生徒会室の、重要らしい備品
「おつかれさまですー」
土曜日、半ドン授業の放課後……僕はいつものように生徒会室の扉を開く。すると、目の前には、泣き顔になった小夜子会長がいた。優子ちゃんとさっちゅん先輩は、まだ来ていないようだ。
「トモ……とうとうお亡くなりになったのだ……」
「かっ……会長っ! ……だっ……誰か亡くなったのですかー?」
「テっ…… テレビがお亡くなりになったのだ……」
一瞬、誰か知ってる人がが亡くなったのかと本気で勘違いした僕が馬鹿だった。
「テレビって……生徒会室に元々あった年代物のやつですよねぇ……白黒の」
「トモーっ……テレビが映らないと困るぅ~……お昼のいいともが見られない~……」
小夜子会長が甘えた声で言う。
「はいはい、わかりました会長……今、僕がちょっと見ますから……」
僕は年代物のテレビに近づく。十四インチの小さめのテレビの横には「七〇年製」のシールが貼ってある。どうやらこのテレビは、この学校が開校した昭和四十六年以前の製造なようだ。どうりで古いはずだ。
僕はおそるおそるテレビのスイッチを入れる。ブーンと一瞬音がするが、映像は出ない。そして、ジリジリ、バチバチと音がする。
とりあえずテレビ本体を叩いてみる。しかし、映像は出ないままだ。
「会長……これ完全に壊れてますよ」
「トモーっ、なんで壊れてると決めつけるんだー?」
「だって……絵も出ないし、音も出ないし……それにバチバチ変な音するし……もしかしたら爆発するかもしれませんよ?」
「爆発ー? トモっ! バカっ! 早く逃げろっ!」
小夜子会長は本気で逃げようとする。しかも、僕を置いて自分だけ逃げようとする気満々だ。
「冗談ですよ、会長」
「トモーっ! おまえあたしを騙したなーっ!」
小夜子会長がそう言った瞬間、
「パコーン!」
いつもの「上履きチョップ」が炸裂した。
「会長~……痛いです……痛いですよぉ……もぉ……」
僕は生徒会に入ってから、いや、それ以前から小夜子会長に何かモノで叩かれっぱなしだ。
「普段カタブツのおまえがくだらない冗談言うからだっ!」
まあ、確かに僕は普段は冗談とか言わないほうだけど……それにしても、ひどい仕打ちだ。
「遅くなりましたー」
「やっほー! さよっち、トモっち」
優子ちゃんとさっちゅん先輩が、ようやく生徒会室に来た。
「おっ! 優子にさっちゅん、ちょうどいい時に来た」
「どうしたの? さよちん」
「さよっち、何かあったのー?」
二人は、当然のことながら、まだ状況が飲み込めていなかった。
「トモくん、いったいどうしたの?」
優子ちゃんが僕に聞いてくる。
「いやぁ……大したことじゃないんだけど……あのボロのテレビが壊れたみたいで」
「パコーン!」
「痛い……ですよぉ……会長……僕……何か悪いこと言いましたかぁ?」
予想外の「上履きチョップ」に、僕はうずくまる。
「おいトモっ! ボロって何だよ、ボロって! あたしの大事なテレビなんだぞっ! 生徒会室の必需品なんだぞっ!」
「だってー……本当にボロだし……それに、そのテレビ、いつから会長のものになったんですかぁ?」
「うっさい! あたしはお昼休みにあのいいともな番組を見ないと気が済まないのだっ!」
もう小夜子会長、生徒会室の備品のテレビをすっかり私物化していた。まあ、あの白黒テレビを見ているのって、小夜子会長しかいないのも事実だけど。
「しゃーない、いよいよこれを使うことになったな」
そう言うと、小夜子会長は本棚の引き出しから、手提げ金庫のようなものを取り出す。生徒会室には僕の知らないものがたくさんあるようだ。そして、
「生徒会のM資金だっ!」
小夜子会長が手提げ金庫を高々と上に上げる。しかし背が低い小夜子会長だから、それほど高くはない。
「おおーっ!」
僕を含め、みんな「一応」声を上げる。ここはみんなで「おおーっ」と言わないといけないような雰囲気なような気がしたし……
しかし……M資金? なんか昔そんな埋蔵金の話があったような……
「会長、M資金って……どっからそんなお金……まさか裏金とか?」
「いやっ、ただの去年度の生徒会予算の繰越金だっ! 残念ながら正式な予算だ」
「会長ーっ、正式な予算に変な名前付けないでくださいよぉ……」
「だーって、その方がなんかかっちょいいだろ? M資金って響きとかもなんかいいだろ?」
僕には会長の考えていることがどうも理解できない。まあ、ただの繰越金って言うより、M資金って言った方がなんか夢がありそうだけど……
小夜子会長が手提げ金庫の鍵を開ける。繰越金だからそう多くは期待しないが、こうやって金庫に入れてあるのだから、それなりの金額が入っているのだろうと、僕はちょっと期待する。そして……
三万五千円……期待は見事に裏切られた。しかし、小夜子会長は諦めなかった。
「みんなっ! 明日は秋葉原にテレビ買いにいくからな!」
僕は小夜子会長の、あまりにも唐突な発言の意味がわからなかった。何のためにわざわざ秋葉原に行くのか……
「会長、なんでわざわざそんな遠くまでー……駅前の電気屋とかじゃだめなんですかー?」
「トモっ、この手持ちの三万五千円でテレビ買えるのは、世界最大の電気街の秋葉原くらいだろーが! あそこなら三万二千円くらいからある。駅前の電気屋だったらそれより一万は高いぞ!」
僕は小夜子会長の経済感覚に何気に関心する。
「それじゃ、みんな明日の朝九時に駅前に集合なっ!」
どうやら秋葉原にテレビを買いに行くことは、生徒会の正式な活動になってしまったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます