第4話 性癖と優先事項

「長々と澄まない。だけど、開店前には話して置きたいんだ。

皆…俺にこれからも付いて来てくれるか?」


いつも以上に真面目に。


「…翔、はっきり言うべきですよ。」


溜め息混じりにたしなめる。


「だな。勿体ぶって悪い…。俺は『お嬢様』の味方でありたい。

オーナーは尊敬すべきだが、少し身勝手な部分がある。

本気で可愛いと思いながら、ご自分で育てていなかったことが分かった。秘書である奥様も然り…。

オーナーの望む通りにはしよう。

だが、あくまで『お嬢様』側に立ってだ。

俺はそうしたい。皆はどうだ?」


じっと皆の返答を待つ。

えみる本人に会う前から、オーナーに依頼された時にはもう考えていた。

しかし逆に考えれば、オーナーの意に反してしまう恐れがある考えだ。

不安と信念の葛藤渦巻く。


「…翔は信念を持ってやってる。間違ったことは無かったはずだぜ?

で、細かいことは報告しないつもりだろ?」


ニヒルに笑って見せる。


『オーナーにウソはつかないが、真意は伝えない』。騙しはしないってことですね。」


あかりはいつも通り回りくどい翔をフォローしてくれた。

他の面々も頷いてくれる。

離れた場所で高多さんたちが微笑む。

一人じゃない安心感を感じた。


「…そういうこと。多分、オーナーはお嬢様に何も言っていない。

俺にも詳しくは言っていない。

…嫌な憶測だが、オーナーにとってお嬢様は手放したくない人形なんだろう。

ものを言わぬ人形なら扱いについてとやかく言えない。

だけど、お嬢様だって人間なんだよ…。

俺は…そう思った原因はお嬢様の言葉とオーナーのもう一つの頼み事の接点を憶測ながら見つけてしまった。

ただ…ただオーナーの言う通りに出来る『人形』で在りたいが、俺も人間なんでね。」


「ほら、また遠回りする。」


またたしなめられる。


「わかったよ…。お嬢様に付き添って一番気に入られた者は彼女の専属になって貰う。

悪いがホストは辞めて貰うよ…。行く末は…井出山避けの婿養子にするそうだ。

流石に強引なので突っ込んで見たところ、折れてくれたよ。

『相思相愛』でない限り、『専属』のままでも構わないと言ってくれた。

まぁ、『婚約者のふり』はしなければならないだろうけど。

問題は…お嬢様に然程男性に免疫がないことだ

ゲームや漫画、小説やアニメにドラマ、バラエティでしか知らない。

酷い…干渉ぶりだね。その枠を壊せるだけの人材となると俺でもわからない。

…うちのメンツは皆個性的だけどね。」


一気に全てを話す。

分かりやすく言えば、全員がライバルになる。


「…翔さぁん、良い意味に聞こえないっすよぉ。

お嬢様の『彼氏』を俺たちから選ぶとかそんな感じっすかね?」


あまり考えない頭をフル回転させる。


「良くも悪くも個性的にはかわりないですね。

ふむ、えみるお嬢様とお付き合い…。悪くないですね。

いや、寧ろいい…。全てを擲ってでも守る価値はありそうです。」


俄然やる気モード。


「誰一人被らないな、面白いくらいに。

俺はどちらに転んでも構わないが、まぁ悪くはない。」


珍しく興味を抱く。


「ああ、確かに…。真聖さんは何か悟ってる感じだし…。

俺もえみるんは大好きだし、年上でもオールOK!」


雑だが参戦する気は満々だ。


「な!えみるんな上に、ドストライク!負けないですよ!」


チャラ男、迷わず参戦。


「…観戦の方が楽ですけど、えみるんなら話は別ですね。」


まさかの太騎まで。


「………皆さん、俺をお忘れなく。同じ世界に生きる俺こそがえみるお嬢様に相応しい!

年上キラーに死角なし!年上で可愛い、しかもえみるん!正に運命!

