第4話

 姪と母親を車に乗せ、私はある場所へ向かっていた。

 昨日夢で見た場所。あれは私の勤めている会社の近くの川だった。

 その川の横には、大きな桜の木が一本立っている公園がある。私は事務所の二階から見えるこの桜が大好きで、花を咲かせる季節でもそうでなくても、いつも見ていた。

 夢で見たこの川に行くのは、姉を捜すためではない。姉がいないことを確かめるために――だ。

 姪たちが歌うアニメの主題歌を聞きながら車を走らせていると、桜の木が見えてきた。それを見ながら川の近くまできたとき、川べりに停まっているパトカーが見えた。


 またあの感覚――首の後ろが熱くなる


 痛みと悪い想像を振り払うように頭を振り、パトカーの側に車を停めた。すぐに戻るからと言い置いて母と姪たちを車に残し、私は川に向かって走り出した。

 すでに何人かの人が集まってきていた。その間をすり抜けるようにして追い越し、川岸に辿り着いた私が見たものは――。

 川面にうつぶせに浮かび、揺れている姉の姿だった。


 ゆっくりと私が近付いたときには、すでに消防隊員数人で姉を川から引き上げてくれているところだった。

 やじ馬を近づけないように立ちはだかっている警官に、「すみません。もしかしたら姉かもしれないので……あの――」と告げると、驚いた様子で近くまで連れて行ってくれた。

 川から引き上げられ、仰向けに寝かされた遺体。それは間違いようもない、私の姉だった。

 姉の腹部には、何かで刺された跡があるという。


 これは……夢?


 警官が私に向かって何かを話しているが、理解できない。


 私はどうしたらいい?

 このあとどうなる?

 このあと――


「あっ!」

 慌てて振り向くと、そこには車から降りた母が崩れ落ちそうになっており、そばにいた見知らぬ誰かに体を支えられていた。

 その脇から、私の姿に気付いた姪たちがこちらに向かって走り始めた。と同時に、私も車に向かって走り出していた。

 もつれる足がうまく動かず、手で大きく空を掻く。スローモーションのような動きがもどかしく、しかしできるだけ姉から離れなければと、その一心で必死に走った。

 私は走ってきた姪たちを抱きとめて叫ぶ。

「見ちゃだめっ!」


 目は、覚めなかった。



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