第8話  保護団体と惑星ドラゴン

 ストライクとノスタルジアが請け負っている仕事のひとつが、惑星のある場所に集中して多く生息するドラゴンを捕まえることだった。

 ディープとファイアーがやっている仕事もそれである。

 それはまだ、ストライクとノスタルジアが実戦に頻繁に出ていたときだ。

 二人がドラゴンの視察に来たとき、後ろのトランクからクレアが出てきたときは、二人は頭を抱えた。

「だって会ってみたかったんだもん、ドラゴン」

 クレアの行動は、時に活発である。

「ついてきたものは仕方あるまい」

「ワーイパパ」

「車にいなさい、クレ……」

 そのとき、ドラゴンが森の中から木の枝を払いながら現れた。

 次に、クレアをぐぐと顔をおろして見る。

 その大きさに、慣れてはいるものの、ノスタルジアは反射的にクレアを抱きしめる。

「大丈夫。陛下、ごきげんようって」

 クレアはにこにこ笑った。

「ダッド。どうしたの」

「いや、うん」

「やはりか」

 ストライクはそう言いあったあと、お引き取り願えるか。とつぶやく。

「うん、じゃ、ばいばい!」

 引っ込んで、背中が森を分けて消えて行った。

 二人は、顔を見合わせた。

 ドラゴンとしゃべる能力があるのは、うすうす気づいていた二人だったが。

 心中は複雑だった。

 女性大統領になるとか言い出さないよな、とノスタルジアは心で思った。

 大人の女性になって普通に結婚して欲しいというのが、ノスタルジアとストライクの願いだった。

 そして、孫の顔を見るんだ。

 と、ノスタルジアが言うと、ストライクも同意し、気の早い二人はそのときに胸をはせたりするのだった。

 親ばかである。


 ディープとファイアーは、ジープで移動していた。

 ドラゴンを追いかけてのことである。

 無線で連絡をとる。

 アナログな機械というのは、ガジェットなテクノロジーよりも間違いがない。そのため、無線での連絡がとられていた。

 惑星ドラゴン。

 この星のドラゴンのことを政府はそう呼ぶ。

 ファンタジーの世界にいるような彼らが見られるようになったのは、この惑星と持ち込んだ爬虫類や哺乳類との融合実験をした誰かのせいだった。

 それが誰なのかは、今だにわかっていない。

 だが、クリーチャーたちは増えたり減ったりを繰り返しながらだんだん数が減っている、というのが大筋の意見だった。

 研究班が、ドラゴンの寿命がおどろくほど短いと話していた。

 そして。

「はーい、連絡、わかりました」

「どうした」

 ディープはとなりに座るファイアーが、無線での連絡を受けたのを見ると聞いた。

「んー、オレンジ女史風邪だって」

「風邪」

「子供がもらってきたんだって」

「そうか」

 惑星の中では、時々インフルエンザが流行る。

 予防接種をいくらしても変異するウィルスに、対抗する薬はできてはいるが、バカ高いため、人はほとんど、予防接種くらいしかしない。

 そのため、かかる人も多い。


 ちなみに、ノスタルジアとストライク、およびクレアも予防接種しか受けない。

 ひどくならなければ、風邪くらいひいても。という考えらしい。


「この大事な時期にな」

「まあね」

 ドラゴンたちが、出現しやすいシーズンなのだ。

 春は、ドラゴンたちの出産シーズンであり、子育てをするドラゴンが多い。

「その大事な時期に単位取得しろっていうのもあれだけど」

「まあ、今日はとりあえず三単位とろう、六単位で終わるはずだ」

「うん、なんか今回の受講をしておけば給料も少し上がるんだろー」

「そうみたいだな」

 二人はドラゴンの位置を連絡後、道を変えた。家路でない道に、ウルが一瞬顔を上げたが、すぐに寝てしまう。

 本部につくと、ジープを降りた。

 

 ストライクたちが住んでいる事務所の敷地にあるセンターと呼ばれている建物に入る。

 ブースが一人ずつに割り当てられていて、ディープとファイアーは隣の席に座った。

 ウルは壁際でほかの動物と同じようにおとなしくしている。

 ヘッドホンをし、画面を見る。

 保護団体LISについての基礎、対立団体のD団のこと。

 惑星ドラゴンに対しての政府の見解。

 など、まあ、今までの情報の基礎を三十分ずつ三番組見る。


「終わった」

「長かったな、意外に」

「明日も三単位とって終わりなんだよねえ」

「そうだ」

「たまにはセンターの宿泊施設使うだろー。家に一回帰るの面倒だし」

「そうだな、ウルも連れてきたし」

 二人は、組織の新しい取り組みの一番最初の受講者になった。

 後ろをウルがついてくる。

 ウルは、受講資格がないのだが、家に置くわけにもいかず連れてきた。

 クレアが歩いてくる。

「お、クレア! 久しぶり」

「ファイアー」

 走ってくると、ファイアーはクレアを抱きかかえて三周まわすと、ハグしあった。

「クレアも履修した?」

「うん、だって、今回、講義の問題半分くらい私が作ったもん」

「そうなんだ」

「そう! でも内緒よ」

「わかってるって」

「ディープ」

「なんだ、クレア」

「ファイアーと結婚したって本当?」

「どこからその話を」

「ふふふ、ウルから聞いた」

「ウル」

 振り返り、ついてきた砂狼を見る。

 彼もここの社員の一人? なので、黙って二人についてきた。

 そして首をすくめたように見えた。

「って冗談だと思ったんだけど、本当なのね」

「それはまあ」

「式はしないんだけど、籍には入ったよ」

 ファイアーが横から言った。

「残念、結婚の歌とか歌ってあげるんだったのに」

 ファイアーからクレアが離れる。

 ディープが、ファイアーを引きずっていく。

「じゃあ、クレア、今日は僕らセンターに泊まるんだー」

「そうなんだー、じゃあ」

 二人と一匹はセンターの、宿泊施設管理のほうへ歩いて行ったのだった。

 