まるで二次元から三次元に降臨せし女神は渡しませぬぞ!」


何故か年上にモテるヲタクバカ一代。


「俺からしたら、あかりが一番不思議だぜ?」


「僕は敵を作らないだけですよ。」


後輩たちの発言など聞いていない。


「…俺も逃さないよ?」


その一言に皆一斉に翔を見る。

皆、ホストをやめることには未練はないらしい。


「…忘れそうになりましたけど、翔さん。」


一番白熱していない理が口火を切る。


「翔さん冷静だけど、わざとスルーした『巨乳』ワード…。」


「ええ、えみるお嬢様はかなりの巨乳でしたね…。

スタートが違いますよ。既に翔はオーナーと話した時点で開始していたはずです。」


皆がじと目で翔を見た。


「嗚呼!既に好感度クエストは開始されていたのか!

お客さんにもバレない巨乳センサー!

一度見たらインプットして好感度をあげ、トップを駆け抜け……ぐぅ!」


勇斗の暴走は翔本人により口を塞がれ、制止された。


「…アホか。確かにお嬢様が巨乳と聞いて舞い上がらなかったわけじゃないが、オーナーのご息女に失礼にならないようにしていただけだって。

だから、『口説くな』よ?

皆ファンでも、ヒフティヒフティでいくつもりだ。

あくまでお嬢様からのアプローチがあるまで素振りはみせないこと!それと星兎!」


性癖を真顔で言い切り、更に自らも含め牽制する。


「え?俺ぇ?な、なんすか?」


名指しでビクッとした。


「趣味のナンパは禁止。」


一刀両断。


「趣味って…そんな…。」


愕然とする。


「自業自得だ…。」


「おまえまでぇ…。」


星兎は半泣きになりながら、相方にすがりつこうとして……避けられた。


「何を言っているんですか。お嬢様に誠意を見せることが大事なんですよ。

……出来ないなら、リタイアなさい。」


笑顔で一蹴する。

項垂れる星兎。素晴らしきorzの図。


「そういうこと。」


翔はそういうとカバンから書類を出し、皆に配った。


「そこにはお嬢様のデータがある。一言で言えば、『オタク』だな。

ま、ラジオで言っているから判ることだが…。

再度確認をしてお嬢様を楽しませていく。

無理を通すな。…何か引っ掛かるしな。

それが何かまだ俺にもわからない。

抜け駆けするな、二人一組で制御しろ。

わかったか?……じゃぁ、終わりだ。長々とありがとう。」


話終わり、ソファに深々と沈み混む。


「…翔、ちょっといいですか?」


皆が各々動き始めてすぐに声をかける。


「…なんだ?」


「どうも…気掛かりなんですよ。

オーナーの思惑や井出山の件と…オーナーが娘の歳を忘れるっておかしくないですか?」


ずっと気になっていたことを口にする。


「俺も…そこも気になってたんだ。」


軽く起き上がる。


「ホストなら女性の扱いが上手い、だけではどうもしっくりこないんですよ…。」


「…ホストに執着していることは気になって調べてみたんだ。ま、直ぐにわかったけど。」


「え?なんです?」


「あの人、元ホストだそうだ。

ものの数ヶ月でNO.3まで行ったが、5、6年居ても上の二人には敵わなかったらしい。」


「いますよね、伸び悩む人。」


恩義があっても容赦ない。


「まぁな。ここでは然程差がないから気楽だけど…。」


フォーリーフクローバーはホスト界の中でも上位に位置しながらも、アットホームな店として有名だ。

順位はあれど、基本的に入った順と変わらない。


「なんで辞めたんです?」


「元社長、今は亡きご隠居に止め刺されて泣く泣く跡継いだんだとさ。

トップになったことで、まとまった資金が出来て…。

俺たちを一人一人探して設立に漕ぎ付けたそうだ。」


「未練って怖いですね。あ、だから…ですね。」


「…だろ?俺の考え分かっただろ。」


「『自分が素性を把握していて弱味を握っている相手なら自分の思い通りになる』。」


「…びっくりさせるなよ、真聖。まぁ、そうだが…。」


まさかの真聖の乱入に驚く。


「『弱味を握っている』と言うのは…、『自分に恩がある』に言い換えましょう。」


「そう、誰が当たってもあの人は損をしないに代わりない。」


「…駄目なら配下を使うだろうぜ。」


雷を受けたような面白い顔になる二人。


「そうなると俺たちはお嬢様を助けられないな…。」


「助ける…?どういうことですか?」


「それについては追々話すよ。

取り敢えずは、お嬢様の味方するには権限が移らないように尽力するだけだな。」

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ボディーガードはホスト 姫宮未調 @idumi34

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