第5話
そのあとも智樹は一ノ瀬の家に通い続けた。けれどマクドナルドで起こった出来事を一ノ瀬に訊ねることはしなかった。
聞いたところで自分には関係の無い話だし、野次馬根性で聞かれても一ノ瀬が迷惑だろうと考えたからだ。自分は一ノ瀬の事情を知ってもどうすることもできない。智樹は無意識のうちにそう悟っていたので一ノ瀬の内側に入り込むことを避けた。それは、自分が一ノ瀬の立場だったらそうして貰いたいと思ったからかもしれない。
智樹は一ノ瀬の家に行っても特にこれといったことをしているわけではない。担任からたくされたプリントを渡したり、暇なときは勉強を教えたり、一ノ瀬の家で宿題をしたり、一緒に映画を見ることもあった。映画を見るとき一ノ瀬は前髪を掻きあげて上で一つに纏める。それがいつもと違った雰囲気をかもし出し智樹の心臓は速く動いた。
ベランダと窓越しに話すこともあった。一ノ瀬は窓枠にもたれかかりながら、口の中で飴玉を転がし、どうでもいいような会話を智樹にふった。智樹はそれにどうでもいいようにこたえる。
そんなことが続いたある日のこと。梅雨の本番が過ぎ去り、一週間のうちで雨の日より曇りの日が多くなった頃。智樹は放課後担任に呼び出された。
「テストの採点が終わったから、今日はおれも一緒に一ノ瀬の家に行くよ」
担任は面倒そうにそう言った。その様子から他の教師から担任自ら出向くように指示されたようだった。行くなら一人で行けよと智樹は思ったが口には出さなかった。正直担任と二人で行くというのは嫌だった。状況的に自分は担任の側の人間ということになる。もし担任が学校に来いと強く一ノ瀬に言ったら、その場にいる智樹もその意見に賛成しているふうに取られてしまう。
智樹はなんとか理由をつけて帰ろうとしたが、自分の家が隣であることに気づき、嘘をついたとしてもすぐにばれることを悟って諦めた。
担任に連れられて智樹は一ノ瀬の家に向かった。道中では一言も言葉を交わさなかった。
マンションに入る。担任からインターホンを押してくれと言われて、智樹は一ノ瀬に挨拶して扉を開けて貰った。罪悪感が胸を刺す。
家についてまず智樹がインターホンを押した。家が広いのですぐに反応がないことは知っていたがそれにしても無反応が続いた。担任は眉間にしわをつくり今度は自分でインターホンを押した。
「留守なんじゃないですか?」智樹は言った。
「馬鹿言うな。さっきオートロック開けたんだから家にはいるだろ」
と、担任は呆れたように言った。
智樹は押し黙って下を向く。
面倒だと思っているなら帰ればいいのにと思ったが、もちろん口には出さなかった。汗が滲んでくる。智樹はワイシャツの袖で汗を拭い、担任はハンカチを取り出して丁寧に汗を拭った。
「親御さんはこの時間いるのか?」
「えっと、僕は会ったことないです」
そうか、と言って担任が困ったような顔をする。生徒と面と向かって話すことに戸惑っているのだろうか。
「それにしても遅いな」
担任は腕時計を確認する。玄関の扉が開く気配はまだない。
智樹はこのまま一ノ瀬が出てこなければいいのに、と思いながらぼうっと扉を眺めていた。そのとき、覗き穴から漏れる光が暗くなったり明るくなったりしていることに気がついた。確実にこちらの様子を観察してるなと智樹はわかった。
担任の表情を横目で窺う。と、担任の視線も覗き穴に向かっていることに気づいた。
やばい、と思って智樹は担任の注意を逸らそうとしたが時すでに遅かった。
「あー、一ノ瀬か?」
扉の向こう側でがたがたと何かが崩れる音がした。呼びかけられたことに一ノ瀬が驚いたのだろう。
