第2話 ありがとうございます!

高校を入学して少し経った放課後。


俺は走っていた。

いや、チャリを全速力で飛ばしていた。そりゃもうチャリで世界を狙えるレベルで。


俺がチャリを思いっきし漕いでる理由。それは某アニメショップ限定発売の俺の嫁のグッズもとい、嫁を買いに行くためである。嫁を買いに行くっていうのも変な話だけど。まぁ気にしない。


発売開始が午後五時からと学生の俺にとってはありがたい話なのだが、なんせ今回の嫁は数量限定。急いで行かなければ売り切れる可能性があるため超急いでいた。


交差点を渡り、アニメショップまであと少しというところで俺はさらに距離を縮めるため近道を選んだ。狭い路地裏に入り、さてショートカットと行きますかと意気込んだところでそこには先客がいた。


なんてことはないただの不良達だ。

いつもなら怖くてすぐ引き返すところなんだが、今日はそうも言ってられない。早く嫁に会いたいがために俺は進む。デュヘへ待っててね〜嫁たち!


しかし、不良達は道を完全に塞いでおり簡単には進めそうに無かった。

仕方なく俺は勇気を出して不良達に道をあけて欲しいと頼むことに。


逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ…!


「あ、あのォ〜道あけてぐれないすか?」


俺は初めての人と喋るときなど口がうまく開かなかったりなんだりして声がこもってしまう時がある。今回もそうなってしまい、もしかしたら聞こえなかったかななんて思っていた。けど


『すんませんっした!!もうこういうことはしませんっ!!』


と言って不良達はその場から一目散に逃げるようにしてその場をさった。

変だなとは思ったが俺も急がなければならない。早く嫁に会うために!!


再びチャリを漕ごうとしたところで裾を掴まれた。

気のせいと思って気にせず行きたいところだけど俺も普通の人間だ。(普通の人間ここ重要)気にならないわけがない。


振り向くとそこには金髪の三次元美少女がいた。


「あの……助けてくれてありがとうございます」


もじもじと顔を赤らめながらお礼を言う美少女。

しかし俺にはお礼を言われる義理がない。

なんせこの三次元美少女が不良達に絡まれていたなんて知らなかったんだから。

つか、いたこと自体知らなかった。」


「いや、助けたつもりはないんだけど」


「でもさっきすごい迫力の声であの人達をおいはらってくれたじゃありませんか」


「え?すごい迫力?」


「はい。とてもドスの聞いた声を」


いや、全然俺はそんな声を出してつもりは無いんだけど。それよりか滑舌も悪いからあの不良達がほんとに聞き取れたのかが気になる。


「ドスの聞いた声は出したつもりは無いんだけど、君を助けたのはほんとに偶然だから」


「それでも……それでも私は貴方に助けられました」


目を閉じ、噛み締めるようにことばを紡ぐ三次元美少女。うん。何かは分からないが、きっとこの三次元の女の子は勘違いをしている。これは間違いない。


そして、何故か急にもじもじとし始める三次元美少女。

これが二次元美少女なら俺は悶え死んでるな。

なんで三次元の女の子のこんな姿をみにゃならんのだ。

なんの罰ゲームですか?


「あの、よろしければ今からお茶とかどうですか?」


はて?なんでこの三次元美少女は俺をお茶に誘って来るのだろうか?


「あ、その……お礼がしたくて」


と言われても俺はこの三次元美少女を助けたつもりなんて毛頭ない。二次元美少女なら何も考えずに助けに行くけど、たかだか三次元美少女の為なんかに俺が勇気を出して助けに行くとは俺自身信じられない。


だから、ここは丁重にお断りしよう。発売まで時間もないし。


「いいよお礼なんて。それより今から俺用事があるからさ」


「用事ですか……なら仕方が……あっよろしければご一緒させて下さい……!」


「え、いいよ別に。ただの買い物だし」


嘘は言ってないな。うん言ってない。

それに見ず知らずの俺に付き合ってもらうのも悪いし。ってか、見ず知らずの俺についてくるとかこの女……ビッチだな。


「いいえ駄目です!お礼がだめで用事もご一緒させてくれないのは私の気がおさまりません!」


え?なんでそこ強いの?

それになんで気がおさまらないの?

ご一緒できないような用事だったらどうする気だったの?


「ふぅ。分かったよ。じゃちょっと付き合ってくれ」


しょーがない、こういう場合はこっちが折れるに限る。

それに、長らく話すのもだるいし。


「ですから私も!……ってえ?あっはい。ご一緒させて頂きます」


俺の了解を得たのが嬉しいのか三次元美少女は満々の笑みだった。

ビッチ確定だな。



「お買い物ってどこでするんですか?」


俺が目指しているアニメショップはもう近くなので三次元美少女と並んで歩く。

最初はぐんぐん前を歩いていたのだが、何とか俺に追いつこうとする三次元女が滑稽に思えたため仕方なく並んで歩く結果になった。

どうして気を使わなきゃいけねーんだよ!


