第3話 陽向くん

「助けてくれてありがとう……ってへ?」


ん?いや、ちょっと待て。

これはあれだな1度経験したことがあるやつだ。

これは駄目だ早々に立ち去ろう。うん。それがいい。じゃないと茶髪三次元美少女のためにも俺の二次元ハーレム天国保守のためにも良くないからな。


「ほんとにありがとうございます!私もうどうしていいか分からなくて……」


「うん!それは良かった!じゃ俺用事あるから!」


駆け出そうとした瞬間、ギュッと手を握られた。

俺のごつい手を優しく包み込む柔らかくて小さな手。初めて知った。女の子の手って柔らかいってことを。じゃこれを二次元美少女にされたらどうだ?……死ぬな俺。


「待ってください!」


「お、おう」


俺は駆けるのを辞め、というか茶髪三次元美少女に止められた。さすがに振りほどいて行くわけにも行かないし。


華奢な体の割に大きい声を出した茶髪三次元美少女は大きな声で俺を呼び止めたのにも関わらず、なぜかもじもじし始めた。

少し、頬を朱色にし、言葉を紡ぎだそうとしている。


……なんか経験あるんですけどっ!


「お礼をさせてくださいっ!」


経験したことあるやつだった!


「いいよお礼なんて!ほんとに、まじで!ほらったまたま俺はここを通っただけで、君を助けようとしたわけじゃないから!」


「偶然かもしれません……けど!」


茶髪三次元美少女は顔をぐっと急に近づけ、目をうるうるさせている。近くで見るとあっ形のいい唇してんだなと思う唇を動かして、


「私は貴方に助けられました!」


とまるであの時の篠原みたいに言う。

これは駄目だ。また勘違いを起こさせてしまう。

いや、起こしてしまったかもしれない。けどまだ間に合う!


こんな茶髪三次元美少女に顔を近づけられてドキッとしないやつはいないだろう。実際俺も昔の俺だったらドキッとしていたに違いない。けど今の俺には二次元美少女あいつらがいる!だから、俺はこの滅多にないだろうチャンスをつぶす!


「ごめん。待ってる二次元美少女やつらがいるから」


握られている手を離し、思いっきり駆け出す!


「あっ、待って……」


遠くから茶髪三次元美少女の声が聞こえるが気にしない。さらばっ茶髪三次元美少女!もう会うことは無いだろう。



アニメショップについた俺はグッズを見ていた目を手に向け考えていた。


「握られちゃったな……」


さっきのことを思い出していたとはいえ茶髪三次元美少女ではない。もっと重要なことだ。


「初めては二次元美少女おまえたちって決めてたのにな」


初めての握手は二次元美少女の誰かになるんだろうなと思っていたのにいや、そうしたいと願っていたのに……。

ふっ感傷的になっていても仕方ないか。

もう過ぎたことなんだ。いつまでも過去にとらわれちゃだめだ。それにあんな可愛い茶髪三次元美少女に触られたんならいいだろ俺!


「う……くっ……」


おかしいな……。目から塩水がでらぁ。

ごめん。二次元美少女おまえたち。

初めてあげれなかったよ。


「なにを泣いているんですか?」


「いろいろ……あってな」


「そうですか。これを使ってください」


「悪いなハンカチなんか借りちまって」


「いいえ、気にしないでください」


そっと差し出されたハンカチで涙を拭う。

実は俺も常にハンカチは持ち歩いていて借りる必要は無いけど、ここは優しく差し出してくれたハンカチを使わせて貰おう。


「ありがとう篠原」


涙を拭いきり、ハンカチを持ち主である篠原に返す。


「いいえ。これぐらいお安い御用ですから」


優しいな篠原は。見た目も良くて性格も良かったらさぞモテるだろうな。篠原は。




ん?篠原?



「……」


「どうしました?瀬尾くん?」


「なんでお前がここにいるんだよっ!」


「なんでって、瀬尾くんを探しに来たんですよ?病院に行くために」


「病院はいいって!どうしてここが分かった!?」


俺がここにいる検討なんて


「二次元美少女好きの瀬尾くんのことですから、ここに来るだろうと」


つくと思ったよ。だって篠原は頭がいいんだもの。


「それに」


「それに?」


「彼女にプレゼントを買うって言ってじゃないですか。……二次元の彼女に」


そういや言ったな俺。俺がプレゼントをここに買いに来ると読んだか。つーか最後、目が笑ってないよ目が!


「さっ病院に行きましょう瀬尾くん。知り合いに精神科の先生がいるんですよ」


まずいこのままじゃ精神科に連れていかれる!

いたって健康的な精神を持っているのに!


あれをやってみるか?

