捻じ曲げ念じる世界平和

@answerinlife

第零錠 だから僕は死ぬんだ。

───曇天だった。

心臓に肺に胃にそれこそ滅多刺しにされた傷の心配より

こんな天気の中で息絶える事に不満を覚えるズレた青年がいた。

その青年は、正直者だった。

殺されるほど悪い意味での、正直者だった。

正論が正義で、思う事を口に出すのが礼儀だと

心底から信じていた。


「その結果が、これかぁ…」

呆れた。

こんな死に方をする自分に。

正論さえ受け止められない他人に。


(次、生まれ変わったら殺されませんように

ただ平和に、床の間で眠るように死ねますように)

正論だけを持ち続けた青年は、その願いだけを

一心に念じ続けた。

意味のない事だとはわかっている。

死ぬまでの暇潰しで、ただの誤魔化しだと。

来世があったとして、記憶が続くはずがないのだから。


こうして、青年は息絶えた。





『─こ──すか、─覚め──さい─』

『目覚めなさい、人の子よ』


ある女神がその雲の上から息絶える青年を見ていた。

その女神は、優しい優しい女神である。

自らの世界の住民が同種族異種族関係なしの争いにより

苦しんでいる事に心を痛めるほどに。

自分には関係がないのに自分を責めていた。

あらゆる手段を講じても、それを争いに利用されて

その度に涙を流していた女神は、ある決断をした。

──突き抜けるほどの信念と揺るぎない願いを持った魂を連れていき

前以て、その願いを叶える代わりに

こちらの願いも叶えてもらおう。

途方のない旅になるのだから、それくらいはしないと。


──そうして、ズレた青年(魂)と優しいが頭が足りない女神が、邂逅する。


『聞こえますか、目覚めて下さいな』

『目覚めなさい、人の子よ』

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