「アニメショップ」


「アニメショップですか〜私行ったことないんですよね。どんなものが売ってるんですか?」


俺のアニメショップという言葉に素で返す三次元女。

以外だ。

普通の女の子ならうわ~みたいな反応をすると思ったのに、この女はそんな素振りすら見せなかった。

いや、もしかしたらこの三次元女もアニメとかが好きなのかもしれない。

ないか。こんな美少女と言う言葉が似合う女の子がアニメとかを見るはずがない。


「フィギュアとか、ポスターとかかな。あとは行ってみれば分かる」


「そうなんですか?」


なんせ売ってるものは多種多様だからな。

口で説明するより実際に見てもらった方が早いだろう。



「おっあんま人は居ないな。これなら買えそうだ」


アニメショップにトコトコと歩いてつき、俺は嫁の発売の列であろう列に並んだ。


「これはなんの列ですか?」


三次元美少女と一緒に。


「限定グッズ発売の列だよ」


「そうなんですか?ところでどんなアニメが好きなんですか?私はワン〇ースとか好きですよ?」


へー。いかにもお嬢様みたいな三次元美少女なのにワン〇ースとか見るのか。

俺の好きなアニメね。


「変態〇子と笑わない〇」


「むぅ……変態な王子さんと笑わない猫さんの話ですか……興味深いですね……ワ〇ピースとどちらが面白いでしょ……?」


多分万人受けするのはワンピ〇スだろうな。

へ〇ねこは内容がしばしあれだし。


三次元美少女は目をキラキラとさせて店内を見渡す。まだここは1階だからなそんなディープな物は置いてないし、普通に物珍しいんだろうな。こういうとこ来たこと無いって行ってたし。


「店の中見てていいよ。俺はあとちょっと並べば買えるし、一緒に並んで貰うのも悪いし」


「いいんですか?ではお言葉に甘えて」


キラキラと目を輝やかせながら三次元女は店内を見て回りに行った。



「お待たせ」


嫁を受け取り、ジ〇ンプ系のアニメが発売されているところに佇んでいた三次元美少女のところに向かって声をかける。

真剣に見ていたせいか、声をかけるのが若干ためらわれた。


「ちゃんと買えましたか?」


「もちろん」


俺は手に提げている袋を軽く持ち上げて買えたことを伝える。


「そうですか!良かったですね!」


別にそこまで喜ばなくても。

中身はそのあれだし?


「それ欲しいの?」


「え?あっいやべつに欲しいとは……ただ可愛いなって……」


「じゃそれ買ってあげるよ」


「い、いえ!ほんとに可愛いなって思ってただけで、それに買ってもらうのも……私はなんもお礼してないのに」


「ポイントが溜まったからそれで。使わないと消滅するし。それにお礼はほんとにいらないから」


「いや、でも……」


「いいから」


そんなに欲しそうな目をしてたらスルーできる筈がないじゃないか。そのワンピー〇のトナカイのキャラクターのストラップ。この店限定のやつ。

ちょうどポイントもあるし、嫌な思い出だけにはしてもらいたくはないしな。アニメショップを。



「はい。どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


俺から受け取ったストラップを大事そうに見つめ握り締めている三次元美少女。いい顔だ。……さて俺との関係も終わらそう。


「まだ買いたいものがあるからついてきてくれる?」


「はい!いいですよ」


俺は三次元美少女を誘い、店の2階を目指す。1階とは違い。ディープな物を置いてあるフロアへ。けっこうガチめなオタクグッズが置いてあるところへ。

ガチなオタクグッズを見ればこの三次元女もさすがにうわ~ってなるだろ。

そうすれば、必然的に引かれて俺とのかかわりを持とうとしなくなるはず。

さぁ帰るんだ。君のいるところに三次元女。

君にはまだというかこのステージは早すぎる。


一歩、また一歩と階段を登っていく。

そして辿り着く。


「これは……」


三次元美少女から漏れる驚嘆の言葉。


それもそうだろう。目に飛び込むのは衣服が所所破け、それでも大事なところはうまい具合に破れておらず、半泣き状態の二次元美少女のポスターがあるんだから。


「俺はこういうのが好きなんだ」


真実だけを言う。この三次元美少女が俺とはかかわらなくなるように。


「さっき買ったグッズもこういうの」


三次元美少女から声はない。当然か。今はだいぶ引いていて声すら出ないだろう。


「出来れは俺は二次元の美少女達と恋をいや、結婚したいとまで思ってる」


自分で言っててキモイな。いやこれは俺の本心だキモくなんかない。キモくなんかないぞ。


「どうして結婚したいと思ってるのですか?」


「どうしてって、え?」


あれ?普通に返答されたんだけど。純粋に疑問を抱いてる目をしてるですけとこの三次元美少女。あっれー?引いてないぞ?