いや、でもな……。

けど俺の見るヒロインズは大抵引っかかる。

はたして三次元美少女である篠原は引っかかるだろうか?とりあえずためしにやってみよう。


「なぁ篠原?」


「なんですか瀬尾くん?逃げようとしてもダメですからね?」


「逃げるなんてそんな……」


しようとしてるけど。


「あっ!あそこに着ぐるみのチョ○パーが!」


「え!どこですか!瀬尾くん!」


「あそこの本棚の奥に行ったぞ!」


「ホントですか!?ちょっと行ってきます!ここで待ってて下さいね!」


……行っちまった。


あいつの将来が心配になったぞ。

こうも容易く引っかかるとは……。

でもこれはチャンスだ。今のうちに店から出て逃げよう。



翌日の放課後。

篠原に呼び出された俺は、子洒落たカフェに来ていた。こういうカフェには来たことがあまりなかったからか若干の緊張感があった。しかし、店の窓際にいかにも不機嫌そうに座っている篠原を見てその緊張感は恐怖へと変わった。


「瀬尾くん、私に何か謝罪はないのですか?」


「昨日のことはすまないと思っている」


とりあえずは謝罪しよう。なにか言い訳をしようものなら殺されかねない雰囲気だし。

まさか、篠原がほんとに引っかかるとは……。

こいつヒロインの才能を持ってるんじゃないのか?


「まったくですよ。おかげで店内をずっと探し回ったんですからね!」


「……ごめん」


昨日のことを思い出したのか、篠原は顔を真っ赤にしながら文句を並べる。俺はそれを聞き流し程度に聞きつつ、恥ずかしそうに昨日のことを話している篠原を見て、三次元美少女は恥ずかしそうにしてると可愛いく思えるんだななんていう……どぅでもぃい〜ことを考えながら時間を潰していた。あー早く家帰って美少女ゲームやりたい。マロンちゃんがなかなか攻略できないんだよな〜。あのツンデレさんめー!ツンとデレの割合がおかしすぎるのは気のせいかしらん?


「ちょっと瀬尾くん!聞いてますか!?」


「……お、おう。聞いてる聞いてる」


最初のアパンからオープニングくらいまでなら。


「それでですね……」


篠原はゴソゴソと鞄から何かを取り出そうとしている。篠原は話の流れからこの行為に及んでいるのだろうが俺は全然話を聞いていなかったのでどうしてゴソゴソ鞄をあさっているのかが分からない。頑張って話を合わせないと。


「これですよ!これ!」


「ん?これ?」


篠原が鞄から取り出したのはワン○ースの人気キャラクターであるチ○ッパーが写っているチラシだった。

チラシには今週の土曜日、つまり明日にアニメショップ限定のぬいぐるみを発売すると書いてあった。なるほどこれが欲しいのか。でも……これは……。


「着ぐるみのチ○ッパーは居ませんでしたけど、この情報を得れただけでも私は嬉しいので昨日のことは許します!」


「それはどうも」


「いやー限定ですかー!どんなぬいぐるみなんでしょうね〜。明日が待ちきれないですよ。これは!」


嬉しそうに語る篠原。こいつワ○ピースのこととかになるとテンション跳ね上がるよな。○ンピースオタクとでも言うところかな。でもこのテンションの上がりよう、気付いてないなこれは。教えてやるか。


「あの篠原?」


「なんですか?瀬尾くん?」


「たぶん気づいてないから言うけど、その土曜日、発売時間見てみろよ」


「え?発売時間?えーと……え?うそ……」


やっぱり気づいてなかったか。

土曜日という学生にとっては休みの日に発売とはとってもありがたいことなのだが、問題は発売時間。朝四時とゲロ早い。なにこれ?ってくらい早い。べつにどうってことないじゃんと思う輩も居ると思うが、問題なのは俺らが学生ということだ。


「そこのアニメショップ、たまになんでこんな時間に?って時に発売したり、開店したりすんだよな。たぶん受けを狙ってのことなんだろうけど今回のは笑えないな」


まじ笑えない。だってさっきまであんなテンション跳ね上がってて、エ○アニメの昇天した女の子みたいになってたのに、今の篠原といったらエ○アニメの強姦された女の子みたいに生気がないんだもん。目なんてもうレイ○目。


「まっ学生の俺らに朝四時はきついよな。四時前に徘徊してるのをパンダ柄の車に乗ったお兄さんに見つかったら補導されちまうしな」


これが問題だ。四時発売ということは最低でも四時前にはアニメショップに並んでいなけらばならない。けど、学生の俺らは夜11時から朝4時まで深夜徘徊という、外に出歩けない時間帯がある。これがある限り、俺らは朝四時の発売には間に合わない。しかも今回のは数量限定発売。四時以降の行動ともなれば売り切れているのは必然。なんてたってワン○ースだから。徹夜でもしなければ獲得は出来ないだろう。


「まっ今回は運がなかったってことで諦めるしかないな」


「……そうですね」


「元気だせって。もしかしたらネットとかで売られるかもしれないだろ?」


数量限定だから値段はすんごく跳ね上がると思うけど。


「……はい。でも、できれば新品で欲しかったです」


「そうか……」


「はい……」


「……」




あぁもうっ!

そんな悲しそうな目をすんなよ!

嫌なんだよ俺は!そういう泣きそうになってる女の子を見るのは!二次元美少女でも三次元美少女でも!


