銀行は詐欺だ!預けた金がどんどん減っていくぞ!!」

転生チーターは老人にそう警告したが。

「ヨダ村の自作農方でございますね?お客様のご預金は現在2.5パーセントの金利により

金貨2枚銀貨5枚。合わせて金貨202枚と銀貨5枚になります」

「ほほ。何もせずにお金がどんどん増えていくとは銀行とは本当にありがたいのう。

このままいけば孫娘が嫁に行く頃には凄い金額になっていそうじゃわい」

農家の老人は満足げな笑顔で帰っていった。

「おい。なんで俺の預金は減っているのにあの爺さんの金は増えているんだ?」

「低額預金者保護です。金貨1000枚以下の預金者は低所得者層とみなされ、

マイナス金利の対象となりません。国の政策事項ですので」

銀行員はあくまで事務的に応対した。

「くっ、な、ならば預金を全額引き下ろす!」

「申し訳ございません。お客様。1日に引き下ろせる預貯金の限度額は金貨100枚が限度額となっております」

「なんだと?!俺の金だぞ!!」

転生チーターは激怒したが。

「お客様。勇者勇者詐欺というのを御存知でしょうか?」

「勇者勇者詐欺?」

「最近とても多いのですが。具体的な手口をご紹介いたしますと。まず田舎の村を金貨50枚ほどと銅の剣を持って『俺は冒険者になるんだ!』と

旅立つ若者がいるんですね」

「あ、うん」

「数年後。『魔王を倒した』と言って凱旋してくる。そして『これから王様に会いに行くので身支度の為に金がいる。つきましては少々用立てて欲しい』。

そう言って村人からなけなしのお金をせしめる手口でして」

「・・・どっかで聞いたようなやり方だな」

「大変巧妙な連中ですよ。戦士役。僧侶役。魔法使い役などに別れ、いかにも信憑性高い風に装う。

こないだ摘発された集団は、ニセ盗賊団役まで用意して、それを退治して村人を信用させるという手口でした」

「・・・・そこまでやんのかよ」

「ですから、預金者保護のため、御引き出しは1日100枚を限度額とさせております。ご了承ください」

やんわりと、だがあくまでも事務的に銀行員は断った。

したがないので、転生チーターはその日は金貨100枚を引き下ろし、翌日金貨100枚。そのまた翌日100枚と降ろしていった。

そうしているあいだにも、転生チーターが預けた一億枚の金貨はマイナス金利によりどんどん目減りしていった。

「ザイムカンリョーとやら。お主の勧めた通り。銀行とやらを建てただけで我が国は豊かになった。礼を言う」

国王はニホンとかいう国から来たザイムカンリョーと名乗る若い男にそう礼を述べた。

「それはなによりでございます」

「それだけではない。民も皆喜んでおるぞ」

「銀行にお金を預ける事で利子がつく、自分の金が増えていくのですからね」

「しかし大金が一か所に集まると盗賊が心配であるな」

「その為の冒険者でございましょう」

「それもそうであるな。おおそうだ。貴公には褒美を取らせねば。どうであろう。我が娘を嫁にやろう。如何かな?」

「生憎と自分は結婚しておりまして」

「離縁してしまえばよかろう」

「日本の大臣の娘。と言えば事情は察して頂けるかと」

「大臣の娘。ふむ。それはおいそれと離縁するわけにはまいらんな」

「そういうわけでして。自分も大臣の御力でゆくゆくは日本の国会議員、この国の言い方ですと元老院の議員になろうかと」

「ならば仕方ないな。では銀行の金を少々持っていくがよい」

「怖れながら国王陛下。その金はすべてこの国の民の為にお使いください」

「我が国の為にと?」

「この国の民衆が、そしてこの国自体が豊かになること。それが私にとっての最大の褒章でございます」

「なんと。よくのないやつだ。ニホンジンとは皆お主のようなやつばかりなのか?」

「いえいえ。残念なことにそうではないのですよ。世の中には貴国を始めとする日本国外に出向き、各種の犯罪行為に手を染める輩が後を絶たないのです。

ですから、私どもの役目はそう言った不貞の日本人を取り締まる事なのです」

カンリョーと名乗った男の言葉に、国王は、このような人物が元老院の議員をしているならニホンという国は安泰であろう。

そのニホンからわざわざ国外に行き、悪事を働くような連中は相当ろくでもない連中であろうとつくづく思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界に銀行は当たり前に存在するのだろう? 虹色水晶 @simurugu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