「ど、どうしてってそりゃ……」


「それは?」


「……いつ見ても可愛いし夢があるし希望があるし、や、やりたいとも思し……それに」


「それに?」


「……裏切らないから」


沈黙。沈黙だ。

これだけ聞いたら俺はただのキモオタだからな。

さすがに引いたか。


「……そ…んな……い…くだ……よ」


「え?」


「そんな可哀想なこと言わないでください……!」


可哀想?俺が!?


なんかよくこの三次元美少女の目を見ると慈愛に満ちてるんですけど……


「分かりました」


三次元美少女は一人で頷くと指を俺に向け宣言した。


「私がそんなことはさせません!犯罪を犯さないように私が見張りますからねっ!」


「いや、犯罪はやらない……とは言いきれないけども!!」


「大丈夫ですよ」


三次元美少女はそっと俺の手を握り


「真っ当な人間に私がさせますから!」


と満面の笑みで言った。



「どうしたんですか、瀬尾くん?」


三次元美少女もとい、篠原が俺の顔を除きこみながら聞いてくる。


形のいい唇といい、スッキリとした鼻といい、万人をも吸い込むくらいの魔力を持った瞳といい……ほんとに二次元なら良かったのに……


「……はぁ」


「失礼ですよ瀬尾くん?人の顔を見て溜息をつくなんて」


「おっとたしかにそれは失礼だな。めんご」


「ちょっと古くないですかそれ?」


「何言ってんだ。今一番ホットな言葉だぞ」


「それは違うと思いますけど……。でどうしたんですか?」


「いや、初めて篠原に会った時のことを思い出してた」


「私と会った時?懐かしいですね。もう1ヶ月も経ちますね」


「地獄の1ヶ月間だったけどな。俺にとっては」


「もう、失礼ですよ?」


まさか、篠原が同じクラスだとはあの時知らなかったしな。それにリアルお嬢様ってのも。



俺は放課後に篠原に捕まっていらい篠原と下校している。今日は一緒に下校しているけどいつもならしない。だってそうだろ?俺みたいなキモオタと帰ってるところをほかの連中に見られたら篠原が困るからな。


「あっそうだ」


「どうしました?」


「今日は俺の彼女にプレゼント買わないと」


バタ


おいおい鞄を落とすなよ篠原。

それにどうしたんだ?顔が真っ青だけど。


「おい、鞄」


鞄を拾い上げ篠原に手渡す。その時スマホに前買ってあげたストラップが付いてるのが見えた。

ちゃんとつけてるのか……照れくさいななんか。


「あっえ、ありがとうございます」


「どうしたんだ?顔が真っ青だぞ?」


「彼女って……」


「ん?あぁ彼女?ちょっと待て今見せてやる」


俺はポケットからスマホを取り出し、慣れた手つきでギャラリーから画像を呼び出す。

うん。今日も俺の彼女は可愛い!!


「ほれ」


「なんだ二次元の人ですか」


「なんだとはなんだ。見ろよこの真っ直ぐで艶やかな黒髪!」


「はいはいすごいですね~」


「おいよく見ろって!俺は彼女と真剣にお付き合いを……!!」


「嫁がいるんじゃありませんでしたか?」


「……嫁の許可は貰ってる」


「寛大な奥様ですね」


目が笑ってないんだけど。……怖すぎる。


「というわけで俺はこれからアニメショップに行かなければならない!」


「いいえ、その前に瀬尾くんは私と一緒に病院に行きましょう!」


「……」


「……」










「さらばっ……!」


「あっ待ってください!」


ここは逃げるが勝ちだ!とりあえず逃げよう!


でもプレゼント(グッズ)も買わないとならないし……篠原を撒くがてらアニメショップを目指すか。


なら近道だな。普段はあまり通らない道を……


ちっ先客がいる!でも引き返せないしな。道を譲ってもらおう。


「……道……開けて……くれない?」


走ってたせいか上手く喋れないなでもちゃんと伝わっただろう。


『あっ!!すんせん!!もうほんとにこういうことはしないですっ!!』


と言う言葉を残して去って行く先客達。


「なんだったんだ?」


まぁいいかなんか知らないけど道を譲ってくれたというか居なくなってくれたし。


これでアニメショップにむかえる。


「あの!!」


再び歩きだそうとした瞬間、声とともに腕を掴まれる。


「ん?」


振り向くとそこには……



「助けてくれてありがとうございます!」


茶髪の三次元美少女がいた。


「へ?」

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