第3話「わたしメリーさん……顔がズゴックそっくりなクラスメイトに彼氏ができて焦ってるの」

「ザオロル!」

(しかし えにくすは いきかえらなかった)


「ザオロル!!」

(しかし えにくすは いきかえらなかった)


「ザオロル!!!!!」

(しかし えにくすは いきかえらなかった)


 ボロクソになった玉座の間に、僧侶の唱える蘇生呪文だけが響き渡る。

 中レベルの僧侶の唱える蘇生呪文の成功確率は半分と言われているが、絶対にそれ以下だと思う。

 つーか、死んでも簡単に生き返ることが可能な世界観は緊張感がない。

 ほら、


「数週間前、異世界から『テケテケ』という妖怪がトリップしてきたのじゃ……」


 さっき死んだハズの国王陛下が、蘇生呪文で復活して、ふつーに喋ってるし。

 でも、弾丸で撃ちぬかれた王冠はぶっ壊れたまま。

 冥介は、国王に問いただした。


「老人に聞こう。てけてけについてだ」

「テケテケは、下半身がなくて上半身だけで生きる美少女の妖怪なのじゃ」

「俺も耳にしたことがある――ある冬の寒い日、列車だかトラックだかに轢かれて上半身と下半身が轢断された少女がいた。その少女は体を2つに分断されたにも関わらず、寒さで血管が収縮したために即死できず、もがき苦しんで死んだという。その少女の怨霊が都市伝説――テケテケの正体というが」

「そうじゃ。テケテケは失われた下半身を探し求めておる。実際に被害者の声を聞いてみるのがよいじゃろう――少女A、こちらへ来るのじゃ!」


 王の呼びかけで。

 町娘風の少女が、玉座の間に足を踏み入れる。

 否、足は踏み入れてない。

 町娘風の少女に、足はないから。

 あるべきはずの下半身が、どこにも見当たらないのだから。

 上半身だけの町娘を眺めながら。

 メリーさんと井戸娘は、ポツリと呟いた。


「ジオング」

「足なんて飾りですよ」


 好き勝手にコメントを述べる、異世界の都市伝説少女たち。

 下半身のない町娘風のジオングは、ナミダ混じりにテケテケの説明を始めた。


「うぅぅ……わたしは町娘の「すくえあ」と申します……」

「そこの女。下半身はどうした?」

「取られました……街を襲撃したテケテケに……」

「ねぇ、トイレとか――」

「しっ! メリーちゃん、それ聞いちゃダメなことよ!」

「でもぉ」

「うぅぅ……テケテケは、処女の下半身だけを奪うんです……」

「処女厨の都市伝説とは奇異だな。説明を続けろ」

「テケテケの目的はひとつです……自分の上半身とマッチする下半身を探しているんです……」

「読めたぞ。俺が貴様らに召喚された理由が――」


 冥介が国王を睨むと、


「すまんかった。こちらの世界の少女の下半身はテケテケに合わないようで……ならば、テケテケがいた元の世界――異世界人の下半身ならと思ってのぉ……」

「異世界人を召喚することは可能だが、性別指定までは無理だったというわけか」

「そうじゃ。キミが出てきた瞬間、玉座の間に「あー、これ失敗だよ」という嫌な空気が流れてのぉ。それでワシが場の空気をなごませようと、会心のギャグ『よく来た勇者よ。そして死ね!』を放ったら」

「俺に射殺されたというわけか」


 先ほどの死者数十名を数えた乱闘騒ぎは、どうやらギャグの不発に起因する事故だったらしい。

 冥介は、しばし思案する。

 そして、


「メリー。貴様は地球に帰還しろ」

「えっ? いいの?」

「ただ戻るだけではない。貴様には仕事を与える。俺が指定するものを地球で探して持って来い」

「いいけど……」

「あと、姫君。貴様にも仕事を命じる」

「わたくしには、ちゃんと『キャロル』という名前がありますわ!(プンプン)」

「ならば、キャロルに命じよう」

「な、なにをですか?」

「ベットのシーツを整えておけ」

「きゅんっっ!? そ、それって……ま、まさか……(推定:Eカップ)」

「今夜、貴様のベッドルームを汚してやる」

「ぶっっっ(鼻血が出る)」

「風呂の用意も怠るな。湯船に花びらを散らすのも忘れずにな」

「はい……キャロルは、冥介様のご帰還をお待ちしております(口からヨダレ)」

「このスケベがァ……ッ」


 イラつきを隠さないメリーさんが、まぶたを閉じて念じる。

 異能が発動して、姿を消す。

 その時、


「陛下に報告です! テケテケが! テケテケが王都の市街地に!」

「市街に行くぞ。井戸娘、俺についてこい」

「はいです。お付き合いしますよ」


 純白の学ランを翻して、いざテケテケの討伐に向かわんとする。

 その背中に、町娘ジオングは言葉を投げかけた。


「テケテケは異世界の恐ろしい兵器に乗っています……どうかお気をつけて」

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