 クレアの能力の特殊さはほかと際立っていて。

 ほとんどの動物やクリーチャーたちと話ができる。 

 ほかに能力者として雇われている人間は少数であり、詳細は発表されていない。

 ドラゴンのところにはクレア以外に数人いたが、クレアはその人たちとはあまり接触していないらしい。

 海洋人たちと話せる者や、クリーチャー専門のものもいる。

 ディープは彼らの声を聴きとることはできる。

 ある程度のことだ。

 ウルの声は聞き取りやすく、陸上動物で知性があり、自分に開かれている生き物ならば聞ける。

 断然、人間の心のほうが読みやすい。

 ただ、ファイアーは能力を使わなくても大体なにを考えているのかわかる。

 純粋で、単純なのだ。


 センターでは、一部屋を割り当てられる。

 ウルも同じ部屋だ。 

 動物を相棒にしている人も多いため、そのあたりの設備も整っている。

 ウルのトイレなどの設備のととのった個室がついていた。

 ウルは、動物用の部屋に入ると、おとなしく部屋の隅に座る。

 ディープとファイアーは、そのとなりの部屋に布団を敷いてしまうと、ディープは本を出し、ファイアーは部屋に置かれた雑誌を数冊積んで読み始める。

「あー、ここ風呂あるんだよねえ温泉の」

「そうだったな」

「入ってくる」

「ああ」

「一緒に行く?」

「後で行く。貴重品の管理があるだろう。カギはついてるが、心配だからな」

「わかった」

 着替えをもって、ファイアーが部屋を出た。

 まだこの時間にパジャマというわけにもいかないので、スウェットの上下だ。

 シンプルなつくりのセンターの宿泊施設は、地下の階に女風呂、男風呂がある。

 

 ファイアーは、まだ誰も来ていない時間帯だということに気付いて、風呂に入ってのんびりして出てきた。

 ごはんは食堂へ行けば出してくれるはずだ。

 あとでディープを誘おうと思って部屋に戻る。

 カギをあけて部屋に入ると、ディープが布団の上で眠っていた。

 そういえば今日は朝から早かったもんな、と起こさないように着替えたものをしまって、カバンに入れる。

 ウルの夕食の時間がせまっていたので、ドックフードを出して、ウルにやって、食べたのを確認して戻る。

 ディープが起き上がっていた。

「風呂入ってくる? 食堂でごはんにする?」

「ごはんにするか」

 おなかがすいた。と、ディープが言う。

「髪はねてるよ」

 言いながら、ファイアーはディープの髪に触れた。

「ん」

「櫛持ってくるよ」

「ああ、ありがとう」

 寝起きのディープってめったに見られないけどかわいいよなーと、ファイアーは思う。

 そして櫛を持ってきて、渡す。

 ディープは髪をとかし、そのあと立ち上がった。

「さて、行くか」

「うん」

 貴重品をもって、部屋を出た。


 食堂はほどよく混んでいた。

 今回の受講の生徒もいるようだ。

 ドラゴンに興味があってこの団体に入りたがる人は最近増えたようで。若い顔も多い。

 二十人くらいだろうか。

 試験があって、面接があって、入れるかどうかの適性はそのときにノスタルジアとストライクが判断する。


「今回テストに踏み切ったのってなんでなのかな」

 ファイアーが、ごはんをかきこみながら言う。

 天丼という食べ物らしい。

 一回か二回ディープが作ったことがある。

 天ぷらにしたあとに味のついた液体をごはんにかけて乗せて食べるものだ。

 ファイアーもいろいろ食べるうちに、コースや懐石でのごはんと、家で作ってくれるそういったもの、いろいろ好きになった。

 ディープは、あの細い体で、なんでそんなに食べるんだろうという量を食べる。

 筋肉のあるファイアーも食べるが、それより二倍ほど食べるのだ。

 今日も、天丼のほかにうどんというものも食べていた。

 それもすり鉢状になった大きなうつわにいろいろ入っている、カレー風味のうどんだ。

「それおいしいの」

「ああ、きらいな味ではないな」

 ディープは、どうも日本人の多いところで育ったらしく、和食と呼ばれたものを得意とする。

 もちろん移民がいろんな文化を持ち込んでいるため、簡単に和食でもないのだが。

 いろんな店が中央都市にはある。

 彼らの住んでいるのは田舎だが、食べものを買いに出るときに、レストランに行くこともあった。

「今日は食べてゆっくりしてさ、明日三単位とったらウルとすっ飛ばして中央都市でランチでもする?」

「そうだな」

 ディープがそう答えるのだった。


 LISは保護団体であり、惑星ドラゴンに関しては政府ともつながりがある。

 そういった入り組んだ内容の授業を二日目に受けて。

 そのあと、二人はウルを連れてごはんを食べに出かけた。


 D団のドラゴンを消滅せよ、の服を着た男たちが集会を開いているのを横目に見ながら。

「ねえ、ディープ」

「なんだ」

「なんで、人は信じるものが違うと争うんだろうね」

「さあな、他人が自分と違うのが許せないか、自分の信じているものが一番だと思っているか、他人が違うものを信じると自分を否定されていると勘違いするか、どれかだろうとは思うが」

「そうだね」

 二人はそう言いながら、犬OKのテラスで、もとは地球のハワイ料理だったとかいう店に入ってごはんを食べるのだった。

 

 

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