居留守を装うことがようやく無理だと悟ったのか、扉がおずおずと開いた。
「あ、あの」
一ノ瀬の声は弱々しく震えていた。いつも智樹と話す声とは違っている。
「君のクラスの担任だけど、少し話せるか?」担任が訊ねる。
「す、すいません、いまお母さんいないんで」
営業に来た人を断るかのように一ノ瀬は扉を閉めようとした。
「学校にはこのまま来ない気なのか?」
担任の言葉を聞いて一ノ瀬は扉を閉める手をとめる。
少しだけ残った隙間から担任は言葉を滑り込ませた。
「学校で何かあったのか? 中学一年生の時から行けてないみたいじゃないか」
一ノ瀬は黙っている。
「確かに大変なこともあると思う。楽しいことばっかじゃないことはおれだって分かってるさ。友だちだって作りにくいかもしれない。けどな、学校で学ぶことは将来役に立つことばかりなんだ。おれが学生の頃は今よりももっと厳しかった。それでもな、おれはその頃のことを今でも感謝している。あの時出来た友だちは今でもつきあってるし、あの頃教えられた物事の見方や姿勢は今でも益になっている。一ノ瀬、学校ではな勉強以外にも沢山の大切なことを学べるんだ」
担任は言葉を並べていく。
一ノ瀬は扉を開こうとも閉じようともしなかった。
智樹は担任の言葉を聞きながら苛立ちを覚えていた。担任が言っていることが間違っているとは思わない。けど、一ノ瀬にとって必要な言葉だとは思えなかった。担任は何のためにここに来たのだろう。何のために一ノ瀬に向かって言葉を投げつけているのだろう。
担任の吐く言葉が自慢話にしか聞こえなくなってきた。どんなに自分が学生時代に苦労して、それでも努力を続けてきたということを担任は切実に訴えている。
自分に酔っているとしか思えない。担任は一ノ瀬のことなんて全く考えていない。ただ、一ノ瀬の家に行ったという事実が欲しかっただけだ。そして、自分の経験を語って悦に浸りたいだけだ。
なぜ一ノ瀬に対して質問しないんだ。一ノ瀬のことを訊いて、一ノ瀬のために、一ノ瀬の力になれることを探そうとしないんだ。
そこまで考えて智樹は心の中で自嘲した。なんだ。これは自分にも言えることじゃないか。自分だって一ノ瀬の力になろうとなんてこれっぽっちも考えていなかった。誰かの近くに寄ることが、誰かを深く知ることが面倒だと考えてしまっているじゃないか。
「だから、一ノ瀬ももう一度学校に来ることの大切さを考えてくれないか?」
担任が妙に熱の籠もった声で言った。
しばらくの沈黙のあと、何も言わずに一ノ瀬は扉を閉めた。
担任は扉が閉まったのを見て、予想外のことが起こったかのように固まっていた。
もしかして一ノ瀬が感動して飛び出してくるとでも思ったのだろうか。そこまで自分自身の言葉に、この状況に酔っていたのだろうか。くだらない幻想だ。
担任は扉を睨んでいたが、それ以上のことはしようとはせずに踵を返して一ノ瀬の家から遠ざかった。
マンションを出て担任と別れたあと、智樹は一旦自分の家に行って荷物を置いたあと、一ノ瀬の家に行った。
「おー、待ってたよ智樹」
一ノ瀬は何事もなかったかのように笑顔で迎えてくれた。
「あのさ、さっきはごめん」
智樹は頭を下げた。担任を連れて行ったことを謝りたかった。
「あー、いいよ。そんなこと気にしなくてさ」
一ノ瀬は笑顔のままだ。
「ねえ、それより新しい映画のブルーレイ買ってもらったから一緒に見よ」
一ノ瀬に手を引かれて促されるままに智樹はゴミの山に腰を下ろし、ギャング同士がよく分からない理由で争っている映画を見た。相手を倒し終わり日常の夕食の光景があらわれた。母親が食卓に夕食を並べ、主人公である青年と父親は他愛もない会話をする。息をつかせぬストーリーの中に挟まれた何気ないシーンだ。
一ノ瀬はテレビから視線を外さなかった。少し身を乗り出して真剣な眼差しで、それでいてどこか羨望を含めた目でそのシーンを見ていた。
腹が減っているのだろうか、と智樹は考えた。時刻は夜の七時をまわっていた。昼食のあとなにも食べていないので智樹もやや空腹を感じ始めていた。腹部を触って腹の減り具合を確かめる。
視線を横に向けた。濃い茶色いカーテンの隙間から夜を感じさせる黒が見えた。そしてガラスのさらに向こう側、ベランダを隔てた建物に自分の家を見つけた。その見慣れた部屋にまだ明かりはついていない。
「あのさ」視線を右から左に移して一ノ瀬を見た。「僕そろそろ帰るよ」
一ノ瀬はテレビから視線を外さずに言った。
「なんで? 映画いまいいとこだよ?」
「いや、そうじゃなくて腹減って来たからさ」
「ああ」と一ノ瀬は智樹を見た。その時、思い出したかのように一ノ瀬の腹が大きな音をならした。一ノ瀬は腹部に手をあてる。「確かに減ってきたかもね」
智樹は膝に手をあてて立ち上がる。
「そういえばお前夕飯どうすんだ? まさか、もう食べたとか?」
「んー、ピザでもとるよ」
一ノ瀬は再びテレビに視線を向けた。
母親は帰って来ないのだろうか。それとも普段から外食や出前とかが多いのだろうか。
智樹は一ノ瀬の姿を見詰める。一ノ瀬は今は感情が抜け落ちたような顔で映画を見続けていた。一度は玄関へと足を向けたが、一人でピザを食べる一ノ瀬を想像したらどうしてもそのまま帰ることはできなかった。
駆け足で戻り、扉を勢いよく開ける。扉の近くにあった服や本が飛んだ。
「な、なに? 忘れ物?」一ノ瀬が驚いて振り返った。
「一ノ瀬、このあと暇か?」
「映画見る予定だけど」一ノ瀬は時計を見ながら言った。
「そうか、それなら良かった」智樹は頷く。「僕の家で一緒に見よう」
一ノ瀬は言葉の意味が分からなかったのか首を捻った。智樹は窓の外を指差した。
「うちの父さんも帰ってくるの遅いから、一緒に僕の家で食べよう」
一ノ瀬は智樹の視線の先を追った。沈黙が二秒間。一ノ瀬が智樹を見る。
「いいの?」
「ああ、一人分つくるのも二人分つくるのも大して変わらないからな」
一ノ瀬の表情が変わる。見ているこっちが恥ずかしくなるほどの満面の笑みを浮かべたので、智樹は思わず顔を伏せた。
「一緒にご飯食べていいの? 智樹の家で? そっかーやったー」
横目で見る。一ノ瀬は身を捩って嬉しさを表現していた。
不思議だった。なぜ自分が一ノ瀬を誘ったのかわからなかった。他人の都合よりも、自分の領域に踏み入られることが何よりも嫌いだったはずなのに。一ノ瀬に普通に接することができるのも、自分の中に立ち入らせない部分を残しているからだったはずなのに。それに、いつもの自分なら誘う前に必ず、断られる可能性を考えたはずだ。
理解できない思考がうごめいたが、智樹はその思考を言葉で表すことができなかった。
「じゃあ、それ消してさっさと行くぞ」智樹は顎でテレビを示した。
「あっ、でもちょっと待って」
「なんだ? 金ならいらないぞ?」
「むう、むしろ智樹はわたしからお金を取る気だったの? そのことにがっかりだよ」一ノ瀬は「よいしょ」と言って立ち上がった。「さすがにわたしもこの格好で外に出るのは恥ずかしいよ」
一ノ瀬は両手を広げてスウェットを見せた。
「べつにそのままでもいいと思うけど」
「いや、着替させてもらってもいいかな? すぐに終わるからさ、ちょっと待っててよ」
「そうか。わかった」智樹は一ノ瀬と見つめ合う。
「っで、智樹はいつまでそこで見てるの?」
