パレットなSummer Festival!(11)

「ほのか、今何時?」


 玄関に腰を下ろし、かかとを靴の中にしまいながら訊ねる。

 靴ひもを結んでから顔をあげると、ほのかが腕時計を見つめているところだった。


「もうすぐ十二時だよ」

「じゃ、そろそろだね」


 約束の時間まであと少し。

 もうじき、あさぎちゃんを乗せた車が家の前に止まる筈だ。

 あたしはじっとしていられずその場で立ち上がった。


 どうせなら外に出てあさぎちゃんの到着を待っていてあげたい。

 せっかく遊びに来てくれるのだから、一番に彼女を迎えるのが家の壁というのは嫌だった。


 けど、外は水を撒いた端から蒸発させてしまうような夏模様だ。


 あたし一人ならともかく、ほのかを一緒に待たせるのは悪いなと思った。

 だから、彼女にここで待っててと伝えた後、一人で外に出ようと考えていたのだけれど……。


「ほ、ほのかっ?」


 あたしと目が合った途端、ほのかが玄関戸に手を添えたので驚きが声に滲んだ。


「ん? なんか違った? 私てっきり、あさぎちゃんを外で待っててあげるんだと思って」


 その後、ぱっと玄関戸から手を離そうとする親友に、あたしはぶんぶんと首を振る。


「やっ! 違わない! 違わないんだけど……その、いいの?」


 『別に付き合ってくれなくてもいいんだよ?』

 なんて、とても口に出せずに言葉を濁すと、ほのかは「何が?」と首を傾げた。


「ほら。外、暑いしさ? ほのかは中で待っててもいいんだよ?」


 直後――。

 ガラッと音が鳴ったかと思えば、外から入り込んだ夏の空気に勢いよく体を撫でられる。

 『暑い』と、声にはならなかった吐息が漏れる中、気付いた時には開け放した戸を背にするほのかに手を差し伸べられていた。


「何を今更、私だよ? こういう時は一緒に待ってて、くらい言っていいんだから」


 はにかみながら告げる彼女は「それにね」と優しく付け足す。


「私も、あさぎちゃんを待っててあげたいの。だから、さ」


 それから、ほのかはあたしの手を引いて、夏の日差しの中へと影を落とした。





 軒下がつくる狭い影に二人分の体を押し込み、手で顔を扇ぐ。

 滲む汗を濡らしたハンカチで拭いながら「そろそろかな」と、あたし達は互いに口にした。

 そして。


「あっ」


 近付いて来る一台の車に声をあげる。

 解放されていく窓から身を乗り出す人影が見えると――。


「浅緋お姉ちゃーんっ! ほのかちゃーん!」

「「あさぎちゃーんっ」」


 ――あたしとほのかの声が重なった。

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