「……方法がないわけでもない」


「……え?」


「俺が徹夜して並ぶ」


「徹夜って……駄目ですよ瀬尾くん!瀬尾くんも高校生なんですよ!?警察の人に見つかったら……」


「でも欲しいんだろ?」


「それは……そうですけど」


「だったらいいじゃないか」


「でも……だったら私が自分で……!」


「それは駄目だ」


「なんでですか?」


「篠原は女の子だからだ。それも二次元美少女loveな俺から見ても美少女と言えるくらいの。そんなやつを深夜に外に出歩かせるわけには行かない」


「けど……」


「俺なら心配するな。何回か徹夜で並んだ事もあるし、パンダ柄の車に乗ったお姉さんに顔見知りが居るから大丈夫だ」


最後にこれ以上の言い争いをしないために、篠原の頭に手を乗せて、任せろと伝える。あぅわゎという篠原の声にならない声を聞いた気もするが気のせいだろう。


「じゃ、俺準備あっから帰る。手に入れれたら報告すっから待ってろよそれまで」


最後にじゃな、と言って別れカフェを出た俺。

さて、準備をしなくちゃな。なんてたって徹夜だからな。携帯ゲーム機に、ラノベがあれば暇つぶしには大丈夫だろ。あとは嫁達と楽しく過ごして篠原のために、ぬいぐるみをゲットしないとな。やれやれ、なんで俺が三次元美少女のためにここまでしなくちゃならないんだよ。……まっいいか。


アニメショップ向かう前にマロンちゃん攻略しよ。








「……美少女かぁ。やっぱり瀬尾くんに言われると嬉しいですね。それに頭も撫でられて……。…………ん?警察の人と顔見知り?」



「あーさみぃ」


現在の時刻深夜二時。発売まで、残り2時間。並び始めてから3時間は経っている。さすがワ○ピースの人気キャラクターであるチョ○パー。行列が普通にできている。

7番目といういいポジションで並んでいるから、これなら余裕で買えるだろう。しかし、ここまで並んでるのも久しぶりだな。前はたしか、○ブライブの一番くじだったかな?あの時の俺の引きのなさには憤りを感じたぜ。一ヶ月くらい右手とは話さなかったからな。いや、普段も話してはないけど。


それにしても寒い。まじさみぃ。

普通に舐めてた。五月の深夜の気温舐めてた。

やっぱジャンパー羽織ってくるべきだったな。

は○ないパーカーだけじゃ普通に寒い。ぼっちである俺が同じぼっちである小鷹君を羽織れば少しは気分もいい感じになり、寒さも凌げると思ったけど、だめだ!寒い!寒すぎる!人選ミスった。肉にしておけば良かった。ていうか普通に星奈って可愛いよな。……星奈に告られてぇ。


先頭に並んでる人の格好すげーな。全身チョッ○ーで埋め尽くされてるんだけど。背丈が小さいから女性かな?俺はまだあぁいう格好するには勇気がもてないな。キャラクターTシャツとかパーカー着るだけが今のところの限界だな。背中のI LOVE チ○ッパーがカッコ良く見えるぜ!



「さみっ」


早く時間経ってくんねぇかな。



「はぁはぁ、瀬尾くん!」


「おう篠原」


時刻は四時半。LINEでぬいぐるみをゲットしたという報告を篠原に入れたら速攻で既読がつき、今から行きます!というので店の前で待っていた。


「はいよ。約束の品物だ」


「ありがとうございます!」


「おう」


こう、目をキラキラさせながら喜んでいる篠原を見ると、並んだかいがあったもんだと思う。


「寒くは無かったですか?」


「少し寒かった」


「では今から私の部屋に来ませんか?暖かいスープを作っておいたんですよ」


暖かいスープか。飲みたいな。けど、部屋に上がるのは……。


「あっ一人暮らししてるんで大丈夫ですよ?」


よけい駄目じゃね?とも思ったが、暖かいスープという誘惑に負け篠原の部屋に上がらせてもらうことにした。


「待ってて下さいね。今準備しますからテキトーにくつろいでで下さい」


テキトーにと言われてもな。なんかどこもかしこもふわふわぽわぽわしててどこに座ればいいのかも分かんね。


「はい。どうぞ」


「いただきます」


篠原が用意してくれたのはコーンスープだった。普通に旨い。暖かいスープを飲んだからか体があったまる。


「どうですか?」


「普通に旨い」


「良かったです」


やべなんか眠くなってきた。まっ徹夜してたしな。


「……!?瀬尾くん!?」


「悪い篠原少し枕借りる……眠い」


この枕、すげー柔らかいな。うちもこれにしようかな。


「いや、あの、そこは……枕ではなく私の太もも……」


篠原が何か言ってるが眠さで意識がそこで途切れ、何を言ったのかはわからなかった。


「ふふ。可愛い寝顔ですね。でも、こういうのもいいですね。ぬいぐるみ大事にしますね。ほんとにありがとうございます、せお……陽向くん」

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