智樹は追い出された。一ノ瀬の部屋の扉に寄りかかりながら着替が終わるのを待つ。中で衣擦れの音や一ノ瀬がぶつぶつなにかを言っているのが聞こえた。智樹は頭の中で冷蔵庫の中に入っているものを思い出す。どうせ今日も一人だと思っていたから買い物にも行っていない。冷蔵庫にあるものだけで何か美味しいものはつくれるだろうか。
智樹はつま先で地面を叩く。
「遅い」
あれから二十分は経過しているだろう。いまは部屋の中からなんの音もしない。まさか、寝てしまったのだろうか。それともついにゴミに埋もれてしまったのだろうか。だとするなら救出しなければ。と、智樹は勢いよく扉を開けた。
「おい! 大丈夫か?」
一ノ瀬はほとんど裸だった。
辛うじて下着をつけていたことは不幸中の幸いか幸福中の不幸か。
なぜ一ノ瀬がそんな姿になっていたのかはすぐにわかった。
着替える服が見つかっていなかったのだ。
大きな折りたたみテーブルですら苦労して見つけたのだから、目当ての服がすぐには探し出せないことは容易に想像がついた。けど、普通は着替える服が見つかってからスウェットを脱ぐだろ。などと言い訳がましい言葉を頭の中に並べていたら、一ノ瀬の身体が白から赤に変わっていく。
一ノ瀬の肩が震えだす。こちらを見た大きな瞳は涙で溢れそうだった。
「ごめん。埋もれてるかと思って」
「出てけー!」と一ノ瀬は近くにあるものを智樹に放り投げた。
逃げるように智樹は身体を引っ込めて扉をしめる。智樹は暴力から逃げれたことで安堵の息を吐き出したが、心臓はまだ高鳴ったままだった。
「しかし、それにしても」智樹は天井を仰いだ。「意外にあったんだな、胸」
思い出すと今度は智樹が赤くなってしまった。その場でうずくまり顔を膝の間に埋める。
まぶたの裏に先程の映像が再生される。当分は目をつぶる度に見ることになりそうだ。
それから暫くすると扉が開いた。扉に背中を預けていた智樹は急に体重を支えてくれる相手がいなくなったので、そのまま後ろに倒れてしまった。残念なことに一ノ瀬はズボンを履いていた。智樹の頭は一ノ瀬の脚の間に倒れる。
一ノ瀬は顔を真赤にして慌てて身を引いて智樹の二つの目を足の裏で塞いだ。
「智樹って今まで気づかなかったけどけっこうエッチなんだね。わたしはがっかりだよ」
智樹の家へと移動している時、一ノ瀬は大げさに肩を落とした。
「どっちも不可抗力だ」
智樹は赤くなった顔を指で撫でた。まだ少し痛みが残る。
「そう言うんだよ犯罪者も、わざとじゃないとか見てませんとか。もうほんとちゃんと謝れっていうんだよね」一ノ瀬は皮肉っぽく言った。
「……ごめん」
素直に謝った。
「うん。許そう」
一ノ瀬は笑って言うと、満足したように智樹の前を小走りで駆け出す。長袖のボーダーパーカーのフードが長い髪の間で揺れる。こうして見ると普通の女の子だ。目の前にいる少女がどうして学校に行かなくなったのか智樹は訊きたくなった。
「どうしたの?」
一ノ瀬が振り返った。
口を開く。けれど言葉が喉に詰まって出てこない。
一番最初に会った時は簡単にできた質問が今はできなくなってしまった。あれから一ノ瀬について色々なことを知ってしまった。
「いや、べつになんでもない」
「ふーん。あっそうだ」一ノ瀬は肩から提げていたポーチから一枚の紙を取り出した。「はい。これあげる」
「なにこれ」智樹は受け取って開いた。『授業参観』の文字が書かれたプリントが目に入る。
「ちゃんと誘ったほうがいいよ」
智樹は黙って文字を見続けた。
「いや、いいよ。僕には必要ない」
「なんで?」
「渡しても迷惑になるだけだし、悲しませることになる」
