第3話 触手楽園



 最強の空手少女と謳われた大山益美が、あられも無い姿で道場の中央にて横たわっていた。

 幾度となく失禁を繰り返し、益美の周りには汗と尿による大きな水溜りが出来上がっていた。


 触手拳の餌食となり、小一時間弄ばれた憐れな少女の末路である。


「くくくくっ…素晴らしい!素晴らしすぎるぞ、触手拳は!」


 岸は自ら生み出した触手拳の無敵さに、只々酔いしれていた。


「まさに最強!触手拳こそ最強の格闘技と呼ぶに相応しい!そして触手拳の唯一の使い手である俺こそ、最強の格闘家!これから格闘界は荒れに荒れまくるぞ、この岸ベシローを中心にな!」


 空手界最強の益美を討ち取り、これより格闘界に大旋風を巻き起こさんとする岸。

 もう誰にも止める事は叶わないと思われる、岸の覇業への第一歩。

 それを踏み止めたのは他の誰でも無い、触手拳の最初の餌食となった益美であった。


「…に、逃げるのか?」


 道場の出口へと向かう岸の足がピタリと止まる。


 立つこともままならない益美の惨めなまでの挑発が、必死に岸の後ろ姿に向かって浴びせられる。


「…相手を気絶させるか道場の外に逃げ出すかが勝敗を決する筈よ。私はまだ気絶していない。そのまま道場の外に出るのなら、あなたの負けね」


 益美の挑発を受け、振り返る岸がニヤリと笑う。


「ほう…我が奥義『触手楽園パライソギンチャク』を喰らい、まだその様な減らず口がきけるとはな」


 岸の放った『触手楽園パライソギンチャク』は、イソギンチャクとカクレクマノミとの共生を模して開発された、触手拳の奥義である。

 だが「共生」とは名ばかり。むしろ「強制」と呼ぶに相応しい。


 全身を触手化し、相手を触手と言う名の快楽の海へと強制的に引きずり込むのが、触手楽園パライソギンチャクの極意。


 触手の海へと引きずり込まれた者は、藻掻けば藻掻く程に触手が絡みつき、足掻けば足掻く程に体力を消耗する。

 まさに蟻地獄の如き奥義である。


 触手に責められ続けて全身の体液を撒き散らし、事切れる時には辺り一面水浸しとなる。

 陸地での溺死体。触手と言う名の快楽の海に引きずり込まれた者の、憐れな末路である。



 触手楽園パライソギンチャクを喰らい、益美は溺死寸前まで追い込まれたが、気を失う事も無く必死で岸を挑発している。



 …何故、益美は岸を挑発しているのだろうか?


 気を失った振りでもしていれば、岸はそのまま出て行ったのでは無いだろうか?


 空手家としてのプライドが、益美を死ぬまで闘わせようとしているのか?


 触手拳を打破出来る攻略の糸口を、見つけたからなのだろうか?



 答えは全て、否。


 岸は益美が気を失って無いことに気が付いていた。

 益美の空手家としてのプライドなどは、とうに粉砕されている。

 触手拳への攻略も見つけることは叶わなかった。


 それでも益美は岸を挑発する。その意味を理解している岸が、ニヤニヤと笑みを浮かべている。

 その理由とは、最初の取り決めにある。


 岸は「急所への攻撃を一切しない」と言った。


 …もう、お分かりだろうか?


 そう、岸は触手で小一時間、益美を弄びながらも、急所にだけは一切触れることすらしなかったのだ!


 想像して貰いたい。女の子が触手で弄ばれながらも、急所へは一切触れてもらえないことを。


 想像して貰いたい。女の子が幾度と無く失禁しながらも、急所へは一切触れてもらえないことを。


 想像して貰いたい。女の子が「ラメ〜!」と叫んでも、急所へは一切触れてもらえないことを。



 岸は益美が気を失った振りをして、この場をやり過ごすことが出来ないと判断していた。

 もしも気を失った振りをして、そのままやり過ごそうとすれば、それは触手拳が不完全であると言うこと。


 触手拳は相手に、触手を渇望させる事を極意としている。触手を味わい、堪能した者が触手から逃げる様では、まだまだ未熟な触手と言えよう。



 全てが岸の思惑通りに事は進み、益美が「触手渇望症」に陥った。

 そして欲求不満の末に、必死になって岸を引き止めたのである。





 岸は改めて思った。


 触手拳は正に、最強の格闘技であると!


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