「それは他の誰かが? それとも智樹が?」
心臓がどきりと跳ねる。
「……とりあえず返すよ」
「いらなーい」と言って一ノ瀬は歩き出す。
「おい、だいたいお前も必要だろ?」
「心配ないよ。うちは大丈夫だから」
一ノ瀬はそう言って笑った。
「とにかく返却は認めないから」一ノ瀬はそう断言した。
しょうがなく智樹は紙をポケットにしまった。
錆びた階段を智樹が先導してあがる。足を踏み下ろすたびに軋んだ音がなり、二人で乗って崩れ落ちないか不安になった。
「ぼろぼろだね」一ノ瀬が背中越しに声をかけた。
「外にあるとどうしても雨で錆びたり劣化するらしいよ」
ふーん、と一ノ瀬は階段をのぼる。
二階に二つある部屋の奥の部屋が智樹の家だった。表札に山橋昌人と書かれた扉をあける。蝶番が軋んだ音をたてた。
智樹がどうぞと中に入るように促すと、
「おじゃましまーす」
と一ノ瀬が弾んだ声で先に家にあがった。
智樹は玄関の電気をつける。
「おかえりなさい」
くるりと振り返った一ノ瀬に笑顔で言われた。智樹はその笑顔をまともに見ることができなくて、目を伏せて、「お、おう」と口籠もった声を返すことしかできなかった。
智樹は台所に立ってまな板に包丁を立てる。
背後から一ノ瀬の機嫌の良い鼻歌が聞こえる。
「智樹のパパはいっつも遅いの?」
「平日はだいたい遅いね」
智樹は料理を作りながら答える。フライパンに刻んだ野菜と肉を入れて炒める。
「智樹のママは?」
肩越しに振り返ると、一ノ瀬は部屋の隅に置かれた仏壇を見ていた。
「僕が小さかった頃に病気で死んだ」
「……そっか」
出来た料理を二つの皿に分けて食卓に並べる。
椅子つきのテーブルは人が多くなったときに不便だと言って父に脚を切られてしまったテーブルに一ノ瀬を座らせた。このテーブルを大人数で囲んだことはまだ一度も無い。
「じゃあ、食うか」
「うん」
一ノ瀬は匂いを嗅いだあと、満面の笑みで一口食べる。
「んー、美味しいね」
一ノ瀬は表情を綻ばせる。二口目、三口目、と食事を頬張っていくが、その表情が徐々に歪んでいく。
「どうした?」
一ノ瀬が腹部をさすっていたので智樹は訊ねた。もしかして料理が口に合わなかったのだろうか。
「ん? なんでもないなんでもない」そう言って笑みをつくるが、なんだか苦しそうだった。
「もしかして菓子食い過ぎて腹一杯とかか?」
「……面目ない」
一ノ瀬は申し訳なさそうに身体を小さくする。
「菓子だったり、ピザとかばっかり食べてたら身体に悪いぞ」
「分かってはいるんだけどねー、やめられないんだよ」
結局一ノ瀬は四分の一ほど食べただけで食事を終えた。
智樹と一ノ瀬はテーブルに手を置いて食後のお茶を飲んでいた。一ノ瀬は智樹に言った。
「ありがとう。今日のご飯はとっても美味しかったよ」
屈託のない笑顔で一ノ瀬は嬉しそうにそう言った。
「そうか、そりゃあ誘ってよかったよ。まあ近いんだし、これからもたまに飯食いに来いよ」
「いいの?」一ノ瀬は身を乗り出す。顔が近づく。
「ああ、べつにいいよ」
「そっか、そっか。ありがと」
「いいって、そんな礼言うなよ。こっちが恥ずかしくなる」智樹は顔を背けた。
「ねえ、残ったご飯持って帰ってもいい?」
一ノ瀬が申し訳なさそうに言った。
「ああ、もちろん。その方が僕も嬉しいよ」
残った食事をタッパーに詰めて一ノ瀬に渡す。
一ノ瀬が帰ったあと、智樹は授業参観の紙を見つめる。
「渡せるわけない」
智樹は手でプリントを破ってごみ箱の中に落とした。
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